6つの香料が「赤い果実のシロップ」にまとまる

6つの香料が「赤い果実のシロップ」にまとまる 香りの科学

一つずつ嗅ぐと違う香りなのに、混ぜると「赤い果実のシロップ」を思わせる一つの香りになる。2013年の研究は、こうした6成分の混合物を使い、香りのまとまりが、材料の種類と配合比にどう左右されるかを調べました。

人では、バニリンを抜いたり、全体の配合比を大きく変えたりすると、元の混合物とは異なる香りに分類されました。さらに、生まれたばかりのウサギでも、材料や配合によって混合物への反応が変わりました。研究の主題は、人とウサギに共通する「全体を一つに感じる仕組み」と、その違いです。

6成分が、一つの香りのまとまりをつくる

対象の混合物は、バニリン、フランビノン(ラズベリーケトン)、酢酸イソアミル、β-イオノン、酢酸エチル、β-ダマセノンの6成分です。一定の比率で混ぜると、人には赤い果実のシロップを思わせる香りになることが、先行研究で示されていました。原著では、この混合物をRCと呼んでいます。

今回の問いは、RCの香りが材料それぞれと異なるまとまりになるか、そのために全成分が必要か、配合比を変えるとどうなるか、というものです。同時に、別の6成分混合物も比較し、単に材料が6種類あるだけで同じことが起きるのかを確かめました。

人は、名前を当てずに似た香りをまとめた

人の本試験には、香りの専門訓練を受けていない成人198人が、73人、52人、73人の3群に分かれて参加しました。各課題で7〜9試料を嗅ぎ、似ているもの同士を自由にグループ分けします。最初から「赤い果実」と答えさせる課題ではありません。

試料は記号で示され、参加者は必要に応じて嗅ぎ直せました。分類結果から、近くにあるほど似た香りとしてまとめられたことを表す図を作りました。予備試験では強度も調整しましたが、すべての試料の強さが完全に一致したわけではありません。分類の説明には、強さより香りの質に関する言葉が多く使われました。

RCは、その単独成分とは離れた位置に分類されました。一方、比較用の二つの6成分混合物は、いくつかの単独成分に近い位置でした。材料が6種類あることだけで、元の香りから離れたまとまりが必ず生まれるわけではなかったのです。

バニリンを抜くと変わり、配合を大きく変えるとさらに変わる

RCから一成分ずつ抜いた5成分混合物を比べると、バニリンを抜いたものが、元のRCから特に離れました。フランビノンを抜く影響も比較的大きく、酢酸エチルやβ-イオノンを抜いた場合は元のRCに近い位置でした。同じ「一つを抜く」操作でも、どの材料かによって影響が異なります。

配合比も重要でした。すべてを同じ割合にしたり、大きく比率を入れ替えたりした混合物は、元のRCと離れた香りに分類されました。比率を大きく入れ替えたものは、バニリンを抜いたものよりもRCから遠い位置でした。

ただし、小さな変更には耐える余地もありました。β-イオノンを減らして酢酸エチルを増やした条件は、元のRCと重なる位置にありました。少し配合を動かすたびに別の香りになるというより、まとまりを保てる範囲と、崩れる変更があったといえます。

ウサギでは、覚えたにおいへの反応を調べた

ウサギの試験では、99匹の母ウサギから生まれた子ウサギ382匹を使いました。条件づけが成立したと判断できなかった42匹を除いて解析しています。

生後1日目に、授乳に関係するフェロモンと試験臭を5分間一緒に提示して覚えさせ、翌日に試験臭だけで口や頭を動かして探す反応が出るかを調べました。各個体は一つの実験に参加し、少数の試料を順序を入れ替えて提示されました。

RCの一成分だけを覚えたウサギは、その成分単独には反応しましたが、RC全体にはほとんど反応しませんでした。ところが、同じ成分を含む別の6成分混合物にはよく反応しました。RCでは、単に知らない成分が加わった以上の変化が生じていると考えられます。

全体を覚えると、材料にも反応するという非対称性

逆向きの学習も試しました。最初にRC全体を覚えさせると、翌日にはRCだけでなく、単独で提示した各成分にも高い割合で反応しました。つまり「一成分を覚えると全体には反応しにくい」のに、「全体を覚えると各成分にも反応する」という非対称な結果です。

著者らは、子ウサギが混合物のまとまりを捉えながら、材料の情報も同時に保持していると解釈しています。RCがウサギにも赤い果実のシロップとして感じられたかを調べた結果ではなく、学習した情報がどの刺激へ広がるかを通じて、混合物の処理を探ったものです。

また、一成分を覚えた後の試験では、RCから別の一成分を抜くと、どの成分を抜いた条件でも混合物への反応が高まりました。配合比を均等にしたり、大きく入れ替えたりしても反応が戻りました。一方、小さな比率変更では反応しない条件もあり、人の結果と重なる傾向が見られました。

似ている仕組みと、同じとはいえない課題

人と子ウサギに共通していたのは、RCという特定の混合物が材料単独とは異なるまとまりを持ち、そのまとまりが成分の種類と配合比に依存することでした。人では一成分除去の影響に大小があったのに対し、ウサギでは反応の有無という指標上、どの除去でも大きく変わりました。

この違いには、種だけでなく、発達段階や課題も関わり得ます。人は似ている香りを分類し、ウサギは授乳に結び付く条件づけを受けました。反応あり・なしという測定では細かな感覚の差を捉えにくいことも、著者らは指摘しています。人も同じ条件づけを受ければ材料を捉えやすくなるかは、残された問いです。

まとめ

6成分のRCは、人には材料単独と異なる香りのまとまりとして分類されました。バニリンの除去や大きな配合比の変更は、そのまとまりを変えましたが、別の6成分混合物や小さな変更では同じ結果になりませんでした。

子ウサギでも混合物の種類と配合に応じて学習反応が変わり、全体を覚えた後には各成分にも反応しました。香りは材料を足し算しただけの感覚ではなく、全体として捉えることと、材料の情報を残すことが、条件に応じて共存する。その姿を、二つの種から示した研究です。

研究はブルゴーニュ地域圏、欧州地域開発基金、IFR92の助成と、フランスの高等教育・研究担当省による奨学支援を受けています。資金提供者は研究設計、解析、出版判断、原稿作成に関与せず、著者らは利益相反なしと申告しています。

参考文献

Sinding C, Thomas-Danguin T, Chambault A, et al. Rabbit Neonates and Human Adults Perceive a Blending 6-Component Odor Mixture in a Comparable Manner. PLOS ONE. 2013;8:e53534. 原著論文