好きな香水なら、気分への影響も同じ?

好きな香水なら、気分への影響も同じ? 香りの科学

同じくらい好きな香水でも、落ち着きたい日に選ぶものと、気持ちを切り替えたい日に選ぶものは違うかもしれません。その違いは、好みだけでは説明できないのでしょうか。

A. N. Rétiveauらが2004年に発表した研究は、香水を実際に肌につけ、そのまま日常の活動へ戻った女性の気分を追いました。好きな香りに共通する影響と、香りの特徴ごとに異なる影響があるか、また、その関係が何時間続くかを調べることが目的です。

結果には興味深いパターンがありました。ただし、多くは統計的に弱い傾向で、特定の香調が確実に気分を改善すると証明した研究ではありません。その点を押さえると、この実験が次に何を調べようとしていたかが見えてきます。

まず、好ましさの近い三つの香水を選ぶ

研究は三段階で行われました。最初に、18~55歳の女性14人が、六つの市販香水などを試しました。その中から、平均的な好ましさが近く、気分との関係が異なりそうな三つを選んでいます。銘柄は明かされず、S、V、Tという記号で示されました。

次に、訓練を受けた官能評価者6人が、三つの香水の香りを詳しく描写しました。Sは木・柑橘・針葉樹を感じるタイプ、Vは花と柑橘を含むシプレ調、Tは花を中心に木やパウダリーな印象を伴うタイプに分類されました。

この6人は、後の気分測定の参加者数ではありません。香水の特徴をそろった言葉で記述するための専門パネルです。また、三つの香水は複雑な混合物なので、例えば「花の成分だけの効果」を取り出せる設計ではありません。

58人が香水をつけ、日常の中で気分を記録

中心となる三つ目の実験には、米国カンザス州の18~55歳の女性58人が参加しました。三つの香水と、香料を含まない比較用の液を、それぞれ二日ずつ、計八日試しています。同じ香水を連続した日に使わず、週の始めや週末による気分の違いを減らすため、火曜から木曜に測定しました。

香水は首や手首の肌につけ、その後は普段の活動へ戻りました。ほかの香り付き製品は使わないよう求められています。実験室で香りだけを嗅ぎ続けるのではなく、実際に身につけた日の気分を追った点が、この研究の特徴です。

気分は、塗布前、5分後、1時間後、3時間後、6時間後に記録しました。POMSという質問票を使い、その時点の緊張や不安、落ち込み、怒り、活気、疲労、混乱などを答えています。これらをまとめた、気分全体の乱れを表す指標も計算しました。

同時に、香水をどのくらい好きか、香りにどのくらい気づくかも尋ねました。香水から受ける「落ち着く感じ」「活力のある感じ」などのイメージも、本人の今の気分とは別に評価しています。

好きな程度は近くても、香りのイメージは違った

58人の実験でも、三つの香水の平均的な好ましさに明確な差はなく、いずれも比較用の液より好まれました。ただし、全員が三つを全く同じ程度に好きだったという意味ではありません。

香水のイメージには違いがありました。Tはより落ち着く、温かい、ロマンチックな印象、Sはより活力のある、現代的な印象を持つと評価されました。これは香りの性格についての回答です。「落ち着く香りだ」と答えたことと、本人の緊張が実際に下がったことは、分けて見る必要があります。

香りに気づく程度は時間とともに低下し、3時間後までは香水と比較用の液の差がありました。6時間後には、香水の存在が比較条件から明確に区別される状態ではなくなっていました。

気分全体の改善は、はっきりしなかった

気分の結果では、香水条件のほうが比較条件より活気が高く、負の気分が低いように見える場面がありました。しかし、気分全体の乱れを表す総合指標には、明確な香水間の差はありませんでした。多くの個別項目でも、通常の5%基準で有意な差は得られていません。

論文は、10%基準で見られた弱い傾向も手がかりとして扱っています。たとえば活気や緊張の違いの多くは、この探索的な水準でした。さらに、平均値の似た動きを図にまとめる主成分分析から、香水ごとの気分のパターンを読み取っていますが、その図のまとまり自体が、確実な効果を証明するものではありません。

ただし、すべての結果に差がなかったわけでもありません。1時間後の落ち込みの尺度では、香水条件間の差が5%基準で有意でした。本文ではTがSより低いと報告されています。一方、Tが香料なしの比較条件より確実に良かった、という結果にはなっていません。

その日の出発点となる気分も関わる

研究者らは、香水をつける前の気分を考慮した解析も行いました。ここでも、香水だけの効果は、活気や緊張などで弱い傾向にとどまりました。

一方、香水の種類と初期の気分の組み合わせには、一部で明確な関連がありました。とくに、最初から怒りや敵意の得点が高かった人では、Sをつけたときのその後の得点が、ほかの条件より高くなるパターンが報告されています。落ち込みについては、同じSでも、初期の状態によって違う関係が示唆されました。

著者らがここから提案したのは、同じくらい好きな香りでも、気分との関係が全く同じとは限らず、その日の出発点にも左右される可能性です。「この香水は良い気分にする」「こちらは悪い気分にする」と、一つの方向に決める考え方ではありません。

著者らは、香りが感じられるおよそ3時間まで気分との関係が続くと解釈しました。ただし、すべての尺度で3時間の改善が確認されたわけではありません。6時間後には、測った気分項目の香水間の差は、いずれも明確ではありませんでした。

香調別の「効能表」には、まだできない

この研究は、実際に香水を身につけた日を追った点に価値があります。その一方で、日常の出来事や期待を完全にはそろえられず、三つの香水も少数の予備実験で選ばれています。香料なしの液と香水ではにおいが違うため、参加者がどの条件か気づく可能性もあります。

試した香水は三つで、対象も香りによる不快感を訴えない女性に限られます。文化、好み、香水の使い方、性格、過去の経験といった違いを十分に解析した研究ではありません。多くの項目と時点を探った結果であることも含め、新しい参加者や別の香水で確かめる必要があります。

論文には、将来のメンタルヘルスや職場での応用への期待も書かれていますが、診断されたうつ病や不安症の治療、生産性の向上を検証したものではありません。POMSでいう落ち込みの点数を、そのまま病気の改善と読み替えることはできません。

まとめ

同じくらい好きな香水でも、香りのイメージや、気分との関係のパターンは異なるかもしれません。ただし、今回の研究で、三つの香水が気分全体を明確に改善したとは言えず、多くの知見は探索的でした。

そこから残る重要な問いは、「どの香りが効くか」だけでなく、「誰が、どんな気分で、どのような日に身につけるか」です。好ましさ、香調、初期の気分を一緒に調べることで、香水と感情の関係を、一律の香調分類よりも細やかに理解できる可能性を示した研究と言えます。

参考文献

Rétiveau, A. N., Chambers, E., IV, & Milliken, G. A.(2004). Common and Specific Effects of Fine Fragrances on the Mood of Women. Journal of Sensory Studies, 19(5), 373–394. DOI: 10.1111/j.1745-459x.2004.102803.x。原著全文(著者公開版)。© 2004 Blackwell Publishing. All Rights Reserved.