Grasse Institute of Perfumery(GIP/グラース香水学院)— 設立の歴史と調香教育、課程・入学条件

花の産地でジャスミンを観察しながら学ぶ様子を描いた、グラース香水学院の記事用イラスト

グラースの香りに関わる知識と技の遺産は、私たちの学校のDNAである。

アラン・フェロ、GIPディレクター(2019年)

香料瓶の中にある一滴は、どこから来たのか。植物を育てる人、収穫する人、香りを取り出す人、そして複数の素材を組み合わせる調香師。Grasse Institute of Perfumery(GIP/グラース香水学院)は、その仕事の連なりを教育へ取り込んだグラースの専門教育機関である。

長期の国際課程だけでなく、初心者向けの短期講座や企業の研修も行う。会社に採用された人だけを育てる社内学校とは異なり、外部から学びに来る人の入口がある。ただし、数日の入門と18か月の調香・評価の養成では、学ぶ範囲も選考も修了時の証明も異なる。

基本情報

  • 正式名称:Grasse Institute of Perfumery(略称GIP)
  • 設立:2002年
  • 設立主体:フランスの香料製造企業を代表する業界団体Prodarom
  • 運営:ASFO Grasseの国際調香教育。所在地はフランス、グラース
  • 教育の形態:選考を伴う長期国際課程、短期講座、個人・企業向けのオーダーメイド研修
  • 公式サイト:Grasse Institute of Perfumery

グラースの香料産業から生まれた学校

1972年のASFOから、2002年の国際教育へ

GIPの背景には、香料産業が自ら人を育てる仕組みがある。Prodaromは1972年にASFO Grasseを設け、香水、食品香料、化粧品、ファインケミカルの企業で働く人や、これから働く人の教育を進めてきた。分析や製造、抽出、実験室の技術は、香りの創作を支える仕事でもある。

2002年に生まれたGIPは、その基盤から国際的な調香教育へ広がった機関である。地域に蓄積された知識と技を、世界から集まる学習者へ伝えることが設立の柱となった。ASFOの技術者養成とGIPの調香・評価課程は関係が深いが、課程ごとの対象者と修了証は分けて理解したい。

グラースで受け継がれてきたのは、調香の技だけではない。香料植物の栽培、天然原料を知り加工する技、香りを構成する技が結びついている。この三つを含むグラース地方の香りの知識と技は、2018年にユネスコの無形文化遺産へ登録された。GIPで畑や工場へ出かける意味も、花の美しさを眺めるだけではなく、香料が生まれる条件を知ることにある。

実習の場所と、産業界から来る教育者

学校には調香、化粧品、フレーバー、化学を学ぶ実習室があり、天然・合成の香料と香水を比べられる教材を備える。2025年9月には、グラース中心部のジュ・ド・バロン大通り10番地に約200平方メートルの新拠点が開設された。技術研修や専門家のワークショップ、国際講座のための追加の場所であり、教室と実習の基盤を広げる出来事であった。

教育を担う人にも、産業界との近さが表れる。現在の講師紹介では、マリアンヌ・ナヴロツキが天然・合成原料、アルジュヴィルのアンヌ=セシル・ドゥヴギアンが香りの評価や香水の系譜、エリザベット・プロアルが天然原料と規制を担当する。素材を覚える授業と、製品を評価する仕事、使用条件を考える仕事が同じ教育の中にある。

企業は年度ごとにクラスを支援する。2025年の支援企業パルフェックスでは、学生が施設を訪れ、調香師とマーケティング担当者に会った。制作と製造の現場を見ながら、授業で得た知識を市場の要求と照らし合わせる機会である。この支援関係は、一つの会社の採用・社内養成課程になることや、全員の就職を約束することとは異なる。

原料を覚え、創作と評価へ進む教育

嗅覚の訓練を、香りを組み立てる力へ

教育は、鼻を訓練することから始まる。

ジョルダン・サリカ、2019年クラス修了生

サリカの言葉は、香水づくりの入口を簡潔に示している。原料の香りを認識し、香りを表す言葉を身につけ、複数の素材を組み合わせたアコードを作る。アコードとは、いくつかの香料が一体となって生む香りのまとまりである。好きな香水の印象を述べることから、その構造を理解し、自分で組み立てることへ進むのである。

短期のサマースクールでも、天然と合成の原料を学び、ローズやジャスミンなどのアコードを作る。香水の歴史や系譜に加え、香りの分子の揮発性や溶解性にも触れる。GIPの学びは、天然香料だけを混ぜる方法に限定されていない。花から得た素材と合成素材を知り、それぞれを構成へ生かす基礎を育てる。

教える側へ戻ってくる修了生もいる。初心者向けDiscovery of Perfumeryの講師マリー・エルシナ(モルチャノヴァ)は、GIPで学んだ調香師で、MAYMEの名で紹介されている。サリカも現在の講師紹介に名を連ねる。学んだ人が、次の学習者へ素材や創作の扱いを伝える流れが見える。

ナルシスの収穫と抽出を見に行く

教室を離れた学びの具体例が、2023年5月15日から17日のオーブラック研修旅行である。学生はIFFの協力で、ロゼールのナルシスの産地を訪れた。高原で短い季節に咲く花を、車輪の付いた大きな櫛状の道具で収穫する。植物を傷めず、花だけを取るための工夫を現場で見るのである。

その後、学生はSADEVの工場と抽出設備へ向かった。収穫された花が、調香に使う濃縮された香料であるアブソリュートへ加工される工程を学ぶ。瓶を開けて原料を覚える授業と、花が生きている土地、収穫の時間、加工する人の仕事が、ここで結びつく。旅行の実施は2023年で、学校の報告記事が公開されたのは2024年3月である。

天然原料の供給を考える創作課題

2019年のクラスでは、支援企業シムライズが「危機にある天然原料」をテーマに課題を出した。学生は二人組でサンダルウッドなどの原料を調べ、栽培地、収穫、加工、供給の難しさを分析した。その理解を香水のコンセプトと処方へつなぎ、原料が不足した場合にも香りを保つ代替案を考える。

課題には、規制への適合や処方の原価、コンセプトと香りが合っているかを確かめる評価も含まれた。天然原料を大切にすることが、香りを礼賛する言葉で終わらず、調達と処方の選択へ進む例である。

ジェローム・エピネットは、所属するロベルテからGIPの卒業生として紹介されている。同社はアスリーヌのTravel From Homeキャンドルコレクションを彼の仕事として挙げる。卒業生の活動は香水瓶の中だけに収まらず、場所を香りで表すホームフレグランスにも広がっている。

長期国際課程の学び方と入学条件

International Technical Degree in Fragrance Creation and Sensory Evaluationは、香りの創作と評価を学ぶ国際課程である。校内で1月から12月まで学び、その後、香料産業で6か月のインターンシップを行う計18か月。実習先は世界各地を対象としている。授業言語は英語、定員は12名である。

校内教育は1,200時間で、調香師・専門家による授業600時間と、指導下の実習、工場・研究所・原料生産者の訪問600時間から成る。調香と評価のほか、分析、規制、シャンプーなどへの香りの応用も扱う。試験に合格した人には、Prodaromが認めるprofessional certificateが発行される。課程名にDegreeとあるが、ここで授与されるのはこの専門教育の修了を証明する証書であり、大学の学位や調香師の免許として扱うものではない。

入学条件は学士相当以上。科学・マーケティングの修士や香料産業での経験が選考上考慮される。選考方針には、25〜35歳を養成の適齢とする記載もある。英語の履歴書と志望理由書を送り、書類審査の後に計算・論理、創造性、香料の識別、面接による選考を受ける。

2026年10月12日に確認した公式の長期課程ページは、2025年1月1日〜7月1日に翌年の課程へ出願する案内を掲載している。この2026年入学向けの出願期間は終了しており、掲載受講料は13,500ユーロ、選考試験料は150ユーロである。これを2027年の募集条件として読むことはできない。次の入学年度、費用、出願期間は同ページの担当窓口へ確認する必要がある。

短期講座と、日本で学ぶ入口

グラースの初心者向け講座

長期留学の前に香料と実習に触れる入口として、Discovery of PerfumeryとFragrance Summer School – Level 1がある。いずれも初心者向けで、英語による授業である。経験者は登録前に学校へ相談する形を取っている。

課程2026年日程ページの掲載条件学ぶ内容
Discovery of Perfumery3日間、9:00〜17:30/定員12名/1,200ユーロ45種の原料、香りの語彙、初めてのアコード創作
Fragrance Summer School – Level 12週間、平日9:00〜17:00/定員10名/2,400ユーロ原料、香料の化学、アコード、香水の評価・構成。季節・天候に応じた植物園の訪問

確認日は2026年10月12日。両ページに表示された2026年の開催日はすべて過ぎており、次年度の日程へ流用できない。上記金額は税込み・昼食込みの掲載受講料で、滞在費までを含む総費用ではない。GIPの規約では受講者は18歳以上、短期講座の席は登録順に割り当てられる。受講後の参加証明と、長期課程の試験に基づく専門教育の証書も分けて理解したい。

GIP Tokyoの日本語プログラム

GIPの沿革には2006年の日本での初講座が記されている。現在はGIP Tokyoの認定プログラムが案内され、丸山賢次が首席講師、GIPで2022年に学んだニャーラーディ・ナタリアが創設ディレクターを務める。東京の会場は新宿区信濃町のカネモ香房Open Labである。

2026〜2027年度の調香技術専門課程は、各5日間の四つのレベルで構成される。レベル1〜3は東京、レベル4はグラースで行い、授業はすべて日本語。各段階の間には素材キットと課題を使う自主学習がある。レベル1は2026年11月21〜23日と28〜29日、レベル2・3は2027年1月・3月、レベル4は同年5月3〜7日に予定されている。

2026年10月12日の掲載受講料は、レベル1〜3が各2,400ユーロ、レベル4が2,700ユーロで、フランスのGIPへ直接支払う。全レベルを学ぶ人が出願で優先され、レベル4は東京でレベル1〜3を修了した人が対象となる。渡航・宿泊は自己負担。各レベルの修了者にGIP発行の修了証が授与されるが、この四段階のプログラムは、グラースの18か月の国際課程とは別である。

日本語のディスカバリーコースもあり、掲載条件は2日間、定員10名、1,200ユーロ、GIPの修了証付き。次回日程は調整中と表示されている。この入門の受講は、調香技術専門課程への出願要件ではない。国や講座で日数と制度が異なるため、日本語で学ぶ場合はGIP Tokyoの案内を入口とする。

主な歩み

  • 1972年:ProdaromがASFO Grasseを設立。香料・化粧品などの産業を支える職業教育を進める。
  • 2002年:GIPを設立。グラースの香料の知識と技を国際的に伝える調香教育が始まる。
  • 2003年:初の短期講座、サマースクールを開催。
  • 2006年:日本で初めて講座を行う。
  • 2013年:調香・評価クラスが初の海外研修旅行を実施。
  • 2018年:グラース地方の香りに関する知識と技が、ユネスコの無形文化遺産へ登録される。
  • 2019年:シムライズがクラスを支援。天然原料の供給と創作を結ぶ課題に取り組む。
  • 2020年:初のオンライン講座を開設。
  • 2023年5月:IFFの協力でオーブラックへ研修旅行。ナルシスの収穫と抽出を学ぶ。
  • 2025年:パルフェックスがクラスを支援。9月にはグラース中心部の新拠点を開設する。
  • 2026〜2027年度:GIP Tokyoの日本語による四段階の専門課程を案内。最初のレベルは2026年11月、グラースでの最終レベルは2027年5月に開催予定。

参考文献

コメント