Bridge and Blend(ブリッジ・アンド・ブレンド)|中山ひろが『源氏物語』の香文化から日常のお香へたどり着くまで

Bridge and Blend(ブリッジ・アンド・ブレンド)の記事用生成イメージ。実物を撮影した写真ではありません。

香りは入口に過ぎない。

――中山ひろ

香りの歴史を知ることと、その香りを日々の暮らしに取り入れること。その二つをつないでいるのが、Bridge and Blend(ブリッジ・アンド・ブレンド)である。創設者の中山ひろは、海外で香水のマーケティングや商品開発に関わってきた経験を持つ。日本に戻ってから出会い直したのは、『源氏物語』に描かれた香りの文化だった。

千年ほど前の調合を手掛かりにお香をつくり、現在は焚く時間そのものを暮らしの習慣として提案する。ブランドが歩んできた道には、古典の探究と、香りを現代の人に届けるための試行錯誤が重なっている。

基本情報

ブランド名: Bridge and Blend(ブリッジ・アンド・ブレンド)

ブランド開始: 2021年

創設者: 中山ひろ(Hiro Nakayama)

運営母体: Project Felicia(2013年、ニューヨークで設立)

公式サイト: https://www.bridgeandblend.com/en

創設者とブランドの成り立ち

広告と香りの仕事からブランドへ

中山ひろは、海外で広告や香水のマーケティング、流通、商品開発に関わってきた。2013年にニューヨークでProject Feliciaを設立し、香りの体験イベントやお香づくりのワークショップを企画した。

20年以上の海外生活を経て帰国した中山は、『源氏物語』を読み返し、日本の古い香りの調合に関心を深める。2021年、Bridge and Blendを始動し、最初のコレクション「Six in Sense」をKickstarterを通して送り出した。

平安時代の薫物は、練り合わせた香料を温めて香らせるものだった。Bridge and Blendはその配合思想を手掛かりに、火を灯して使う円錐形やスティック状のお香へ展開した。古典を知ることと、今日の暮らしで使うことをつなぐ取り組みである。

ブランドのこだわり

BAIKAとKUROBO:古典の調合を二つの表現に

古い香文化とのつながりを具体的に示すのが「BAIKA(梅花)」と「KUROBO(黒方)」である。いずれも平安時代から伝わる調合を着想源とし、香木を中心に複数の香材料を重ねる。

BAIKAの現行スティック香は、沈香と白檀を中心に、龍脳や乳香などを用いる。公式はその表現を柔らかく軽やかなものと説明し、現在のRitual Collectionでは「Light」と名づけている。梅の花そのものを模した単純なフローラル香ではなく、古典の梅花の調合を現代のお香として捉え直した作品である。

KUROBOの現行スティック香にも沈香や白檀が使われるが、公式が示す中心は、深みのある木質とほのかな煙の印象だ。こちらは「Return」と名づけられ、夜に自分の時間へ戻る場面を想定している。古典の題材が異なる二作品は、現在では一方を軽やかな時間に、もう一方を静かに内側へ向かう時間に結びつけている。

この二つのスティック香は、天然の香木などを粉末にして成形し、液体の精油や合成香料を加えない製法を採る。日本で製造され、一本ずつ火を灯して使う。古典への関心は素材選びに、現代の生活への接続は形と使用方法に表れている。

六つの香りを日々の習慣に結びつけるRitual Collection

Bridge and Blendは、香りを昔の調合名だけでなく、暮らしの中でどのような時間に使うかという視点からも整理している。Ritual CollectionにはBAIKAの「Light」、KAYOの「Clarity」、JIJYUの「Quiet」、KIKKAの「Focus」、RAKUYOの「Release」、KUROBOの「Return」という六つの組み合わせがある。

ここで中心になるのは、お香に火を灯し、香りが続くあいだ手を止めるという行為である。例えばBAIKAとKUROBOは、どちらも古典に由来する香りでありながら、一日の異なる場面を思い浮かべる名前を与えられている。かつての調合を知る楽しみが、いまの暮らしの時間を選ぶ楽しみへと広がった。

2026年、商品を売ることから「時間をつくること」へ

2026年4月に公開した本人署名の文章で、中山はニューヨークで体調を崩して帰国した経験と、ブランドの目的を考え直した経緯を述べている。商品を売ることだけでなく、香りを通じてどんな時間を届けるのか。その問いを言葉にした。

自分の軸に戻るための時間です。

――中山ひろ

Ritualという日々の習慣へ視点を移したことは、古典の知識を説明するだけで終わらず、使う人の暮らしにどう関わるかを考える変化でもある。

プロダクトではなく、体験を。

――中山ひろ

香炉灰と米由来の包装材まで含む商品設計

現在のBAIKAとKUROBOのスティック香は、香炉灰に立てて火を灯す使い方が案内されている。粉末状の天然香材料を成形したお香を、最後まで安定して燃やすための方法である。一本が燃えているあいだの時間を使うというブランドの提案は、こうした道具や使い方とも結びついている。

包装には、食用にならなかった米を再利用した紙素材「kome-kami」を採用する。使い終えたパッケージを小物入れに再利用する案内もある。素材を選ぶところから使用後まで、香りを届けるための具体的な設計が見える。

『源氏物語』を読み返して生まれた好奇心から、「Six in Sense」、そしてRitual Collectionへ。Bridge and Blendの特徴は、伝統的な香りを現代風に名づけることだけではない。中山が長く携わってきた香りの仕事と、人に体験を届ける仕事が、一本のお香を焚く時間のつくり方に結びついているのである。

参考文献