香りで人の印象は変わる?

香りで人の印象は変わる? 香りの科学

香りをまとった人が、少し自信に満ちて見える。そんな印象は、その人の内面をにおいから感じ取った結果なのでしょうか。それとも、加えられた香りが印象を変えたのでしょうか。

2021年にIlja Croijmansらが発表した研究は、この二つを分けて調べました。出発点は、自分の価値をどう捉えるかという「自尊感情」の違いが体臭に表れ、嗅いだ人の対人評価にまで伝わるのか、という問いです。さらに、香り付きボディスプレーを使うと、その伝わり方が変わるかを検証しました。

体臭を提供する人と、印象を評価する人を分ける

研究者は、216人の男性への質問紙調査をもとに、自尊感情が低い群と高い群から汗の提供者を選びました。最終的に参加したのは各群16人、計32人です。病気の診断による分類ではなく、自分自身への評価を尋ねる尺度の得点で分けています。

同じ男性が、香り付きボディスプレーを使う日と使わない日の2回、脇の汗を綿のパッドに採取しました。食事や身の回りの香り付き製品には事前の制限を設けています。試料は同じ群・同じ条件の4人分ずつを合わせ、自尊感情の高低と香りの有無を組み合わせた4条件にしました。

それを評価したのは、18~35歳の異性愛の女性62人です。全員が4条件を経験し、順序の偏りを抑えて比べました。評価中は、参加者も担当実験者もどの試料かを知らない設計でした。

女性たちは鼻の近くに置かれた試料を嗅ぎながら、デート番組の約30秒の無音映像を見て、男性の自信がありそうな印象、魅力、外向性を0~100の尺度で評価しました。重要なのは、映像の男性と汗を提供した男性は別人だったことです。体臭提供者本人の性格を当てる試験ではなく、においが同時に見ている人物の印象に影響するかを調べた実験です。

体臭の違いは分かっても、自尊感情は伝わらなかった

映像評価とは別に行った嗅ぎ分け課題では、まず嗅いだ試料と同じものを二つの候補から選びました。香りを加えていない汗で高低の群を比べたとき、正答率は61.2%で、偶然に選ぶ50%を上回りました。香り付きでは52.8%となり、偶然よりよいとはいえませんでした。この正答率は、自尊感情が高い人か低い人かを言い当てた割合ではありません。

においそのものへの評価でも、高い群の汗は低い群より快いと評価されました。香りなしでは、高い群のほうが弱く感じられ、香りを加えると強さの群間差は明確ではなくなりました。ボディスプレーを使った試料は全体として、使わない試料より快く、強く、なじみのあるにおいと評価されています。

ところが、どちらの自尊感情群の汗を嗅いだかによって、映像の男性への自信や魅力の評価が変わることは示されませんでした。体臭に知覚できる違いがあることと、その違いが人物の内面についての印象に結びつくことは、この実験では分かれたのです。

香りが加わると、人物評価は少し上がった

一方、香りの有無には違いが見られました。香り付きの汗を嗅いだ条件では、映像の男性の自信についての平均評価が49.03から51.65へ、魅力の評価が31.58から34.45へ上がりました。いずれも0~100の尺度なので、平均差は約3点です。

統計的には両方に差が報告されましたが、自信の評価については有意水準の境界に近く、別の統計手法で見た裏づけも弱い結果でした。香りを使えば誰もが大きく魅力的に見える、という規模の効果ではありません。外向性の評価には明確な差がなく、評価する女性自身の気分や覚醒度にも変化は示されませんでした。

また、自尊感情の低い群だけが香りによって特に有利になった、という結果でもありません。香りによる人物評価の変化が高低の群で異なる証拠はなく、「低い自尊感情を香りで隠せる」という当初の仮説を、そのまま実証したわけではありません。

香りは、言葉を使わない印象づくりに関わる

著者らが重視したのは、自然な体臭から自尊感情が伝わるという仮説が支持されなかった一方で、身につける香りには人物の印象を動かす働きが見られたことです。声の調子や表情を整えるように、香りを加えることも、他人に届く手掛かりを変える行為になり得ると論じています。

ただし、この実験では香りをまとった本人の振る舞いを見ていたわけではありません。観察されたのは、見る側に届いたにおいによる印象の変化です。汗の提供者について測った、その時点の自尊感情にも、ボディスプレーによる変化は見つかりませんでした。

体臭の違いが人物評価に伝わらなかった理由として、著者らは、映像と体臭の提供者が一致しないことや、意識して点数をつける方法では微妙な反応を捉えにくい可能性を挙げています。また、自尊感情に関わる体臭の手掛かりは、社会的なストレスを受けた場面などで表れやすいかもしれないと提案しています。いずれも、今回の実験で確かめられた仕組みではなく、次の研究に向けた説明です。

この結果が当てはまる範囲

対象は男性の体臭を女性が評価する組み合わせに限られ、使用したボディスプレーも一つです。自分に合う香りを選んだ場合や、相手と実際に会話する場面で、同じ効果になるとは限りません。

さらに、複数人の汗を合わせた試料なので、一部の提供者の特徴的なにおいが群全体の違いとして現れた可能性があります。質問紙による自尊感情の高低と体臭の関連から、自尊感情そのものがにおいを変えたとも断定できません。

研究はUnileverから資金と試料の提供を受け、共著者2人は同社の従業員と申告されています。論文では、同社はデータ収集・解析・出版の判断には関与していないと説明しています。

まとめ

この研究では、自尊感情の高低で分けた男性の体臭に嗅ぎ分けられる違いがあっても、その違いは映像の男性への自信や魅力の評価には結びつきませんでした。一方、体臭に香りが加わると、その人物評価は平均で少し上がりました。

香りをまとうことには、体臭を覆うだけでなく、他人が人物を受け取るときの手掛かりを変える側面がありそうです。著者らが示したのは、香りが内面を正確に伝える証拠ではなく、においによる印象づくりへ人が働きかけられる可能性でした。

参考文献

Croijmans, I., Beetsma, D., Aarts, H., Gortemaker, I., & Smeets, M. (2021). The role of fragrance and self-esteem in perception of body odors and impressions of others. PLOS ONE, 16(11), e0258773. DOI: 10.1371/journal.pone.0258773 · 原著全文。

原著:© 2021 Croijmans et al. CC BY 4.0。