一部の香りに慣れると、ブレンドの別の顔が見える

一部の香りに慣れると、ブレンドの別の顔が見える 香りの科学

同じブレンドでも、直前に何を嗅いだかで、見つけやすい香りが変わる。2017年の研究では、混合物の一部を先に5秒間嗅ぐと、その成分を言い当てる割合が下がり、後から加わった成分が相対的に分かりやすくなりました。

もう一つの発見は、異なる二成分が共通の香調を持つ場合、その香調が混合物の中で目立つことです。ブレンドの認識は、材料の種類だけでなく、嗅ぐ順番や、成分同士で重なる香りの特徴にも左右されていました。

チェリー、キャラメル、煙、ブドウの4成分を使った

研究の主な目的は、短い順応で混合物中の成分の見つけやすさが変わるという先行結果を、別の4成分でも確かめることでした。今回は、最初に水だけを入れた瓶の上部の空気を嗅ぐ対照条件も加えています。

使ったのは、チェリー様のベンズアルデヒド、キャラメル様のマルトール、煙様のグアイアコール、ブドウ様のアントラニル酸メチルです。14人の非喫煙者が参加し、試験の前に、各成分と対応する名前を覚えました。マルトールには、本人が分かりやすい場合は「綿あめ」という呼び方も使いました。

参加者は単独成分や2〜4成分の混合物を嗅ぎ、覚えた名前のうち何が分かるかを答えました。本課題は香りの強さを数値で付ける試験ではなく、成分に対応する名前を選べるかの試験です。予備評価で各成分は中程度の強さでしたが、強さは完全には一致していませんでした。

先にある香りに慣れると、追加された香りが相対的に残る

試験では、一つ目の瓶を約5秒間嗅いでから、二つ目の瓶を嗅ぎました。例えば、一つ目にチェリーと煙、二つ目にその二つとキャラメルがあれば、最初からあった二成分が「既存成分」、二つ目で加わるキャラメルが「追加成分」に相当します。

対照では、一つ目を水にし、二つ目に同じ混合物を提示しました。各成分の溶液中の濃度は、単独の場合と混合した場合で同じにしています。実験条件と対照条件は別の日に行い、条件の順序は参加者間で変えました。

水を先に嗅いだ場合、既存成分と追加成分という便宜的な区分の正答率は、いずれも約50%でした。選択的に順応した場合には、既存成分の識別率が水対照より下がり、追加成分は既存成分よりよく識別されました。この相対的な優位は、2、3、4成分の混合物で見られました。

ただし、追加成分の識別率が、水対照より高くなる変化そのものは有意ではありませんでした。中心となる結果は、慣れた成分が見つけにくくなり、混合物の中で追加成分との目立ち方の差が生じたことです。

チェリーはもともと強い手掛かりだった

どの成分も同じように認識されたわけではありません。水対照の混合物では、チェリーという回答は平均約71%で、ほかの3成分の平均約43%より多くなりました。単独ならほぼ全て正しく名付けられた成分も、混合すると見つけにくくなっています。

一方、チェリーは、一部の組み合わせでは先に嗅いでいても比較的よく認識されました。順応の影響に加えて、もともとの成分の目立ちやすさが、混合物の中で何を捉えるかに関わっていたと考えられます。

ブドウの成分に、煙のような一面もあった

アントラニル酸メチルは、ブドウに対応する成分として学習しました。それでも単独提示では、ブドウという回答が61%、煙という回答が29%ありました。著者らは、これを単なる誤答として片付けず、この成分にグアイアコールと共通する香りの一面がある可能性として調べました。

グアイアコールとアントラニル酸メチルを混ぜると、水対照でも煙はブドウよりよく識別されました。さらに、どちらか一成分を先に嗅いだ場合でも、混合物では煙の回答が優位でした。

比較として、それぞれをマルトールと組ませると、通常の「先に嗅いだ成分より、後から加わった成分が分かりやすい」という関係が現れました。この違いから著者らは、二つの成分に共通する煙様の香調が、重なることで目立ちやすくなったと解釈しています。

ここで増減したのは、煙やブドウという名前で答えた頻度です。煙のにおいが何倍強くなったという強度測定ではありません。また、使える名前が限られていたことも、この結果を読む際の条件になります。

混ざっていても、成分の情報は取り出せる

著者らは、混合物の中で分かりにくかった成分が、嗅ぐ順番を変えると再び認識されることを重視しています。混ざった時点で成分の情報が完全に失われたのではなく、どの情報が目立つかが短時間で変わるという見方です。

鼻の受容段階での順応や、脳内での信号同士の抑制が関わる仕組みを提案していますが、この研究が直接測ったのは人の回答です。受容体や脳活動を測定して、その機序を特定したわけではありません。調べたのも、事前に名前を覚えた4成分の特定濃度であり、自然のあらゆるブレンドを何成分まで分解できるかという上限を決める実験ではありませんでした。

まとめ

混合物の一部を先に5秒間嗅ぐと、その成分の識別が下がり、後から加わる成分が相対的に分かりやすくなりました。チェリーのようにもともと目立つ香りや、二成分に共通する煙様の香調は、その一般的な関係から外れる場合もありました。

同じ成分表でも、直前の嗅覚経験によって、ブレンドのどの一面を捉えるかは変わります。研究は、香りの認識を固定された一枚の印象としてだけでなく、短時間で目立つ情報が入れ替わる過程として示しています。

研究は米国国立衛生研究所、コネティカット大学財団、同大学歯学部と臨床研究センターの支援を受けています。主本文には独立した利益相反声明は見当たりません。

参考文献

Frank ME, Fletcher DB, Hettinger TP. Recognition of the Component Odors in Mixtures. Chemical Senses. 2017;42:537–546. 原著論文