「市場では、私たちの装飾の品質が知られています。」
— カルレッタ・ハインツ(CEO、2021年)
香水瓶を手に取るとき、目に入るのは香水ブランドの名前である。その輪郭や透明感、表面の色を、繰り返し同じ品質で実現する会社の名は見えにくい。HEINZ-GLAS(ハインツ・グラス)は、その背後で働くガラスメーカーだ。ドイツの家族企業を起点に、香水・化粧品の容器の開発、成形、装飾を担ってきた。
ここでいう伝統は、昔の瓶を同じ方法でつくり続けることではない。金型を設計し、自動成形機を使い、炉を更新する。その変化を家族と従業員が引き受けてきた歴史である。香りの作者とは異なる立場から、香水を日常の道具として成立させる仕事をたどりたい。
基本情報
企業創業:1622年、ドイツ・テューリンゲンのピーザウ(Piesau)
創業の人物:ハンス・ハインツ(Hans Heintz)とペーター・ボック、ハンス・ディーツ、ゲオルク・ショット
本拠:ドイツ・バイエルン州クラインテッタウ(Kleintettau)
経営者:カルレッタ・ハインツ(Carletta Heinz、CEO・オーナー)
主な仕事:香水・化粧品向けガラス容器の開発・製造・装飾、包装関連部材の供給
公式サイト:HEINZ-GLAS
ガラス職人の家系から、国際的な家族企業へ
1523年の家業と、1622年の企業創業
ハインツ家がガラスづくりに携わる歴史は1523年にさかのぼる。一方、ハインツ・グラスが企業の創業年として掲げるのは1622年だ。この二つは、家系の仕事の歴史と、現在の企業につながる事業の起点をそれぞれ示している。
公式沿革は、ハンス・ハインツが三人の仲間とピーザウのガラス工場と集落を設けた時期を「1621/1622年」と記す。したがって、1621年だけを独立した企業創業年としたり、1523年から現在と同じ会社が存在したと考えたりすると、歴史の単位を取り違えることになる。1661年には、ピーザウの創業者の息子がラウシャ出身のミュラー家の二人とともに、クラインテッタウのガラス工場の設立に加わった。
1904年の火災と、設備を変えながらの継続
1904年、クラインテッタウの古い村のガラス工場が焼失した。カール・アウグスト・ハインツは村の下方に新しい生産拠点を築き、木を燃料とする古い工場から、ガス発生炉を用いる近代的な溶融設備へと進めた。家業を残すための再建は、生産方法を変える機会でもあった。
20世紀には自動化と材料の多様化が進んだ。1955年にはプラスチック容器の製造を事業に加え、1971年にはクラインテッタウで、連続・全自動運転に対応する全電気式のオパールガラス用溶融炉を導入した。現在の電化は突然始まったものではなく、乳白色のガラスを工業的につくる取り組みの歴史ともつながっている。
父の急逝による継承と、ピーザウへの再投資
カール・アウグスト・ハインツは1976年に入社した。大学で経営を学んだ後、アメリカのガラスメーカーで経験を積むつもりだったが、父アドルフが亡くなり、1977年には単独で経営を担うことになった。準備を重ねてからの予定どおりの継承ではなかった。
その後の重要な選択の一つが、ドイツ再統一期のピーザウへの投資である。1991年に同地のガラス工場の全持分を取得し、設備を再構築した。企業の起点である場所を、近代的な生産拠点として事業に組み直したのである。海外への展開と、出発点への投資が並行して進んだ。
カルレッタ・ハインツが引き継いだ経営
娘のカルレッタは、2012年に経営学の課程を修了した。同年には同級生三人とCityHuntersを設立し、経理や管理会計、税務、給与計算を担当した。2013年に家業へ入り、父と外部のメンターの支援を受け、2017年にはCIOとして経営陣に加わった。2020年7月1日、父からCEOを引き継いだ。企業はこの継承を創業家の13代目と位置づけている。
六歳のときに初めて書いた将来の希望を、カルレッタは2021年に次のように語った。
「この会社のトップになりたい。」
— カルレッタ・ハインツ(2021年の発言から)
幼い頃からの希望の一方で、実務の入口は数字と組織だった。管理会計や人事の経験を積み、2014年にはサステナビリティを経営上の目標に据え、グローバルな担当チームを設けた。家族企業の未来を、個人の意志だけでなく組織の課題として扱う歩みである。
2026年10月の本人の説明では、現在の中核業務は社内での設計・開発、専用金型の製作、ガラス生産、そして多様な装飾と仕上げである。後継者が引き受けたのは、瓶をつくる工場だけではない。形を提案し、量産へ移し、表面の表情まで整える一連の仕事なのだ。
同じ形を量産し、違う表情を与える技術
社内開発と金型がつなぐ、デザインと自動成形
ハインツ・グラスは、社内の開発部門と金型製作を技術の中核に置く。透明な無色ガラス、白いオパールガラス、フィーダーで着色するガラスを扱い、全自動のIS成形機を使う。ISとは独立した成形セクションを組み合わせた設備である。ゴブと呼ぶ、切り分けた溶融ガラスの塊を金型へ送り、容器に成形する。
公表する成形方法には、空気で粗い形と最終形をつくるブロー・アンド・ブロー、押して粗形をつくってから吹くプレス・アンド・ブロー、プレス成形がある。単に「機械で大量につくる」のではなく、形や容器の条件に合わせて工程を組む仕事である。同社は一つから三つのゴブに対応する設備と、大小の数量への柔軟性を狙う独自のフレックス技術を案内している。
金型には、意匠を同じ輪郭として繰り返し取り出す役割がある。造形を考える人と、生産設備を扱う人の仕事がここで接する。自動化された瓶にも、どの工程で形をつくるかという設計上の判断が含まれている。
標準瓶の金型を変える「ミラ」の提案
標準容器のコレクション「Glasmeisterwerke(グラスマイスターヴェルケ)」は、既存の形を起点にできるもう一つの仕組みである。2026年の提案「Mirra(ミラ)」では、標準瓶を基礎に、仕上げ型と底型を個別化する方法を示した。開発と金型の投資範囲を絞りながら、外観を変える考え方だ。
ミラの題材はミルラである。樹脂を焚いたときに立ちのぼる煙の動きを、ガラス表面の構造に置き換え、マットな白い吹き付けと、透明感を残す底部の仕上げを組み合わせた。栓にも樹脂の塊を思わせる有機的な形を与えている。これは同社の容器の提案であり、ミラという香水の調香内容を説明するものではない。
ねじ式の口部は、詰め替えや部材の分離に対応するための設計要素でもある。意匠、金型、仕上げ、使い終えた後の扱いが、一つの瓶のなかで交わる具体例といえる。
ガラスの色と、表面加工の色を使い分ける
瓶の色は、ガラスそのものの色だけで決まらない。ハインツ・グラスの装飾には、つやを抑える加工、サンドブラスト、単色・多色の吹き付け、金属化、レーザー加工、パッド印刷、シルクスクリーン印刷などがある。部分的な塗装や加工も可能で、公式の作例には内面への吹き付けも並ぶ。
同じ輪郭でも、光を通す面をどこに残すか、金属的な反射をどこに置くかで見え方は変わる。ミラで金型と白い仕上げを組み合わせたように、立体としての形と表面の処理は別々の選択であり、重ねて設計できる。この工程の厚みが、冒頭の「装飾の品質」という言葉の背景にある。
塗膜と工程間の検査を研究する
品質を保つ仕事も、完成した瓶を最後に眺めるだけでは終わらない。ポーランドのジャウドヴォにある装飾拠点2HDは、2025年8月、EUの支援を受けた研究開発計画を公表した。混合条件、色材の組成、塗る対象の材質が塗膜の品質へどう影響するかを調べ、色材の調製を管理するモデルやアルゴリズムを開発する計画である。
計画には、新しいインクの研究に加え、各工程の間を移動する自律搬送システムと、そこに組み込む外観検査も含まれる。色をつくる工程、塗る工程、運ぶ工程を切り離さず、品質を工程のつながりとして管理しようとしている。これは公表された開発計画であり、全拠点ですでに稼働する検査方式という意味ではない。
炉を電化することと、製造全体の課題
2024年、ピーザウのガス炉を電気炉へ
香水瓶の製造では、ガラスを溶かす熱をどう得るかが大きな課題になる。2024年、ピーザウでは3月から生産を止め、ガス炉を解体して全電気式の溶融炉へ置き換えた。9月16日に新炉を披露し、10月からの生産再開を案内した。
同社の発表による設備能力は一日70トンのガラス溶融で、この第一段階の投資額は約1,700万ユーロである。これは同工場の炉の能力と投資額であり、グループ全体の生産量でも、排出削減量でもない。その時点でクラインテッタウの二基の溶融炉も電気式となっていた。
2026年の炉更新が示す、設備を維持する仕事
2026年4月、クラインテッタウでは新しい電気式溶融炉「Josephine(ジョゼフィーヌ)」の稼働が公表された。投資額は約1,300万ユーロ。古い炉のガラスを抜き、冷却し、解体し、新炉を築いて昇温するまで約14週間を要した。電化を決めることに加え、設備を更新して生産へ戻す長い作業がある。
「炉の建設は、いつも大きな事業であり、チームワークによって初めて実現できます。」
— カルレッタ・ハインツ(2026年4月)
同社は、2024年以降、ドイツのガラス生産拠点では全電気式の溶融炉のみを使い、CO₂を排出しない電力で溶融していると説明する。ただし、ここでの説明は電力と溶融工程に関するものだ。原料、輸送、後続の加工も含む瓶全体の排出がゼロという意味にはならない。
電化後も残る、エネルギー価格と後工程
「エネルギーコストの上昇は、依然として私たちの事業の最も重い負担の一つです。」
— カルレッタ・ハインツ(2026年10月)
カルレッタは2026年10月、ドイツの電気式溶融設備が電力価格の変動にさらされることを説明した。また、溶融ガラスを成形機へ導くフィーダーや冷却ライン、装飾工程の炉などについても電化の研究開発を進めるとしている。溶融炉の電化と、製造全体から化石燃料をなくす将来目標は、同じ到達点ではない。
再生ガラスも、回収して炉へ戻せばすべてが解決するわけではない。2020/2021年のサステナビリティ報告書は、使用後に回収されたガラスを使う製品や、軽量化、詰め替えに向けた設計を扱っている。容器を一度つくる際の材料、使う回数、回収後の扱いを合わせて考える必要がある。再生材の配合率を、同社の全製品に共通する数値として受け取らないことも大切だ。
ハインツ・グラスを見ると、香水瓶の量産は、香りを包む外形を増やすだけの仕事ではないと分かる。金型を通して形を再現し、表面加工でその表情を変え、品質とエネルギーの条件を整える。家族企業の継続とは、その仕事を次の世代にも実行できる設備と組織へ、更新し続けることなのである。
香水瓶の造形を量産へ移す仕事は、ポシェのガラスと装飾でも扱っている。メーカーごとに、形、材料、設備をどう結びつけるかを見ると、香水のものづくりの輪郭がさらに広がる。
参考文献
- The CEO Magazine「Born Leader: Carletta Heinz」(2021年4月29日) — https://www.theceomagazine.com/executive-interviews/manufacturing/carletta-heinz/
- HEINZ-GLAS「Our Family Tradition」 — https://heinz-glas.com/en/thats-us/family-tradition
- HEINZ-GLAS「Our Milestones」 — https://heinz-glas.com/en/thats-us/milestones
- HEINZ-GLAS「Generation change at HEINZ-GLAS GROUP」(2020年8月12日) — https://heinz-glas.com/en/news-1/detail?tx_news_pi1%5Bnews%5D=196&cHash=20f32e2c50583a7a2d2e9f86d177a0ec
- Full Beauty Suppliers「HEINZ-GLAS: Rising to Every Challenge!」(2026年10月8日) — https://www.fullbeautysuppliers.com/en/packaging/article/heinz-glas-rising-to-every-challenge
- HEINZ-GLAS「Quality & Competence」 — https://heinz-glas.com/en/thats-us/quality-competence
- Bucher Emhart Glass「Making Glass Containers」— IS成形とゴブの技術解説 — https://emhartglass.com/node/26
- HEINZ-GLAS「Glass / Glasmeisterwerke」 — https://heinz-glas.com/en/products/glass
- HEINZ-GLAS「MIRRA — Smart Customization」(2026年) — https://heinz-glas.com/fileadmin/user_upload/Individualized_Mirra_2026.pdf
- HEINZ-GLAS「Decoration」 — https://heinz-glas.com/en/products/decorations
- HEINZ-GLAS「EU funding for an innovative project at our Polish decoration site 2HD」(2025年8月21日) — https://heinz-glas.com/en/news-1/detail?tx_news_pi1%5Bnews%5D=352&cHash=6110fa44cca1f33e56541b58aee548bf
- HEINZ-GLAS「New electric glass melting furnace inaugurated at Piesau site」(2024年9月27日) — https://heinz-glas.com/en/news-1/detail?tx_news_pi1%5Bnews%5D=322&cHash=7776c31f71fd53d8cc67163f24d9a226
- HEINZ-GLAS「HEINZ-GLAS inaugurates a new electric glass melting furnace at its plant in Kleintettau」(2026年4月8日) — https://heinz-glas.com/en/news-1/detail?tx_news_pi1%5Bnews%5D=377&cHash=7c937a0ee4cfb7c6c0de7d39d817be37
- HEINZ-GLAS「Sustainability Report 2020/2021」 — https://heinz-glas.com/fileadmin/user_upload/Unsere_Nachhaltigkeit/Nachhaltigkeitsbericht/HEINZ-GLAS_Nachhaltigkeitsbericht_202021_ENG.pdf


