足のにおいは、汗だけから生まれるわけではない?

足のにおいは、汗だけから生まれるわけではない? 香りの科学

足のにおいというと汗を思い浮かべますが、皮膚の角質も、菌にとってはにおい成分の材料になり得ます。2013年の研究では、足の角質、角質を分解する菌が出した酵素を含む液、別の菌を組み合わせると、足臭に関わるイソ吉草酸が生じました。

研究の目的は、足臭の主な成分を確かめ、その成分を作る菌と代謝を調べ、試験管内で一連の過程を再現することでした。「どんな菌が多いか」から一歩進んで、「何を材料に、何を作るか」を追っています。

足から採った試料を、機械と鼻の両方で分析

最初の試料提供者は研究室職員の男性2人、女性1人、20〜35歳の3人でした。足の前方の皮膚から採取する方法と、少量の水を入れた袋で足を6時間覆う方法で、菌やにおいの試料を集めました。日常の靴の中をそのまま測ったものではなく、湿った条件で菌や成分を集めやすくした実験です。

6時間後には、足や袋内の空気がチーズ様・酸っぱいと3人の評価者に表現されました。袋にたまった液は、そのままではにおいが弱く、酸性にすると同様の特徴がはっきりしました。

その液から成分を取り出し、ガスクロマトグラフィーで分けた後、質量分析と、出口のにおいを人が嗅ぐ評価を同時に行いました。においを嗅ぐ分析は2人が交代して担当しています。足臭らしい成分として酪酸、イソ酪酸、イソ吉草酸が挙がり、特にイソ吉草酸が足臭に近いと評価されました。

抽出法によっては、インドール、スカトール、特定できなかった揮発性硫黄成分も、程度は小さいながら足臭に関連していました。足臭をイソ吉草酸一つに置き換えた研究ではありませんが、その重要性を踏まえ、後の実験はこの酸の生成に焦点を当てました。

ロイシンからイソ吉草酸を作る菌

3人の足から分離して集めた菌は77株でした。ブドウ球菌、コリネバクテリウム、ミクロコッカス、キトコッカス、ブレビバクテリウムという属を含みます。培養して得た菌の集まりなので、足にいる菌全体を漏れなく表したものではありません。

研究者らは、それぞれの菌にアミノ酸のロイシンを与えて培養し、生じた酸を測りました。イソ吉草酸を多く作ったのはブドウ球菌の仲間で、調べた15株の生成率は、与えたロイシンに対するモル比で約10〜80%と大きく違いました。

同じ属でも株によって働きは異なります。一部の菌種は生成が多く見えましたが、各菌種の株数は少なく、著者らも菌種全体の順位を決めるには追加の検討が必要としています。今回調べたコリネバクテリウムの株は、この条件ではイソ吉草酸を作りませんでした。

ロイシン以外に、バリンからイソ酪酸、イソロイシンから2-メチル酪酸を作る反応も調べました。これらの生成率はロイシンからイソ吉草酸への変換より低く、最初のにおい分析とも合わせて、イソ吉草酸を重視する根拠となりました。途中の個々の酵素反応の経路は、データベースをもとに提案されたもので、すべての段階を今回直接測定したわけではありません。

においを作るだけでなく、消費する菌もいる

菌の働きは、成分を作る方向だけではありませんでした。代表として選んだ菌株にアミノ酸や、その先にできる酸を与えると、キトコッカス、ミクロコッカス、ブレビバクテリウムの一部は、イソ吉草酸なども利用して減らせることが分かりました。

対して、詳しく調べたブドウ球菌はアミノ酸から酸を作るものの、できた酸をさらに利用する能力は見られませんでした。著者らは、足に残るにおい成分の量は、作る菌と利用する菌の数、そしてそれぞれの反応速度の釣り合いで変わると考えています。

つまり、菌がいること自体と、においが強くなることは同じではありません。どんな代謝を行う菌の組み合わせかを見る必要がある、というのがこの研究の重要な結果です。

角質からにおい成分までを、一つの容器で再現

ロイシンなどのアミノ酸は、汗の成分だけでなく、皮膚のタンパク質にも含まれます。そこで研究者らは、足の厚くなった角質を材料にして、イソ吉草酸が生じる過程を再現しました。

角質を分解する側として用いたのは、Kytococcus sedentariusの培養液から菌を除き、濃縮した上清です。角質のケラチンを分解する酵素を含む液ですが、単一の酵素を完全に精製したものではありません。生きた菌そのものを使わなかったのは、この菌が、できたイソ吉草酸まで消費してしまう可能性があるためです。

角質1 g、酵素を含む上清、イソ吉草酸をよく作るStaphylococcus capitis G390株を一つの容器に入れ、48時間培養しました。2回の実験で生じたイソ吉草酸は0.62、0.58 mg/mLでした。角質を加えない条件では検出されず、上清と角質だけ、またはブドウ球菌と角質だけの条件では、いずれもこれより少ない量でした。

この結果は、角質のタンパク質を分解して材料を取り出す働きと、その材料をにおい成分へ変える働きを組み合わせることで、角質からイソ吉草酸が生じることを示しています。生成を抑える物質や反応を、今後研究するためのモデルにもなります。

足のケアへの応用は、次の段階

人からの試料は3人で、培養可能な菌を中心に調べています。角質モデルも試験管内の条件です。実際の足で、汗由来と角質由来の材料がそれぞれ何割を占めるかや、角質を取り除いた場合の消臭効果を測った研究ではありません。

また、足臭に関連した酪酸や未同定の硫黄成分がどう作られるかなど、残る問いもあります。著者らは、足の菌の多様性をさらに調べ、特定の菌、におい成分、代謝経路や酵素を狙う消臭法へつなげることを提案しています。

まとめ

足から採った試料ではイソ吉草酸が足臭らしい主要成分の一つとして確認され、分離菌の実験ではブドウ球菌がロイシンからこれをよく作りました。一方で、できた酸を利用して減らす菌もあり、生成と消費の両方がにおいを左右すると考えられます。

さらに、角質、角質分解酵素を含む液、ブドウ球菌を組み合わせると、角質からイソ吉草酸を作る過程を再現できました。足のにおいを、汗の量だけでなく、皮膚の材料と菌の代謝のつながりから理解する研究です。

研究の資金・所属:研究費はUnileverが全額負担しました。研究当時、著者3人のうち2人はUnilever、1人はノッティンガム大学に所属していました。独立した利益相反の申告欄は確認できませんでした。

参考文献

James AG, Cox D, Worrall K. Microbiological and biochemical origins of human foot malodour. Flavour and Fragrance Journal. 2013;28:231–237. doi:10.1002/ffj.3136(オンライン公開2012年)