「私たちはこの画一化に、調香師の仕事への情熱を持ち続けるメゾンとともに立ち向かっています。」
パブロ・ペレス(香水部門責任者)
ブリュッセルのサントゥール・ダイユールは、南フランスを愛した夫婦の店から始まった。いまは香水と化粧品を扱う専門店だが、その歩みを動かしてきたのは、世界の香りを探す家族とスタッフ、そして旅先で見つけた香水を教えてくれる客たちである。
店の名前はSenteurs d’Ailleurs。フランス語で「よその土地の香り」を思わせるこの名前にふさわしく、品揃えはプロヴァンスから世界へ広がった。しかし、何でも置くことが目標になったわけではない。どの香水を迎え、どう紹介し、客が自分の香りに出会うまでの時間をどう支えるか。その選択に、この店の歴史がある。
基本情報
- 名称:Senteurs d’Ailleurs(サントゥール・ダイユール)
- 開店:1997年、ベルギー・ブリュッセルのルイーズ通り
- 創業:ピエール・ドニーと妻ジョジアーヌによる家族の事業。娘ロランスが加わり発展を担った。
- ブリュッセル店:Place Stéphanie 1A/3, 1000 Bruxelles, Belgique
- ワーテルロー店:171, chaussée de Bruxelles, 1410 Waterloo, Belgique
- 公式サイト:Senteurs d’Ailleurs
創業者と店の成り立ち
金融の仕事から、夫婦が好きだった南仏の香りへ
ピエール・ドニーは、最初から香水の専門家だったわけではない。金融の世界で24年間働き、47歳でその仕事を離れた。妻ジョジアーヌと選んだ次の仕事が、独学で取り組む香りの店だった。二人に共通していたのは、プロヴァンスと南の土地の香りへの愛着である。
1997年、ルイーズ通りに最初の店が開いた。公式沿革が開店時の三つのブランドとして挙げるのは、ロクシタン、エステバン、コントワール・シュッド・パシフィック。地中海の製品をブリュッセルへ届けるという発想が、仕入れにも内装にも通っていた。
娘のロランスも早くから加わった。営業と経営の経験を携えた彼女が読み取ったのは、既存の香水売場とは違うものを探す客の存在だった。家族が好きな南仏の世界を紹介する店は、客の好奇心に応える店へ変わっていく。
客が旅先から持ち帰った発見と、2002年の移転
美容ジャーナリストのソフィー・アルブレヒトが描く初期の店は、黄色く古色をつけた壁を持つ空間だった。そこへ、旅慣れた常連客から新しいブランドの情報が入ってくる。店だけが客に教えるのではなく、客の発見が店の選択肢を増やしていたのである。
公式沿革は1999年を、独自性のあるブランドへ軸足を移した年とする。2000年にはパブロ・ペレスが加わった。後に香水部門を任される彼は、ドニー夫妻と娘ロランスのもとで、店とともに経験を重ねた。
パブロが具体的な年を挙げる次の転機は2002年の移転である。別の店舗へ移り、フレデリック・マルやラルチザン パフュームなど、より限られた売場で紹介される香水の存在感が増していった。
2005年の地元紙BRUZZの店頭取材にも、すでにその変化が見える。スタッフは温かなミルクを題材にしたマタン・カランや、カカオを扱うアムール・ド・カカオを紹介し、当時のイウンクスには壁面を使った展示を用意していた。香水を有名な名前で選ぶ以外の入口を、店が具体的に差し出していた。
2011年、香水と化粧品にそれぞれの空間をつくる
2011年、店は近くのステファニー広場へ移る。ここで香水の「Haute Parfumerie」と、化粧品・施術の「Haute Cosmétique/Institut」という二つの空間が形になった。
2018年のELLE Belgiqueの訪問記事が伝えるのは、黒を基調とする香水の空間と、白を基調とする化粧品・インスティテュートの対照である。2021年のPOLLENの取材でも、香水側は収集家の書斎を思わせる親密な雰囲気、化粧品側は明るく簡潔な空間として描かれている。同じ店の選品を、香りを探す時間と肌のケアを相談する時間に分けて見せていた。
2017年の20周年には、ミゼンジールのアルベルト・モリヤスへ依頼した限定キャンドル「Lilas Noir」が登場した。黒と白の装いは店舗の色を反映している。仕入れて紹介する関係から、店の節目を作り手と一緒に形にする関係へ。このキャンドルは、その積み重ねを示す一例である。
ブリュッセルの外へ、ワーテルローの店
その後の展開には、ワーテルローへの出店がある。パブロはBe Perfect Magazineで、ブリュッセル郊外の客が中心部まで来る機会を減らしており、近くに店が欲しいという声があったと説明している。
公式発表も、ブリュッセル南部とブラバン・ワロンの客がアクセスしやすい立地を選んだことを伝える。店舗を増やす理由は、遠くの珍しい香水を集めることだけではなかった。すでにつながりのある客との距離を縮めることでもあった。
歴史年表
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1997年 | ドニー夫妻がルイーズ通りで最初の店を開く。 |
| 1999年 | 独自性・限定性を重視する選品へ方向を明確にする。 |
| 2000年 | パブロ・ペレスが加わる。 |
| 2002年 | 別の店舗へ移転。ニッチ香水の紹介が広がる。 |
| 2011年 | ステファニー広場へ移り、香水と化粧品の二つの空間を開設。 |
| 2017年 | 20周年。ミゼンジールとの限定キャンドル「Lilas Noir」。 |
| 2021年6月 | オンラインの試香を支えるSamples Boxを開始。 |
| 現在 | 公式サイトがブリュッセル店とワーテルロー店を案内。ブリュッセルにはインスティテュートを併設。 |
選品と接客の考え方
似た香りを増やすより、選ぶ理由を残す
「何もかも揃えることが目的ではありません。」
パブロ・ペレス
2022年、創業25周年のパブロは、かつては店がブランドへ取扱いを頼んでいたのに、いまはブランドから声がかかるようになったと語った。しかし、売場の広さには限りがある。同じような香りを十五種類も並べても客を迷わせるだけで、選択肢の多さが選択を難しくしてしまう。それが彼の問題意識だった。
彼のいう「エクスクルーシブ」は、高価であることと同義ではない。珍しく、よくつくられていること。既存の品揃えとつながりながら、何かを付け加えてくれること。長く付き合うメゾンを大切にしつつ、迎える理由を考えるのである。
店が作り手の仕事を重視する姿勢は、世界の香水店を見比べるときにも興味深い。単に取扱いブランドが違うのではなく、何を残し、どう紹介するかに、それぞれの店の個性が表れる。
客の言葉を、香りを探す手がかりに訳す
「香水のアドバイザーとしての私の仕事は、何よりもまず、聞くことと観察することにあります。そして、伝えて教えることです。」
パブロ・ペレス
パブロは、香水への愛情の始まりを、おそらく子どもの頃だとする。美しいもの、珍しいもの、洗練されたものを好み、派手さよりも職人の優れた技に贅沢を感じるという。
その好みを客へ押し付けることが、接客なのではない。客が日常の言葉で話す希望を、香水を探すための言葉へ訳すことも自分の役割だと考えている。「ムスクの香りが好き」という言葉一つでも、本人が思い浮かべる匂いを聞き取る必要がある。専門用語を知っているかどうかではなく、その人が何を探しているかを捉える仕事である。
この姿勢は新しい理念ではない。2005年のBRUZZでは、当時のスタッフ、セドリック・イェルナンダーが、香りの広がりには時間が必要であり、香水は個人の感覚に合うものでなければならないと話していた。店頭で一瞬嗅いだ印象の先に、時間とともに変わる香りを見る。その案内が長く続いている。
「ここではセルフサービスではありません。私たちは助言し、発見してもらい、旅へいざない、情熱を分かち合うためにいます。」
パブロ・ペレス
Be Perfect Magazineでのこの言葉には、インターネットが広がった後も実店舗が担う仕事がよく表れている。棚へ自由に手を伸ばすことよりも、人が間に入って未知の香りとの距離を縮めることに重心がある。
現在の店舗と、自宅で試す仕組み
香水・ビューティー・施術の役割
現在の公式案内では、ブリュッセルのステファニー広場1A/3に香水、化粧品、インスティテュートがあり、ワーテルローのショセ・ド・ブリュッセル171番地には香水と化粧品の店がある。事務所とEC部門の住所は別なので、店を訪ねる際に混同したくない。
公式の施術メニューには、ビオロジック ルシェルシュ、ダーマロジカ、ラ・メールなどを使うフェイシャルや、顔・身体のマッサージが掲載されている。化粧品を並べるだけでなく、その使い方や肌の状態について専門スタッフと相談する場まで持つことが、この店のビューティー部門の特徴である。
オンラインでも、買う前に香りと過ごす
コロナ禍の2021年6月には、ECでの試香を支えるSamples Boxが始まった。画面だけでは匂いが伝わらないという、香水のオンライン販売に固有の問題への対応である。
現在の公式ページでも、五つの香りを自分で選ぶ方式と、店のテーマ別選定に任せる方式を案内している。各2mlのスプレーサンプルに試香紙を添え、自宅で紙や肌に試せる仕組みだ。店舗ではスタッフとの会話から、オンラインではサンプルと過ごす時間から、香水との出会いを支える。南仏の香りを紹介した家族の店は、香りを発見する方法そのものを広げてきたのである。
参考文献
- Ode à la volupté — POLLEN(2021年、パブロ・ペレスらへの店頭取材)
- Notre histoire — Senteurs d’Ailleurs公式沿革
- Senteurs d’Ailleurs, de Brusselse tempel van de nicheparfums — Sofie Albrecht(2022年)
- Dans le sillage de Pablo Perez — Be Perfect Magazine、Olivia Roks
- Meet the team, Pablo Responsable Haute Parfumerie — 公式インタビュー(2021年9月15日)
- Senteurs d’Ailleurs: een neus voor vreemde geuren — BRUZZ、Jean-Marie Binst(2005年5月22日)
- Nos belles adresses : Senteurs d’Ailleurs — ELLE Belgique(2018年7月18日)
- Senteurs d’Ailleurs fête ses 20 ans avec une bougie d’exception — ELLE Belgique(2017年10月3日)
- Settled in Waterloo — Senteurs d’Ailleurs公式プレス発表
- Senteurs d’Ailleurs propose des boites d’échantillons en ligne — ELLE Belgique(2022年1月31日)
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