頭や髪のにおいは、脇や足のにおいと少し違う。その特徴を調べた1994年の研究では、頭から出る揮発成分として、アルデヒド、脂肪酸、アルコールなど多様な物質が見つかりました。著者らは、一つの原因成分よりも、複数の成分が混ざったにおいとして捉えています。
研究では、成分分析だけでなく、洗髪後の頭皮の菌の変化を調べ、分析と調香師の感覚を組み合わせて頭のにおいを再現することも試みました。
頭の周りの空気と、髪・頭皮に残る成分を調べる
対象は、24〜38歳の健康な男性5人でした。無香料シャンプーで洗髪した後、洗髪直後から72時間後まで、複数の時点で頭の周りの空気を採取しています。頭部を専用のバッグで覆い、そこから出る揮発成分を吸着剤に集め、ガスクロマトグラフィーで分析しました。
これとは別に、洗髪3日後に溶剤で抽出した成分も調べました。空気中へ出る成分と、頭髪などに残る脂質の成分を別の方法で見る設計です。
さらに頭頂部から菌を採取し、培養して菌数を測りました。方法欄に列挙された菌の採取時点は洗髪直後から56時間後までで、揮発成分の72時間までの採取とは区別されています。
軽い刺激臭のアルデヒドと、脂肪酸などが混ざる
72時間後の頭部の空気には多くの成分があり、本文では炭化水素、酸、アルデヒドなど25成分を同定したと報告しています。具体例として、ヘキサナール、ヘプタナール、デカナールなどのアルデヒド、イソ吉草酸や酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸などの脂肪酸、インドールが挙げられます。
著者らは、軽い刺激臭を持つアルデヒド類、短い炭素鎖を持つ脂肪酸、インドールなどが混在し、頭のにおいを作ると考えました。成分一覧には酢酸エチルや各種アルコールもあり、「頭のにおい」という一つの印象の中に、異なる化学的な種類が含まれています。
一方、溶剤で抽出した脂肪酸は炭素数4〜22の範囲に及び、特に炭素数14のテトラデカン酸と、16のヘキサデカン酸の比率が高くなっていました。頭に存在する量の多い脂質と、空気へ出て人が嗅ぐ成分は、同じものとして扱えない点が重要です。
洗髪後には菌が増えた。においへの関わりは仮説として
培養では、Staphylococcus epidermidis、Staphylococcus capitisや、論文当時の分類でPropionibacterium属と呼ばれる菌が検出されました。時間とともに菌が増え、特に好気性菌の増加が、嫌気性菌より目立ったと報告されています。
著者らは、頭皮の長鎖脂肪酸が菌の働きで、においの強い短鎖脂肪酸へ分解されることが、においが強くなる理由の一つではないかと考察しました。また、頭皮の菌の構成の違いが、脇や足とは異なるにおいに関係する可能性も挙げています。
ただし、この研究で直接測ったのは成分と菌の変化です。特定の菌に脂肪酸を与えて分解経路を追った試験ではないため、どの菌がどのにおい成分を作ったかという因果関係は、ここでは仮説の段階です。
分析だけでなく、調香師が嗅いで再現する
研究者は成分分析を手掛かりに混合物を作り、調香師が実際の頭のにおいと比較して調整しました。論文には、その再現処方が掲載されています。
これは分析した成分比をそのまま写したものではなく、感覚的な比較を加えたモデルです。処方には分析一覧にない香料も含まれています。また、一成分ずつ除いて、どの成分が欠けると頭のにおいでなくなるかを調べた試験でもありません。
それでも、分析装置で成分を分けるだけでなく、人が感じる全体像へ戻そうとした点は、この研究の大切な部分です。頭のにおいを、検出した物質のリストと、混ざったときの知覚の両方から理解しようとしています。
まとめ
男性5人を調べたこの研究では、頭から出る成分としてアルデヒドや脂肪酸などが見つかり、洗髪後の菌の増加も観察されました。著者らは、頭のにおいを複数の成分の混合として説明し、調香師の比較評価を加えた再現処方を作りました。
小規模で、菌の増加や再現の評価について詳細な統計情報は限られますが、成分分析、菌の観察、においの再現を組み合わせた初期の研究です。頭のにおいを一つの成分に還元せず、全体の組み合わせとして見る手掛かりになります。
著者5人はいずれも、論文発表時に鐘紡の化粧品研究所所属でした。独立した資金提供・利益相反の声明は見当たりません。
参考文献
窪田正男・駒木亮一・伊藤芳和・新井みち代・庭瀬英明(1994).頭の臭いに関する研究.日本化粧品技術者会誌,28(3),295–298.https://doi.org/10.5107/sccj.28.295(原著PDF)


