天然の香料なら、環境負荷も小さい?

天然の香料なら、環境負荷も小さい? 香りの科学

「天然の香料」と聞くと、環境にもやさしそうに感じるかもしれません。けれども、植物を育てる土地や水、花や根から香りを取り出すエネルギーまで考えると、由来だけで答えを出すのは難しくなります。

Martzらが2023年に発表した研究は、化粧品に使われる27種類の香料原料を調べました。天然抽出物、石油由来の原料、生物技術で作る原料などについて、生産までの環境負荷を計算し、簡易な評価方法と比べています。

比べたのは、原料1kgを作るまで

研究の中心にあるのは、ライフサイクル評価、略してLCAです。原料の栽培や採取、輸送、抽出や化学変換に必要な資源とエネルギー、それに伴う排出を積み上げ、環境への影響を見積もります。

今回の基準は、香料会社MANEの工場で香料原料1kgを生産することです。原料を得る上流工程まで含めますが、化粧品に配合して使う段階や、使い終わった後の処理は、このLCAには含めていません。

そのため、同じ強さの香りを与える量や、同じ用途で使う量をそろえた比較ではありません。1kg当たりの負荷が小さい原料が、完成した香水でも必ず有利になるとは限らないのです。

天然抽出物の中でも、負荷は大きく違う

27原料の結果は、由来の分類の中にも大きな幅があることを示しました。植物から取れる割合が少なければ、少量の香料を得るために大量の原料が必要になります。栽培の仕方や抽出工程も、結果を変える要因でした。

天然原料では、農業段階が大きな負担になる例がありました。土地を使うこと、肥料や農薬、農業機械の燃料などが関わります。一方、溶媒で抽出する原料では、溶媒の製造や使用量、回収に使うエネルギーも重要です。

同じ樹脂系の抽出物でも、必要な溶媒の量が違えば、環境負荷の見積もりは変わります。「植物由来」という共通点だけでは、その差を説明できません。青葉の香りを持つcis-3-ヘキセノールも、植物から抽出する場合と化学合成する場合では、原料から得られる割合や工程が異なり、同じ分子でも環境負荷に大きな差が出ました。

簡易な点数とLCAは、何が違う?

研究では、LCAに基づくSPOTという評価と、MANEが開発したGREEN MOTION™という方法を比較しました。後者は、資源の使い方や工程の効率、扱う物質の危険性などを、グリーンケミストリーの考え方に沿って点数化するものです。

二つの方法は、全体として似た傾向を示しました。ただし、必ず同じ順位になるわけではありません。GREEN MOTION™は有害な物質を使う工程を評価に含めますが、LCAは投入量や排出量を積み上げます。何を、どの程度まで数えるかが異なります。

たとえば、簡易評価だけでは上流の農業による負荷を十分に捉えられない場合があります。反対に、工程で危険な物質を扱うという問題は、今回のLCAの結果だけでは十分に表せません。どちらか一方ですべてが分かるのではなく、補い合う関係です。SPOTの総合点も、一つの量を直接測った値ではなく、14種類の環境影響を重み付けしてまとめた評価です。

廃棄物が少なければ、それで十分?

もう一つ比べたのが、製品の量に対してどれだけ廃棄物が出るかを示すEファクターです。工程の無駄を探すには役立ちますが、それだけで環境全体への影響を決めることはできません。

廃棄物を減らすために多くのエネルギーが必要になったり、別の溶媒や原料の製造負荷が増えたりする可能性もあるためです。著者らは、初期の工程設計に簡易指標を使い、具体化した後にLCAで改善を確かめる進め方を提案しています。

計算の前提にも目を向ける

計算には工場や生産者から集めたデータだけでなく、データベースや推定も使われています。個々の原料に必要な水やエネルギーを直接測れない場合には、工程の時間や温度などに基づいて配分しました。

また、手作業で採取する野生植物の採取段階には負荷を割り当てない、といった仮定があります。これは、その採取が現実に生態系へ影響しないと実証したという意味ではありません。農業の条件やデータの精度が変われば、計算結果も変わり得ます。

研究にはL’Oréal、MANE、環境評価を行うEVEAの研究者が参加しています。企業の生産データを使った具体的な比較である一方、世界中の原料や生産者を一律に順位付けした研究ではありません。

まとめ

今回の研究から見えるのは、天然か合成かというラベルよりも、どの原料を、どんな工程で、どれだけ効率よく作るかが重要だということです。天然香料にも負荷を減らす余地があり、合成香料にも工程ごとの課題があります。

著者らは、栽培と抽出・変換工程の改善、副産物の活用などを主な改善策に挙げました。簡易な評価で課題を見つけ、LCAで上流工程まで確かめることが、負担を別の場所へ移すだけの改善を避ける助けになります。さらに著者らは、似た環境特性を持つ香料原料を群にまとめ、企業秘密である配合を明かさずに、複雑な香り全体の環境負荷を評価する方法につなげたいとしています。

参考文献

Martz, P., Phan, T. V. T., L’Haridon, J., Beausoleil, M.-H., Lafaye, K., Gérand, Y., & Gallardo, C. (2023). Environmental profile of the production of fragrance ingredients used in cosmetic products: comparative analysis of results obtained by life cycle assessment and the green chemistry-based eco-design tool GREEN MOTION™. Green Chemistry, 25, 6365–6382. DOI: 10.1039/d2gc04860d / 出版社の原著ページ。原著はRoyal Society of Chemistryが提供するResearchGateの全文再録で確認しました。原著の公開ライセンスはCC BY-NC 4.0です。