Fugazzi(フガッジ)― アムステルダム発、香りの革命児

フガッジの世界観と香水「Angel Dust Eau de Parfum」を表現したブランドイメージ

「香水業界に参入したとき、私は何が欠けているかを考えようとしなかった。業界のことを知らなかったから、完全な自由の中で動けた。見回しすぎなければ、自分が作るものは自然とユニークになる。」

― ブラム・ニーシンク(Bram Niessink)、フガッジ創業者

基本情報

設立年: 2018年
創設者: ブラム・ニーシンク(Bram Niessink)
本拠地: アムステルダム、オランダ
公式サイト: fugazzifragrances.com

創設者・ブランドの成り立ち

ファッション少年、香りの世界へ

フガッジの生みの親、ブラム・ニーシンクは、オランダで生まれ育った。実家は美容・理容業界と縁が深く、父親はヘアケア製品の卸会社「ミニストリー・オブ・ビューティ(Ministry of Beauty)」の創業者である。「展示会では目立つために全力を尽くせ」という父の教えは、のちにブラムがニッチフレグランス業界で独自のマーケティング哲学を築く上での礎となった。

2014年、ブラムはアムステルダムのファッション系専門学校「AMFI(アムフィ/アムステルダム・ファッション・インスティテュート)」でファッションマネジメントの学習を開始する。学生時代からファッションシーンで頭角を現し、国際的な注目を集めていた。在学中は「締め切りのある長い夜」と、創造性を競うプロジェクトの日々だったという。「あの学校で現実の多くを学んだ」と、ブラム自身が振り返っている。

エジプトでの目醒め

2018年、卒業の年に一つの転機が訪れた。祖父との旅行で訪れたエジプトである。古代から伝わる香油の文化と、クレオパトラがその香りだけでカエサルを征服したという逸話に、ブラムは深く感銘を受けた。

「エジプト旅行中、香水オイルを混ぜて実験することに夢中になった。気に入ったブレンドに周囲から好意的なフィードバックをもらい、それを市場に出すことにした。こうしてフガッジは生まれた。」

― ブラム・ニーシンク

ファッションの観点から美の世界を見てきたブラムにとって、香りは「見えない贅沢」であり、個性を表現するための最も直接的な媒介だと映った。当時22歳。ベテランの調香師からアドバイスをもらいながらも、独学で調香を身につけていく。

デビュー作「パフューム ワン」の衝撃

フガッジ(Fugazzi)の処女作「パフューム ワン(Parfum 1)」は、アムステルダムのセレブリティたちが集う名門セレクトショップ「フォー・アムステルダム(FOUR Amsterdam)」でローンチを飾った。初回生産分が即座に完売したとも紹介されている。香水業界の外から来た若き起業家によるデビューとして、ファッション業界と香水業界の双方に衝撃を与えた。

ブラムはその後、ブランディングと戦略について、レストラン「ザ・アボカド・ショー(The Avocado Show)」の共同創業者であるロン・シンプソン(Ron Simpson)にも相談しながら戦略を磨いていった。

ブランド名「フガッジ」に込めた哲学

ブランド名「フガッジ(Fugazzi)」の語源は、1970年代のイタリア系アメリカ人のスラング「フガジ(fugazi)」。「偽物」「幻」を意味する俗語で、映画『フェイク』(原題:Donnie Brasco/ドニー・ブラスコ)との関連でも紹介される言葉である。しかしここにブラムの逆説的なユーモアが宿る。「フガジ」は「偽物」を意味するが、そのスペルを変え、「z」を重ねて「Fugazzi」とし、ロゴには反転字形を取り入れている。「偽物を意味する言葉で偽物の語を作る」という二重の虚構が、ブランドのアイデンティティを体現している。

「ブランド名は、ファッション業界から参入した自分自身をスラングで表現したものであると同時に、自分だけの世界と他者の視線の間に生まれる虚構や高揚のような瞬間を表現したいという思いが込められている。」

哲学としては「ナッシング・イズ・エブリシング(Nothing is Everything)」を掲げ、「偽物」という言葉が、実際には本物以上に濃密でリアルな製品を象徴するというアイロニーを内包している。

急成長と世界展開

ブランド発足から数年のうちに、フガッジは世界各国で取り扱われるブランドへと成長した。デ・オンデルネーマーの2024年6月の取材記事では、販売拠点は約800ヶ所(うち45ヶ所がオランダ国内)に上り、スキンズ(Skins)、ハーヴェイ・ニコルズ(Harvey Nichols)、リバティ・ロンドン(Liberty London)、ドバイ・モールなどを展開先に持つ。ドイツの大手香水ディストリビューター、ノビリス・グループ(Nobilis Group)を通じた流通も確立している。

2024年にはコスメチェーン「セフォラ(Sephora)」の英国部門との契約を締結。2025年には「セフォラの英国部門が2025年最も急成長したニッチフレグランスブランド」と称したという情報もフガッジの公式SNSで発信されている(ただしこの評価の詳細な公式発表については、本記事執筆時点で一次資料は確認できなかった)。

2024年12月、日本ではニッチフレグランス専門店「NOSE SHOP(ノーズショップ)」を通じて本格上陸を果たした。同年10月の「サロン・ド・パルファン 2024 @伊勢丹メンズ」でブラム本人が初来日し、その飾らない人柄と遊び心のあるネーミングがSNSで大きな反響を呼んでいた。

ブランドのこだわり

「ストーリースメリング」という哲学

フガッジの中心にある概念は「ストーリースメリング(Storysmelling)」である。従来のブランドストーリーテリングがブランド側から消費者に語りかける形であるのに対し、フガッジは香りだけを「きっかけ」として提供する。あとは纏う人の記憶や感情が物語を紡ぐ、という考え方だ。

「私たちは各香水で物語を語ることを目指している。単なる嗅覚体験にとどまらず、感情を呼び起こし、特定の場所や記憶へと連れて行く。香りは、感覚の旅を提供するものだ。」

― ブラム・ニーシンク

ボトルデザイン——「退屈なくらいシンプル」の美学

ファッション業界出身のブラムは、ボトルデザインについて明確な哲学を持っている。それは「ボトルはつまらないもの=スタンダードであるべきだ」というものだ。

「ボトルはタイムレスで、ほとんど退屈なくらいのものにしたかった。それは意図的だった。ボトルは何年も使われるものだから。ボトルが穏やかであればあるほど、ブランドは別の場所で自由に動ける。たとえばストアのインテリアには鮮やかな色を使い、ボトルはそこにいつも溶け込む。古い調剤師のボトルにもインスパイアされた――シンプルで、静かで、長持ちするデザインだ。」

― ブラム・ニーシンク

このアプローチは、ファッション界から転入した彼ならではの視点から生まれた。香りが主役であるべきで、ボトルはその引き立て役に徹するべきだという信念が根底にある。ロゴには現代的なサンセリフ書体を採用し、全体として洗練とミニマリズムを体現している。

素材へのこだわり

フガッジの香水には、ウェルネスへの関心も盛り込まれている。販売店ニッチ・ビューティーは「パフューム ワン」の説明で、インド・アーユルヴェーダで古来から用いられてきたハーブ「コレウス・フォルスコリイ(Coleus forskohlii)」の根エキスと、東南アジア原産で5000年以上の歴史を持つ「カメリア・シネンシス(Camellia sinensis/チャノキ。ここでは紅茶)」のエキスが含まれるとしている。同店は二成分の組み合わせによる神経の高ぶりや緊張感の軽減をうたっており、ウェルネスに結びつけた販売店側の説明として紹介されている。

また、全製品はクルエルティフリー(動物実験不使用)・パラベンフリーであり、オランダ国内で製造されている。素材は、インド産サンダルウッド、インドネシア産パチョリ、ジャワ産ベチバー、ブルガリア産ローズ、カラブリア産ベルガモットなど、産地を明記した天然素材を多用する。

香水ラインナップ

フガッジのコレクションは、大きく「エキストレ・ド・パルファム(Extrait de Parfum)ライン」と「オー・ド・パルファム(Eau de Parfum)ライン」の二本柱から成る。

エキストレ・ド・パルファムを中心とした主要作品(香料濃度30〜50%の作品など)

高濃度が最大の特徴。一般的なコロンの香料濃度が4%程度であるのに対し、フガッジのエキストレは30〜50%という驚異的な濃度を誇る。朝から夜まで続くような持続感を目指した香りづくりが特徴だ。

パフューム ワン(Parfum 1)
ブランド誕生の原点となった香り。フレッシュなシトラスとブラックカラントのトップから、ダバナ・フランキンセンス・オレンジブロッサム・ピンクペッパーのハート、そしてパチョリ・ムスク・サンダルウッド・シダーウッドのベースへと展開するウッディ・スパイシー系ユニセックス香水。シンプルさの裏に宿る官能性が特徴で、アヤックス(Ajax)のクラブハウスで話題になったという逸話もある(ただしこの点については直接的な一次情報は確認できていない)。

エンジェル・ダスト(Angel Dust)
オードパルファムとエキストレの両方で展開され、ブランドを代表するベストセラーの一つ。「ポライト・モレキュール(Polite Molecule)」とも呼ばれるカシュメランを中心に、カラブリア産ベルガモット、ペッパー、カシミア、ホワイトアンバーで構成される。自己主張せず、しかし確かな存在感を持つ「内向的な人のための香り」として位置づけられている。調香師はヴァレリー・ガルニック=メンツェル(Valérie Garnuch-Mentzel)とイリアス・エルメニディス(Ilias Ermenidis)が担当。

グード(Goudh)
ウードを思わせる名を持ち、フガッジコレクション中でも最もオリエンタルかつ豪奢な一作。インド産サンダルウッド、ジャワ産ベチバー、ウードを軸に、ブルガリア産ローズ、アンバーグリス、インドネシア産パチョリが絡み合う重厚な香り。中東地域での支持が特に高いとされる。

ワーカホリック(Workaholic)
コーヒーとブルガリア産ローズという一見相反する組み合わせから生まれるスパイシー・グルマン系。「野心家のための香り」として、オーストラリア産サンダルウッドとホワイトムスクが力強いベースを形成する。2019年のリリース。

ノコローニュ(Nocologne)
コロン(通常香料濃度4%程度)の爽快さを、エキストレの濃度(30%)で実現するという挑戦的なコンセプトの香り。ブラムが24バージョンを試作して完成させたという。グレープフルーツ、オレンジブロッサムを軸に、シトラスの長持ちする爽快感を実現している。

シュガーダディ(Sugardaddy)
タンジェリンとナツメグを軸にした甘くフルーティーなグルマン系。香料濃度50%という高濃度を誇る。

オー・ド・パルファム ライン(香料濃度20%)

ヴァニラ・ヘイズ(Vanilla Haze)
Z世代を意識したグルマン調の香り。バーントシュガー(焦がし砂糖)、スモーキーなヴァニラ、アーモンドとヘーゼルナッツが重なり合う甘く複雑な香り。後にエキストレ版も登場し、より深いスモーキーさが引き出されている。

オレンジ・クラッシュ(Orange Crush)
オレンジのシトラスに、透明感のあるウッドとホワイトアンバーが融合するシンプルかつ中毒性の高い香り。こちらもエキストレ版が存在する。

ちなみに…

見せ場で勝負するマーケティング

ブラムはブランドの展示会出展に異例のエネルギーを注ぎ込むことで知られる。ミラノの香水業界展示会では、スタンドを水の反射するブルーのモザイクタイルで覆い、チームが「フガッジ・ライフガード」と書かれた真っ赤なセーターを着用して登場した。以前は「フライ・ウィズ・フガッジ」と銘打ち、スタンドをジェット機風に仕立て、機内トロリーに香水を並べて展示したこともある。「競合他社の清潔な白や豪奢な黒金のブースの中で、自分のスタンドだけが際立っていた」とブラムは振り返る。

「香水業界のことを知らなかった。だから自分のやり方でやった。」― ブラム・ニーシンク

アムステルダムのフラッグシップストア

2024年にオープンしたフガッジのフラッグシップストアは、アムステルダムの人気ショッピングエリア「デ・ネーヘン・ストラーチェス(De 9 Straatjes/9つの小路)」に位置する、3フロア構成の体験型店舗である。ブラムが南米出身の建築家に依頼して実現したという内装は「どこにもないもの」を目指して、独自の空間づくりに力を注いだという。この店舗限定の香水「ウード・ザウド(Oudh Zuid)」もラインナップに加わり、即座にベストセラーとなった。また「30歳未満で世界各国に展開するブランドを作った」との言及も経済メディアで話題を呼び、2024年11月にはオランダ経済誌「ヘット・フィナンシーレ・ダッハブラット(Het Financieele Dagblad)」でその起業ストーリーが紹介された。

参考文献