CLIVE CHRISTIAN(クライヴ クリスチャン)|家と庭をつくる美意識から、香水へ

Clive Christian No1 Masculineのボトル。創設者のインテリアの美意識を表した創作背景。

調香師には、自由に取り組んでもらった。

クライヴ・クリスチャン

家の内装から、身体のすぐ近くで感じる香りへ。CLIVE CHRISTIAN(クライヴ クリスチャン)を始めたのは、自ら思い描く空間を実現するために家具づくりへ踏み込んだデザイナーである。王冠のキャップの背後には、英国の古い香水会社との出会いと、調香師に自身の構想を託した仕事がある。

基本情報

  • 創設:1999年(前身のクラウン・パフューマリーは1872年創業)
  • 創設者:クライヴ・クリスチャン(Clive Christian)
  • 国:英国
  • 主な分野:香水
  • 公式サイト:Clive Christian

創設者とブランドの成り立ち

家全体に調和を求め、家具をつくる

芸術家の母と生化学者の父を持つクリスチャンは、インテリアの正式な専門教育を受けず、他の人のための仕事を経験して独立した。長女のヴィクトリアは、日の出や夕日を楽しみ、自分の心に耳を傾けることを父から教わったと振り返っている。

1970年代後半、チェシャーで購入した十九世紀の邸宅が、仕事の転機になった。外観の美しさに対して内装が釣り合わず、家の内と外を調和させたいと考えたのである。小さく実用一辺倒だったキッチンの壁を取り払い、人が過ごす空間へ広げても、そこに合う家具が見つからない。必要なものを自らつくるため、製造会社の取得へ進んだ。

大きなアイランドの上にクリスタルのシャンデリアを吊るすキッチンは、その姿勢を象徴する。日々の用を果たす部屋にも、美しさを楽しむ時間を置いた。後に香水へ仕事を広げた本人は、二つの分野を次のようにつないでいる。

家と身体という、人の暮らしの最も私的な部分を飾るという点で、二つは本質的につながっている。

クライヴ・クリスチャン

床板の間の瓶から、長く残る英国のブランドへ

ヴィクトリアが四歳の頃、父と自宅の床板の間から見つけた古い香水瓶があった。約二十年後、それがクラウン・パフューマリーのものだと分かる。家族の記憶に結びついていた瓶が、古い英国の香水会社との接点になった。

一方でクリスチャンには、一つの製品分野を超え、自分の後にも残る英国のブランドを育てたいという構想があった。ハーディ・エイミスの取得を試み、宝飾や革製品なども検討した。その歩みの先に、1999年のクラウン・パフューマリー取得がある。

旧社は1872年に創業し、ヴィクトリア女王から王冠の意匠を使うことを認められたという歴史を持つ。現在も瓶の上に置かれる王冠は、その由来を伝えるものだ。クリスチャンが受け継ごうとしたのは、品質と手仕事を重んじる価値観だった。

自身は調香師ではなく、香水に求める構想を持つデザイナーとして、調香師のチームと制作に向き合った。費用に厳しい枠を設けず、自由に取り組んでもらう。その判断が、冒頭の言葉に表れている。

舞台から売場へ、ヴィクトリアが学んだ香水

香りを人に届ける仕事を担ったヴィクトリアにも、家と結びつく匂いの記憶がある。

チェシャーの実家に咲く、イングリッシュローズの香りを覚えている。

ヴィクトリア・クリスチャン

母の香水瓶にも心を惹かれていたが、最初に選んだのは舞台だった。バレエと演劇を学び、ロンドンのウエストエンドで活動する。父が香水会社を取得した頃には舞台を離れ、香水を学ぶため各地を訪れた。

最初の仕事はロンドンのフォートナム&メイソンの香水カウンターで、次にニューヨークのバーグドルフ・グッドマンへ移った。売場に立ち、香りが一人ひとりの肌でどう表れるかを学んでから、世界へブランドを紹介する役割へ進んだのである。

一滴ずつ、香水のメゾンを築く手伝いをしてきた。

ヴィクトリア・クリスチャン

ブランドのこだわり

オリジナルの三つのペアと、素材を重ねる考え方

Original Collection(オリジナル コレクション)は、1872、X、No1をそれぞれフェミニンとマスキュリンのペアで展開する。1999年の出発点を形づくった六つの香水であり、1872という名前は前身の創業年を記念している。

1872フェミニンではベルガモット、ローズ・ド・メ、パチョリが中心に置かれ、マスキュリンではプチグレン、シダーウッド、クラリセージが挙げられる。同じ名の二本にも、それぞれ異なる植物の組み合わせがある。

メゾンは天然素材に加え、現代の香料技術も制作に取り入れている。複数の素材で奥行きをつくる考え方は、ノートの数だけを見るよりも、一つの題材に明るさ、温かさ、質感をどう重ねるかを見ると分かりやすい。

ロックローズ──庭園を修復する関心が、香水になる

2016年のNoble VII(ノーブルVII)で着想源になったのは、クリスチャンが修復していたクイーン・アン様式の邸宅の庭園だった。当時の庭にどのような花があったかを調べ、ロックローズとコスモス・フラワーという二つの香水へつなげた。

庭園の高貴な歴史が、これらの香水の出発点になった。

クライヴ・クリスチャン

Rock Rose(ロックローズ)は、樹脂を思わせる素材の表情を、柑橘とハーブの明るさで描く作品である。ブランドは現在のロックローズで、タロッコオレンジの立ち上がりから、ラベンダー、スミレ、クラリセージを重ね、サフランの温かいスパイス感へつなぐ構成を示している。濃度は25%とされる。

花の名前を冠していても、注目したいのは花束の輪郭より、爽やかな植物と樹脂、スパイスがつくる釣り合いだ。家の様式と庭の植物を調べたデザイナーの関心が、素材を選ぶ題材になっている。

Noble Collectionは、その後も建築、庭園、芸術の歴史を香水へ移す。ノーブルVIIIではロココを題材にし、ブロンド・アンバーなどへも表現を広げている。

マツキタ──旧メゾンの記憶を、現代の素材で描く

Crown Collection(クラウン コレクション)は、旧クラウン・パフューマリーの歴史へ直接目を向けるシリーズだ。クラブ・アップル・ブロッサムやタウン&カントリーとともに並ぶMatsukita(マツキタ)は、1892年の同名作を出発点に、2021年に現代へ向けて再解釈された。

新しい作品では、ベルガモットとピンクペッパー、ナツメグから、ジャスミンと煙を帯びたマテ茶の組み合わせへ進む。アンバー、ムスク、木の温かさを重ねたウッディ・シプレで、濃度は25%。柑橘の明るさと、お茶の煙や木の陰影を一つの香りに収める構成である。

ロックローズが庭園の植物と様式から香りを考えるのに対し、マツキタでは、受け継いだ香水名の世界を現代の香料でどう表すかが中心になる。歴史への関心にも、異なる創作の入口がある。

個人の記憶と文学へ、題材を広げる

Private Collection(プライベート コレクション)は、個人的な経験や世界を彩る性質を香りにする。C、L、Vなどの文字を冠し、Cウッディ・レザーではタバコとサフラン、Lレッド・ティー・ベチバーではルイボスとサンダルウッドというように、異なる方向を描く。

Addictive Arts(アディクティブ アーツ)は、英国文学の言葉から感情や享楽を展開する。青い瓶のジャンプ・アップ・アンド・キス・ミー・ヘドニスティックにはマテ茶、ラブダナム、タバコ、ストレンジ・ヘヴンズ・アウト・オブ・ザ・ブルーにはコーヒー、カカオ、ジャスミンが挙げられる。家や庭だけでなく、言葉や個人の記憶にも、香りを構想する題材を求めているのである。

参考文献