ラベンダーの花から精油を取るには、水や蒸気で温め、植物の組織にある油を外へ移して回収します。けれど、花の内部に残る油まで取り出すには時間がかかります。蒸留の前に、油が出てくる通り道を増やせないでしょうか。
Dmitry Khudyakovらが2026年に発表した研究は、この問いに「低温プラズマ」という技術で取り組みました。狙いは、ラベンダー精油の成分構成を大きく損なわずに、回収を速め、蒸留にかかるエネルギーを減らせるかを調べることです。
花に短い放電処理をしてから、蒸留する
プラズマは、気体の一部が電気を帯びた粒子などになった状態です。この研究では、細い筋状の放電を使う低温プラズマで、蒸留前の花を処理しました。低温という名前でも、化学的な働きがないわけではなく、処理の強さや時間を調整する必要があります。
使ったのは、2025年7月にクリミアで収穫されたラベンダー、Lavandula angustifoliaの花です。1.5kgの花をトレーに載せて搬送し、放電部分を動かして表面全体を処理しました。処理区域にいる時間は120秒です。
その後、前処理した花と、前処理しない花を、二つの蒸留法で比べました。一つは花を水に浸して加熱する方法で、1Lの実験室用フラスコを使います。もう一つは花に蒸気を通す方法で、25Lの試験生産用装置を使いました。それぞれの蒸留法の中で、処理の有無を比較しています。
各条件は、別々の花の試料を使って3回ずつ実施しました。油がたまる量を時間に沿って測り、最終的な収率、成分構成、花の組織の様子も調べています。
同じ時間なら多く、同じ量なら速く
蒸留を同じ時間行ったとき、前処理した花のほうが多くの精油を回収できました。花の重さに対する油の重さの割合は、水に浸す方法では2.46%から2.65%へ、蒸気を通す方法では2.33%から2.65%へ増えています。後者は0.32ポイント、元の収率に対して約13.7%の増加です。
これとは別に、同じ量の油が取れるまでの時間も比べました。蒸気を通す方法では、前処理しない条件で平均240分かかった量を、前処理した条件では平均95.3分で回収したと報告されています。
「同じ時間にどれだけ取れたか」と「同じ量を取るのに何分かかったか」は、違う問いです。この研究では、両方の見方から、前処理によって回収の進み方が変わったことを示しています。120秒の前処理だけで精油の製造が終わる、という意味ではありません。
花の中に、油が移動しやすい道ができる?
電子顕微鏡で見ると、前処理後の花の内部組織には、くぼみや溝のような構造が観察されました。著者らは、これが油の移動を妨げる組織の壁に通り道を作り、蒸留時に外へ出やすくする可能性を考えています。
回収量が時間とともに増える曲線には、拡散のモデルも当てはめました。ここでの拡散は、油に関わる成分が組織の内部から外側へ移っていく過程です。モデルから推定した、移動のしやすさを表す係数は、どちらの蒸留法でも前処理後に大きくなりました。
顕微鏡の構造変化と、回収曲線からの推定が、同じ説明に合っている点が重要です。ただし、内部にとどまる油と、取り出しやすい油を別々に直接測り、その変換量を確定したわけではありません。モデルには、花の断片の形や厚さを単純化する仮定もあります。
主要な成分は保たれたが、香りの好みは未評価
回収量が増えても、目的とする成分が大きく変わってしまえば、香料原料として使いやすいとは限りません。そこで、研究者らはGC–MSで油の揮発性成分を調べました。
主な成分は、前処理の有無にかかわらず、リナロールと酢酸リナリルでした。二つを合わせたピーク面積の割合は、水に浸す方法で65.9%から68.2%へ、蒸気を通す方法で63.49%から68.11%へ増えました。
これは、検出した成分の中で、その二つがどれくらいの比率を占めるかという数字です。香りの強さがその割合だけ増したことや、油の純度がそのまま同じ数値になったことを示すわけではありません。ほかの成分には蒸留法による違いもあり、すべての組成が完全に同じだった、という結果でもありません。
著者らは、主要成分の特徴を保ちつつ回収を進められた、と評価しています。一方、条件を伏せて人が嗅ぎ比べる官能試験は行われていません。同じ香りに感じるか、より好まれるか、肌への使用で安全かまでは、この分析から決められません。
ラベンダーの主要成分として登場したリナロールは、スパイスのコリアンダーの種の精油にも多く含まれます。花の香りと台所のスパイスに、共通する成分があるのは意外かもしれません。
ここでいうコリアンダーは、料理に添えるパクチーの葉ではなく、乾燥した種のほうです。同じ名前の成分が含まれていても、ほかの成分との組み合わせや割合が違うと、植物全体の香りはずいぶん違って感じられます。
エネルギーの節約は、どの範囲の話か
蒸気を通す工程では、油1mLを得るためのエネルギーが、前処理なしの0.35kWhから、前処理ありの0.14kWhへ低くなったと算出されています。この計算には、放電による前処理の分も含まれています。
加熱を続ける時間が短くなる効果が、前処理に必要なエネルギーを上回った、というのが今回の装置条件での結果です。ただし、栽培、運搬、設備の製造まで含めた環境負荷全体を評価したものではありません。工場での設備費を何年で回収できるかも、実証したわけではありません。
大きな工場にするには、処理の均一さが課題
著者らが重視するのは、花を搬送しながら前処理できることです。収穫期に原料が集中する精油工場で、蒸留一回あたりの待ち時間を短くできれば、処理できる花の量を増やせる可能性があります。
ただし、今回は一つの産地・収穫時期の原料を使った試験です。厚く積んだ花の奥まで均一に処理できるか、搬送速度や処理時間をどう調整するか、異なる品種でも同様の結果になるかは、さらに確かめる必要があります。
また、処理を強くすればよいとも限りません。著者らは、過度のプラズマ処理によって揮発性成分が失われたり、酸化などの変化が起きたりする可能性を挙げています。取り出しやすさと成分の保持を両立する条件探しが、実用化に向けた中心課題です。
研究はロシア科学財団の助成を受けました。著者らは利益相反なしと申告し、資金提供者は研究設計、解析、執筆や公表判断に関与していないとしています。
まとめ
この実験では、ラベンダーの花に低温プラズマの前処理を行うことで、精油をより速く、より多く回収できました。組織に見られた通り道の変化と、回収曲線のモデルは、油が内部から外へ移動しやすくなるという説明を支えています。
主要な化学成分を保ちながら、蒸留に使う時間とエネルギーを減らせる可能性は、原料が集中する収穫期の生産にとって意味があります。実際の香りの評価と、規模を大きくしたときの均一な処理を確かめることが、この製造技術を育てる次の段階になります。
参考文献
Khudyakov, D., Sherstyukov, A., & Shorstkii, I. (2026). Cold Plasma-Assisted Lavender Essential-Oil Pilot Production: Impact on Oil Yield, Isolation Kinetics and Chemical Parameters. AgriEngineering, 8(8), 300. DOI: 10.3390/agriengineering8080300 / 原著全文。原著のライセンス:CC BY。
コラムのコリアンダー種子油について:Wahba, H. E., Abd Rabbu, H. S., & Ibrahim, M. E.(2020). Evaluation of essential oil isolated from dry coriander seeds and recycling of the plant waste under different storage conditions. Bulletin of the National Research Centre, 44, 192. DOI: 10.1186/s42269-020-00448-z/原著全文。


