植物性ミルクを「濃厚」と感じるとき、舌に触れる液体だけでなく、鼻に届く香りも関わっているかもしれません。2024年の研究では、エンドウたんぱく質を使った飲料にミルク・クリーム系の香料を加えると、脂っぽさ、厚み、飲み込んだ後に口の中を覆う感覚の評価が高くなりました。
一方、香料を加えても、脂肪量の違いを見分ける成績には明確な変化がありませんでした。「濃厚に感じること」と「どちらに脂肪が多いかを見分けること」を分けて調べた研究です。
脂肪量と香りを、別々に変えた飲料
研究者らの目的は、植物性飲料で香りが脂肪の口当たりを変えるか、その変化が液体の物性とどう関係するかを確かめることでした。乳製品で研究されてきた香りと口当たりの関係が、青臭さ、苦味、渋みなどを持つ植物性原料でも成り立つかに着目しています。
試料は、2種類のエンドウたんぱく質分離原料を合わせて3%加えた水をベースに、菜種油を0、1.5、3.5%加えたモデル飲料です。各脂肪量について、香料なし、香料A、香料Bを用意しました。どちらもミルク・クリーム系ですが、Aは脂肪やクリームを思わせる方向、Bはココナツや果実を思わせる特徴を持ち、揮発しやすい成分の割合も異なります。添加量はAが0.04%、Bが0.05%でした。
官能評価では室温の試料30mLを、黒いカップに入れて赤色光の下で提示しました。見た目の手掛かりを抑え、試料の番号と試飲順を無作為化しています。参加者は全員dsm-firmenichの社員で、判別試験は1回につき31〜36人、特徴を詳しく記述する試験は19〜29人でした。
鼻をふさいでも、脂肪量の違いは見分けられた
最初の課題では、3試料のうち最も脂肪が多く感じられるものを選びました。0%と1.5%、1.5%と3.5%、0%と3.5%の比較を、鼻栓あり・なしで行っています。
この飲料では、鼻栓をしても、しなくても、すべての脂肪量の組み合わせを偶然以上の成績で見分けられました。香料AやBを加えても判別は可能で、香料や鼻栓による判別力の改善・低下は明確には認められませんでした。
つまり、香りの手掛かりを抑えても、口の中に残る味や感触から違いを捉えられたという結果です。著者らは、植物性原料の渋みや苦味も判断に関わった可能性を挙げていますが、どの感覚を使ったかを直接切り分けた試験ではありません。
同じ脂肪量でも、香料で口当たりの評点が上がる
次に、香り、味、口当たりの各特徴を評価しました。鼻栓をしない通常の条件では、香料A・Bを加えた飲料で、ミルクやクリームの香りに加え、脂っぽさ、液体を舌で動かすときの厚み、飲み込んだ後の口内被膜感の評点が高くなりました。
特にAは、Bより脂肪に関連する口当たりを強くする方向でした。Bを含む脂肪入り飲料では甘さの評点が高く、著者らは果実を思わせる香りとの連想を考察しています。香料の性格によって、強まる感覚の方向も違うことがうかがえます。
著者らは、脂肪1.5%にAを加えた試料の感覚的な特徴が、香料なしの3.5%試料に近づいたことも結論に挙げています。ただし、これは評点の近さを示す比較です。二つの飲料が完全に同じ口当たりになったことや、誰もが同じように好むことを確かめたものではありません。
香料の追加は、脂肪を実際に増やす操作のすべてを再現するわけでもありませんでした。脂肪量を増やすと渋みや青い野菜のような香りの評価も下がった一方、香料を加える操作では、これらに明確な変化は報告されていません。また、全試料を比べた解析では、苦味、穀物様の香り、段ボール様の香りに有意な差はありませんでした。
液体が物理的に濃くなったのかも調べた
香料が液体そのものを変えていれば、口当たりの変化を香りだけで説明することはできません。そこで研究者らは、油滴や粒子の大きさ、粘度、二つの表面の間で液体がどの程度滑りやすくなるかを測定しました。
実際の脂肪量を増やすと粘度は少し上がり、摩擦は低下しました。滑りやすさの指標は、脂っぽさ、厚み、口内被膜感の評点と正に関連し、渋みとは負に関連しました。これに対して、粘度と各感覚評点の有意な相関は見られませんでした。少なくとも今回の低脂肪のモデルでは、粘度だけより、潤滑の性質が脂肪感を理解する手掛かりになっています。
同じ脂肪量の試料に少量の香料を加えた比較では、粒子径、粘度、摩擦に有意な違いは認められませんでした。さらに脂肪3.5%の3試料を鼻栓付きで評価すると、香料の有無による味や口当たりの差も有意ではなくなりました。この二つの結果が、鼻からの香りが口の感触の評価を変えるという説明を支えています。
「クリームらしい香り」が感覚をつなぐという解釈
著者らは、ミルクやクリームの香りと、脂肪のある食品の口当たりとの結び付きが、感じ方を変えたと解釈しています。一つの感覚が別の感覚に影響する「感覚間の相互作用」です。今回の実験はその説明に合いますが、過去の食経験による学習そのものや、脳内の処理を測定したものではありません。
対象は2処方の香料とエンドウベースのモデル飲料で、鼻栓付きの詳細評価は脂肪3.5%に限られます。また、社員パネルによる特徴の評価であり、一般消費者の好み、満足感、実際の摂取量を調べた試験ではありません。製品への応用には、こうした点を別に確かめる必要があります。
まとめ
エンドウたんぱく質飲料にミルク・クリーム系の香料を加えると、同じ脂肪量でも脂っぽさ、厚み、口内被膜感の評点が高くなりました。物性に有意な変化がなく、脂肪3.5%での鼻栓条件では味と口当たりの差が有意でなかったことから、香りが脂肪感を補う可能性が示されています。
一方、脂肪量を見分ける力は香料や鼻栓によって明確には変わらず、実際の脂肪による潤滑の性質も口当たりと関連しました。植物性飲料の濃厚さを考えるには、脂肪量や物性に加えて、どんな香りがその感触と結び付くかを見ることが重要だとわかる研究です。
研究資金はdsm-firmenichが提供しました。研究当時、著者7人のうち6人は同社の部門に所属し、官能評価の参加者も同社社員でした。論文の競合利益欄は「なし」と記載されています。
参考文献
Vossen RM, Gelin J-L, Hettinga K, et al. Improving plant-based protein drinks: The potential of flavors for cross-modal enhancement of fat perception. LWT. 2024;213:117016. doi:10.1016/j.lwt.2024.117016


