自分のにおいが変わると、香りを嗅いでいない相手にも、印象の違いが伝わるのでしょうか。2009年の研究では、香料と抗菌成分を含むデオドラントを使った男性は、それらを含まないスプレーを使った男性より、無音の自己紹介動画で魅力的だと評価されました。写真と音声付き動画では、明確な差がありませんでした。
研究の狙いは、製品を使った本人の自己認識と、その振る舞いから他人が受ける印象の両方を調べることです。香りが直接相手を引き付ける経路とは別に、自分への感じ方を通じた影響に注目しました。
35人の男性に、二つのスプレーを使ってもらう
参加者は英国の大学に所属する19〜35歳の男性35人で、全員が異性愛者の非喫煙者でした。募集順に交互に割り付け、18人は香料と抗菌成分を含む処方、17人はそれらを除いた処方を使用しました。後者にもエタノールと噴射用ガスは含まれています。
容器は同じ外観の白い缶で、担当実験者には割り付けが知らされず、参加者にも詳しい仮説や設計は伝えられませんでした。原著は二重盲検の操作としていますが、香りの有無まで知覚できなくする手続きではありません。
最初の訪問で基準となる質問紙に回答し、約24時間後の訪問でスプレーを使い、その15分後に再回答しました。その後48時間は普段のデオドラントを指定品に置き換え、3回目の訪問で最後の質問紙と撮影を行いました。ほとんどの参加者は、日頃からデオドラントを使っていました。
自己信頼の変化は確認され、容姿の自己評価は傾向にとどまった
自己信頼は、自尊心、自己効力感、積極性など7つの尺度を合わせた得点で調べました。別に、顔や身体の魅力、全体的な外見の自己評価も尋ねています。
自己信頼の時間的な変化は、二つの処方群で有意に異なりました。香料・抗菌成分入りの群の方が、対照群に比べて高まる方向で、初回から使用15分後への変化の群差も有意でした。
一方、自分の容姿の魅力については、時間と群の交互作用はp=0.085で、通常の5%の有意水準には達していませんでした。初回から最後の訪問までの比較も、自己信頼・容姿評価ともに有意には届かない傾向でした。原著の抄録や結論は両方への影響を強く述べていますが、個別の結果では自己信頼の方に明確な根拠があります。
香りの届かない動画でも、印象に違いがあった
最後の訪問では、魅力的な女性に自己紹介する場面を想像し、男性自身で短い動画を撮りました。評価には、座って話し始めてからの15秒を使用し、無表情の顔写真も撮影しました。動画は腰から頭までが映るため、表情や姿勢、動きなどを見ることができます。
別の女性8人が、写真の魅力と、動画の魅力・自信のありそうな程度を7段階で評価しました。まず写真を見て、その後、音声あり・なしの動画を、順番を偏らせないように提示しました。評価者には男性の実際のにおいは届きません。
無音動画の魅力は、香料・抗菌成分入りの群が対照群より有意に高くなりました。これに対して、顔写真の魅力、音声付き動画の魅力、動画から判断した自信には、明確な群差がありませんでした。「自信が増した男性は、他人にも必ず自信ありげに見えた」という結果ではない点が重要です。
製品を好む程度と、動画の魅力も関連した
研究者は、顔写真の魅力から予想される動画の魅力を計算し、実際の動画評価がそれよりどれだけ高いかも調べました。この指標でも、香料・抗菌成分入りの群が高い結果でした。
さらに、使ったスプレーを男性本人が好ましく評価するほど、写真からの予想を上回る動画の魅力が高いという、小さな正の関連がありました。著者らはこれを、製品に対する本人の感じ方と、非言語的な振る舞いが結び付く可能性を支える結果と解釈しています。
ただし、どの表情や動作が変わったかは分析していません。また、好みと動画評価の関連だけで、好みが行動を変える仕組みを確定することはできません。
香りと抗菌作用の、どちらが効いたのか
二つの処方は、香料だけでなく抗菌成分も異なります。体臭の強度や脇の細菌量は測っていないため、香りによる心地よさと、体臭を抑えた影響を分けることはできません。著者らは15分という早い変化には香りが関わりそうだと考察していますが、これは時間経過からの推測です。
動画は、撮影に慣れる影響を避けるため介入後に一度だけ撮りました。そのため、もともとの振る舞いの群差が残った可能性もあります。写真の評価で調整した結果はこの懸念を減らす材料になりますが、使用前後の動画を直接比べたわけではありません。
研究期間中に周囲から製品についてコメントされた男性もいました。自分自身が香りを感じた影響に加え、周囲の反応を通じた影響も入りえます。小さな標本で得られた、自己認識と印象の連なりを調べる出発点といえる研究です。
まとめ
香料と抗菌成分を含むスプレーは、それらを除いた処方と比べ、男性の自己信頼を相対的に高める方向の変化を示しました。香りを嗅げない女性評価者にも、無音動画では使用群がより魅力的に見えました。一方、写真、音声付き動画、見かけの自信の群差は明確ではありませんでした。
香り付き製品が本人にどう感じられるかは、香りそのものが相手へ届く以外の経路でも、対人印象に関わるかもしれません。その可能性を示しつつ、香料と抗菌作用、本人の自己評価と周囲の評価を分けて考える必要がある研究です。
Unilever Research & Developmentによる香料の提供が謝辞に記載され、研究当時、著者2人は同社に所属していました。著者1人へのRoyal Societyの支援も記載されています。独立した利益相反の声明は本文に見当たりません。
参考文献
Roberts SC, Little AC, Lyndon A, Roberts J, Havlíček J, Wright RL. Manipulation of body odour alters men’s self-confidence and judgements of their visual attractiveness by women. International Journal of Cosmetic Science. 2009;31:47–54. doi:10.1111/j.1468-2494.2008.00477.x(著者公開全文)


