kai fragrance(カイ フレグランス)— ハワイの記憶から生まれた、白い花の香り

白いガーデニアと海辺を背景にしたカイ フレグランスの香水ボトル ブランド創業者

「あの花の香りをかぐたびに、私は一瞬で、愛する人たちに囲まれた島へ戻るのです。」

— ガイエ・ストラーザ(創設者)

香水をつくる出発点が、誰かに見せたい自分ではなく、もう一度帰りたい場所であることもある。kai fragrance(カイ フレグランス)の中心にあるのは、創設者が子どもの頃にハワイで過ごした夏と、そこで出会った白い花々の記憶だ。

1999年、カリフォルニアのマリブで始まったカイ。その歩みをたどると、小さな香水瓶の向こうに、家族との休暇、洋服のブティック、そして香りをきっかけにつながった人々の姿が見えてくる。

基本情報

設立年: 1999年
創設者: Gaye Straza(ガイエ・ストラーザ)
誕生の地: アメリカ・カリフォルニア州マリブ
公式サイト: kai fragrance / 日本公式サイト

ブランド名の「カイ」は、ハワイ語で「海」を意味する。ハワイから着想を得て、マリブで育ったブランドである。

創設者とブランドの成り立ち

ハワイで過ごした夏と、テレビの仕事

ストラーザにとって、ハワイは家族で夏を過ごす場所だった。プルメリア、ピカケ、ガーデニア、ジャスミン。あちこちで咲く花の香りが、親しい人たちに囲まれた時間と結びついていた。カイの原風景は、そうした休暇のなかにある。

一方、香水のブランドをつくる以前の彼女には、テレビ番組に出演していた時期がある。サンディエゴの放送局KFMBでコマーシャルの仕事をしていたとき、声をかけてきたのが、地元のテレビパーソナリティー、Larry Himmel(ラリー・ヒンメル)だった。彼は自分の新番組『San Diego at Large』へ彼女を誘った。

ストラーザが演じたのは、海辺の暮らしを題材にしたコメディーの登場人物。仕事場には笑いが絶えず、ヒンメルは上司であり、相談に耳を傾けてくれる友人でもあった。

「あの頃は、仕事をしていて、これまででいちばん楽しかった時期でした。」

— ガイエ・ストラーザ

その後、サンディエゴのデルマーからマリブへ移ったストラーザは、女性向けのファッションブティックを営むようになる。カイが最初に人の手に渡った場所は、その店だった。

自分がまといたい香りを、自分のためにつくる

花の香りを愛していても、市販の香水を気軽に楽しめたわけではなかった。ストラーザは、自分に合わない香水を避けてきた理由を、こう説明している。

「普通の香水をつけられなかったのです。私には合わず、ひどい頭痛がしました。」

— ガイエ・ストラーザ

そこで求めたのが、自分の好きな白い花を表現した香りだった。小規模な香料会社とともに開発を進め、生まれた香りがカイである。

そのイメージには、幼い頃の休暇だけでなく、自身の結婚式も重なっていた。ストラーザはハワイで結婚し、南国の花々を束ねたブーケを選んでいる。香りで再現したかったのは、そのブーケと、休暇、浜辺、暖かな気候を思い出させる感覚だった。

ここには、海を名前に持ちながら、白い花を中心に据えるカイらしさがある。彼女のハワイの記憶には、景色と同じくらい鮮やかに、花の香りが残っていたのである。

ニューヨークの路上から、独立したブランドへ

転機は、ニューヨークのマディソン・アベニューで訪れた。カイをつけて歩いていたストラーザが美容編集者に呼び止められ、その香りをどこで買えるのかと尋ねられたのだ。やがて香りはマリブのブティックで販売され、求める人が増えていった。

1999年、ストラーザはブティックを売却し、カイを独立した会社として立ち上げた。自分のためにつくった香りが、店を訪れる人の関心を集め、事業の中心になったのである。

最初の製品はパフュームオイルだった。その頃の熱量が伝わるのが、初めての小売取引先となったモンテシートのブティック、Angel(エンジェル)とのエピソードだ。

ニューヨークの展示会で同店のバイヤーに会ったストラーザは、カイに似合う店だと考え、オイルを扱ってみてほしいと頼んだ。注文が入ると、自ら商品を運んだ。

「初めて注文をもらえたのがうれしくて、そのパフュームオイルの箱を、自分で車に積んでサンタバーバラまで届けました!」

— ガイエ・ストラーザ

何年も後、客としてエンジェルを訪ねると、カウンターの後ろにはカイの製品が並んでいた。最初の一箱から続いた関係が、店の風景の一部になっていたのである。

香りとの出会いをつくった、小さな店々

セレクトショップのFred Segal(フレッド・シーガル)では、カイは衣服のそばに置かれた。ストラーザが望んだのは、買い物の途中で、ふと香りを見つけてもらうことだった。

もう一つのつながりが、香水専門店Luckyscent(ラッキーセント)である。共同創業者のFranco Wright(フランコ・ライト)は、ロサンゼルスの女性向けブティックでカイを知った。2002年秋にラッキーセントを始めるにあたり、カイをはじめとする地元の独立系ブランドは、香水に特化したウェブサイトをつくる着想の一部になったという。

香水の専門店が、洋服の店で出会った香りを、さらに遠くの人へ届けていく。カイの初期の歩みは、当時のロサンゼルスの小さな香りのブランドと、それを扱う店が、ともに育っていった物語でもある。

香りの種類を増やす前に、使い方を広げる

オイルからスプレーへ。同じ香りを別の形で届けることにも、ストラーザは時間をかけた。オードパルファムの開発には3年を要し、すばやく揮発する上質なアルコールを使いながら、もとの香りのオイルを配合する方法を探ったという。

小さなロールオンを持ち歩く人もいれば、スプレーでまといたい人もいる。カイはオリジナルの香りを軸に、ボディケアやヘアケア、住まいの香りへと製品を広げていった。

この歩みは、次々と別の香りを発表することだけが、ブランドの成長ではないと感じさせる。一つの好きな香りを、入浴や身支度、部屋で過ごす時間にも取り入れられるようにする。それもまた、カイが育ててきた香りとの付き合い方である。

約18年を経て加わった、ローズという変化

二つ目の香りとなるkai *rose(カイ ローズ)のパフュームオイルが登場したのは、2017年4月。1999年のブランド設立から、約18年が過ぎていた。

オリジナルを愛していたストラーザは、次にどの方向へ進むべきか、不安も感じていた。背中を押したのは、経験豊かな調香師から受けた助言だった。カイを支持する人たちのためにも、もとの香りを大切にしながら、そこに変化を加えてみてはどうか。

「発展させる。でも、本質と土台は保つ。その上で加えるのです。」

— ガイエ・ストラーザ(調香師から受けた助言を振り返って)

こうして生まれたローズは、カイの白い花々にローズを重ねる香りになった。慣れ親しんだ花であっても、粉っぽさに寄りかからず、みずみずしいグリーンの表情を引き出す。オリジナルとのつながりを保つことが、新しい香りの出発点だった。

発売時にはBarneys New York(バーニーズ・ニューヨーク)で1か月間先行販売され、同年5月1日から公式サイトやほかの取扱店にも広がった。その後はローズにも、オードパルファム、ボディケア、キャンドルが加わっていく。

ブランドのこだわり

白い花の香りを、暮らしのなかに置く

カイが掲げるのは、シンプルで純粋なもののなかにある美しさ。香りの中心は、ガーデニアをほかの白い花々が包む構成である。ここでいうガーデニアは、日本でクチナシとして知られる花。創設者の記憶にある南国の花々が、ブランドの軸になっている。

ローズが加わっても、オリジナルと競い合う関係にはしない。二つの香りは、一方のボディケアにもう一方の香水を重ねる使い方も想定されている。香りを重ねる「レイヤリング」によって、同じ世界観のなかで表情を変えられるのだ。

控えめな容器と、製品ごとの素材選び

パッケージには落ち着いたグリーンの文字を使い、「breath * life * flow」という言葉を添える。 オードパルファムのボトルは、透明なガラスに銀色のキャップを合わせ、正面に控えめにブランド名を置く。澄んだ液体と余白を生かした、簡潔なデザインである。

製品はアメリカで製造され、動物実験を行わない方針が示されている。オリジナルのパフュームオイルとオードパルファムは、動物由来成分を使わないヴィーガン仕様として案内されている。

ボディケアでは、スプレータイプのボディグローにホホバ種子オイルやアロエベラ、ローズのハンドクリームにシアバターやヒマワリ油を配合している。共通する香りを、オイル、クリーム、洗浄料へと仕立てることで、さまざまな使い心地を選べるようにしている。

香水ラインナップ

カイの香水は、オリジナルとローズという二つの香りを軸に、それぞれパフュームオイルとオードパルファムを展開する。まず香りの方向を選び、次に使いたい形を選ぶと、全体像をつかみやすい。

カイ:ブランドの原点となる白い花々

オリジナルは、ガーデニアを中心に白い花々が広がる香り。ジャスミンやユリ、ホワイトムスクも香りの要素として挙げられている。海辺で過ごした時間を、花の香りから思い出す。その成り立ちが、香りの構成にも表れている。

日本で案内されているパフュームオイルは3.6mLのロールオン。先端のボールを肌に転がして少量ずつつける形式で、持ち歩きにも向く。オードパルファムは50mLのスプレーである。

カイ ローズ:もとの花々に、バラを重ねる

ローズでは、オリジナルの白い花々にローズ・アブソリュートを重ねている。これはバラから抽出した香料で、パフュームオイルの成分表示にはダマスクローズのアブソリュートが記載されている。

目指しているのは、粉化粧を思わせるローズではなく、花のまわりの緑まで感じさせるような新鮮さである。 こちらも日本では、3.6mLのパフュームオイルと50mLのオードパルファムが案内されている。

入浴や部屋の香りへも広がる

ボディウォッシュ、ローション、ボディバター、ハンドクリームなど、香りを暮らしへ取り入れる製品も多い。オリジナルにはヘアケアやディフューザーもあり、香水だけでブランドの全体を捉えきれないところがカイの特徴だ。

2019年には、ホテル向け化粧品を手がけるADA International(エイダ・インターナショナル)とのホテルアメニティー・コレクションも発表された。休暇の記憶から生まれた香りが、今度は旅先のバスルームで人を迎えるようになったのである。

ちなみに…

カイを愛用していた一人に、俳優のRichard E. Grant(リチャード・E・グラント)がいる。自ら香水ブランドを立ち上げる前、彼がつけていたのはカイのパフュームオイルだった。ガーデニアを好むグラントは、この香りをまとっていると、何をつけているのか、どこで買えるのかと尋ねられたと語っている。

ストラーザがニューヨークの路上で呼び止められた話と、どこか響き合うエピソードである。誰かのためにつくられた一つの香りが、別の誰かの記憶にも入り込んでいく。カイの歩みには、そんな香水の身近な力が息づいている。

参考文献

  1. kai fragrance「philosophy」— 創設者のハワイの記憶、ブランドの哲学 — https://kaifragrance.com/pages/philosophy
  2. kai fragrance「history」— 香りの開発、マディソン・アベニューでの出来事、1999年の創業 — https://kaifragrance.com/pages/about
  3. kai fragrance 日本公式「About」— 創設者名、ブランド名の意味、香りの構成 — https://kaifragrance.jp/about/
  4. Gaye Straza「a tribute to a man」— テレビの仕事とラリー・ヒンメルの回想 — https://kaifragrance.com/blogs/lifestyle-by-kai/a-tribute-to-a-man
  5. NewBeauty「Why This Cult-Classic Fragrance Brand Waited 20 Years to Debut Its Second Scent」— 創設者インタビュー、香水との関係とオードパルファムの開発 — https://www.newbeauty.com/kai-rose-scent/
  6. Allure「The New Scent Renegades」— 創設者が語るハワイの結婚式とブーケ — https://www.allure.com/gallery/cool-perfumers
  7. kai fragrance「kai conversations with… robin dienhard of angel montecito, kai’s first-ever retail partner」— 最初の取引先とのエピソード — https://blog.kaifragrance.com/2023/01/kai-conversations-withrobin-dienhard-of.html
  8. Vanity Fair「Kai: A Slice of Heaven」— 店頭での売り方とパッケージ — https://www.vanityfair.com/style/2011/09/kai–a-slice-of-heaven
  9. kai fragrance「retailer series: kai conversations with… franco wright, co-founder of luckyscent」— ラッキーセントの創業とカイとの関係 — https://kaifragrance.com/blogs/lifestyle-by-kai/retailer-series-kai-conversations-with-franco-wright-co-founder-of-luckyscent
  10. Gaye Straza「introducing… the kai*rose skylight」— 二つ目の香りを生んだ助言、2017年4月の発売 — https://kaifragrance.com/blogs/lifestyle-by-kai/introducing-the-kai-rose-skylight
  11. kai fragrance「a rose is a rose, unless it’s kai*rose」— ローズの香り、先行販売、レイヤリング — https://kaifragrance.com/blogs/lifestyle-by-kai/a-rose-is-a-rose-unless-its-kai-rose
  12. kai fragrance「eau de parfum」— オリジナルのスプレー、ボトル、製造・製品方針 — https://kaifragrance.com/products/perfume
  13. kai fragrance「perfume oil」— オリジナルのロールオン、製品仕様とFAQ — https://kaifragrance.com/products/perfume-oil
  14. kai fragrance 日本公式「All products」— 日本での製品構成と容量 — https://kaifragrance.jp/category/all/
  15. kai fragrance「kai*rose perfume oil」— ローズの香りと成分 — https://kaifragrance.com/products/kai-rose-perfume-oil
  16. ADA International「ADA teams up with iconic beauty brand kai to launch new luxury hotel collection」(2019年7月)— ホテルアメニティーの発表 — https://ada-cosmetics.com/wp-content/uploads/2022/09/1907-press-ada-kai-en-uk-fin-1930019.pdf
  17. Fragrantica「Richard E. Grant: My Signature In Scent — Exclusive Interview As He Prepares To Launch JACK Perfume」— リチャード・E・グラントが語るカイ — https://www.fragrantica.com/news/Richard-E-Grant-My-Signature-In-Scent-Exclusive-Interview-As-He-Prepares-To-Launch-JACK-Perfume-5312.html

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