バラの種類で、抽出される成分はどう違う?

バラの種類で、抽出される成分はどう違う? 香りの科学

香水の原料として使われるバラには、ダマスクローズやセンティフォリアなど、いくつかの種類があります。同じ方法で花から成分を取り出しても、できあがる原料の中身は同じなのでしょうか。

Ana Dobrevaらが2021年に発表した研究は、香料生産に使われる四種類のバラを、液化したガスを溶媒にする方法で抽出し、化学組成を比較しました。従来の蒸留精油やアブソリュートとは異なる方法で得る原料が、どのような成分構成になるかを調べる研究です。

同じ試験圃場の四種類を比べる

対象は、Rosa damascena、Rosa gallica、Rosa alba、Rosa centifoliaです。以下では、それぞれダマスクローズ、ガリカ、アルバ、センティフォリアと呼びます。ブルガリアのカザンラクにある研究所の試験圃場で栽培された花を使いました。

花は2019年の朝に採取しました。ただし、四種類は開花する時期が違うため、同じ日に採った花ではありません。処理するまではマイナス20℃で冷凍保存しています。

研究者らは、それらをR134a、化学名では1,1,1,2-テトラフルオロエタンという物質で抽出しました。圧力をかけて液体にした溶媒を花に接触させ、成分を溶かし出し、その後、溶媒を分けて抽出物を得る方法です。

論文はこれを「亜臨界抽出」と呼んでいます。ここでは、溶媒を高温の超臨界状態にするのではなく、比較的低い温度で液体として使う抽出、と捉えると分かりやすいでしょう。水蒸気で蒸留する精油とは、取り出される成分の範囲が変わります。

分析装置で、成分の顔ぶれと割合を調べる

抽出物は、ガスクロマトグラフィーで成分を分離し、質量分析で成分の候補を調べました。同時に、炎イオン化検出器という別の検出器でも信号を測り、それぞれの成分が全体のどのくらいを占めるかを比較しています。

この割合は、分析装置が示すピーク面積をもとにした相対値です。成分ごとに装置の反応の違いを厳密に補正した定量ではなく、著者ら自身も、試料間を比較するための値だと説明しています。花の重量に対する含有率や、香りの強さに占める割合とは異なります。

論文では、検出された多数の成分を103項目の一覧に整理しました。その中には、構造が完全には分からない成分や、装置上で一緒に現れる成分もあります。すべての成分を、一つずつ完全に区別して構造を確定した一覧ではありません。

ダマスクローズでは、フェニルエタノールが目立つ

大きな違いの一つは、ローズを思わせる香りの成分、2-フェニルエタノールでした。表に示された相対割合は、ダマスクローズで約59%、ガリカで約27%、アルバで約14%、センティフォリアで約9%です。

同じ方法で抽出しても、代表的な香り成分の比率は大きく違っていました。ただし、2-フェニルエタノールの割合だけで、どれが最もバラらしい香りか、最も好まれるかは決められません。この研究では、人が香りを評価する試験を行っていないためです。

ダマスクローズでは、2-フェニルエタノールなどを含む化学的な成分群が大きな割合を占めました。ガリカでは、その群と、次に述べる炭化水素類が、比較的近い割合で含まれていました。

アルバとセンティフォリアは、別の配分

アルバとセンティフォリアでは、炭素と水素からなる脂肪族炭化水素類が、相対面積の約4割を占めました。ノナデカンやヘンイコサンといった成分です。ダマスクローズの同じ群は約13%で、全体の配分が違います。

これらの炭化水素は、花の表面の成分にも関係します。著者らは、香りの安定や保留にも役割を持つと説明していますが、この研究自体が、肌に付けたときの持続時間を測定したわけではありません。多いほど香水が長持ちすると、そのまま読み替えることはできません。

香りに関わるアルコール類の内訳にも違いがありました。アルバはゲラニオールが約14%、ネロールが約6%で、四種類の中では高い値でした。一方、シトロネロールはダマスクローズが約5%で最も高くなっていました。

また、センティフォリアでは、ネロールなどに由来するエステル類が特徴的でした。エステルは、アルコールと酸に由来する部分が結び付いた化合物の一群です。主な成分群が似ているアルバとセンティフォリアでも、細かな内訳まで同じではありませんでした。

精油より、アブソリュートに近い組成

研究者らは、今回の結果と先行する組成研究を比べ、R134aによる抽出物は、蒸留精油よりもローズ・アブソリュートに近いと考えました。アブソリュートは、花を溶媒で抽出して得たものから、ワックスなどを取り除いて作る香料です。

今回の抽出物には、2-フェニルエタノールに加え、脂肪酸、比較的揮発しにくい成分、ワックスに関係する成分なども見られました。何が多く取り出されるかは、植物が持つ成分だけでなく、どの溶媒で取り出すかにも左右されます。

この「近さ」は、化学組成に基づく比較です。同じ花から精油とアブソリュートを並行して製造し、人が嗅いで同等と判定した実験ではありません。それでも、別の抽出法から、既存原料に近い特徴を持つ候補を得られるという点に、著者らは可能性を見ています。

四種類の普遍的な順位ではない

今回の違いには、バラの種類ごとの代謝の特徴だけでなく、開花期の環境や保存条件なども関わる可能性があります。独立した抽出や分析を何回繰り返したかは明確に示されず、種類間の差の統計的な有意性も検定されていません。

したがって、ダマスクローズならいつでもこの割合、アルバなら必ずこの配分、と固定することはできません。異なる産地や年、系統でも確かめることで、原料の安定した特徴が見えてくるはずです。

著者らは低温で扱えることや、溶媒を分離しやすいことから、環境面でも有望な代替法と位置付けました。ただし、使った溶媒はR134aであり、その製造、回収、漏出やエネルギー使用まで含む環境負荷は、この研究では測っていません。抽出温度の低さだけで、工程全体の環境優位が確認されたことにはなりません。

研究は、ブルガリア国立科学基金の、ローズ原料の真正性や品質管理を扱うプロジェクトの資金で実施されました。

まとめ

四種類のバラを同じ溶媒による抽出で比べると、共通する成分が多くても、その配分には違いがありました。ダマスクローズはフェニルエタノールを中心とする群が多く、アルバとセンティフォリアでは炭化水素類が多いなど、それぞれの化学的な特徴が示されました。

研究の価値は、「ローズ原料」を一つの中身として扱わず、植物の種類と抽出方法を組み合わせて考えるための基礎データを提供したことです。原料選びや育種で求める特徴を検討し、香りや実際の配合性能を後から確かめていくための出発点になります。

参考文献

Dobreva, A., Nedeltcheva-Antonova, D., Nenov, N., Getchovska, K., & Antonov, L.(2021). Subcritical Extracts from Major Species of Oil-Bearing Roses—A Comparative Chemical Profiling. Molecules, 26(16), 4991. DOI: 10.3390/molecules26164991。原著全文。© 2021 by the authors. Licensee MDPI, Basel, Switzerland. CC BY 4.0.