チョコレートコスモスは、なぜ焼いたカカオのように香る?

チョコレートコスモスは、なぜ焼いたカカオのように香る? 香りの科学

チョコレートコスモスのほのかな香りには、甘いバニラだけでなく、乾いたロースト感やスパイシーさも関わっていました。2025年の研究は、栽培品種「チョカモカ」の咲いている花から香りを集め、その特徴を担う主要な候補として、3種類の成分を見いだしました。

その一つが、2-メトキシ-3,5-ジメチルピラジン。論文ではMDPと略される成分で、研究者たちは、その香りに焙煎したカカオ豆を思わせる特徴を認めました。

バニリンだけでは説明しきれない、花の香り

チョコレートコスモスは、暗い赤茶色の花と、チョコレートを思わせる香りで知られています。しかし研究当時、花の香りにバニリンが関わるという記述はあっても、ほかにどんな成分が特徴をつくるのか、具体的な分析は乏しい状況でした。

著者3人が育てた「チョカモカ」の花を嗅ぐと、感じたのは、焙煎したカカオ豆を思わせるほのかな香りでした。甘いバニリンに加えて、別の重要な成分があるのではないか。そこから、開花状態の花の香りを調べる研究が始まりました。

咲いたままの花から集め、分けて嗅ぐ

研究では、開花から2日以内の花1輪をガラス器具に入れ、周囲の空気を循環させて、放出された成分を吸着材に集めました。花をすりつぶした抽出物ではなく、花から空気中へ出る香りを対象にした方法です。

2024年10月と12月に各1輪を調べ、さらに翌年5〜6月に2株から咲いた計5輪について、1輪ずつ捕集しました。翌年分は、集めた溶液を合わせて成分分析に使っています。時期の異なる花も、著者3人の評価では、最初に確認した香りと同様の特徴を持っていました。

分析の鍵は、「装置で分けた成分を、人が順番に嗅ぐ」GC-O、におい嗅ぎガスクロマトグラフィーです。著者2人が、どの時間帯にどんなにおいが現れるかを確認し、性質の異なる2種類の分析カラムと、成分の標準品を使って照合しました。続いて、質量分析によって分子の情報も確かめました。

ロースト、スパイス、バニラの3要素

におい嗅ぎ分析で主に見つかったのは、次の3つの特徴でした。

  • MDP:乾いたロースト感のあるココア様のにおい。
  • オイゲノール:スパイシーで、花を思わせるにおい。
  • バニリン:甘いバニラ様のにおい。

これらは、分析中に現れる位置と香りが標準品に対応し、質量分析でも存在が確認されました。特にMDPは小さなピークでしたが、翌年に5輪から集めた試料でも、特徴的な質量スペクトルを示す微小なピークが確認されています。

著者たちは、エタノールで500ppbに薄めたMDPの溶液にも、加熱されたカカオ豆の焙煎香を思わせる特徴を認めました。これは標準品を希釈して嗅いだ条件であり、花が放つ空気中の濃度を測った値ではありません。

ほかに、2種類のピラジン類を思わせる弱く短いにおいも捉えられました。ただし、こちらは存在が示唆された段階として報告されています。主要3成分の確認とは、根拠の確かさを分けて読む必要があります。

大きな分析ピークが、主役とは限らない

成分分析の図を見ると、MDPなどより大きなピークも多数ありました。たとえばオシメンなどのモノテルペン類、ゲルマクレンDやβ-カリオフィレンなどのセスキテルペン類です。しかし、におい嗅ぎ分析では、これらの成分の花の特徴への寄与は低いと考えられました。

この違いが、香りを調べる面白さです。装置が強く捉える成分と、人の鼻が特徴として捉える成分は、必ずしも一致しません。著者たちは、MDPが非常に低い濃度でも感じられるという先行研究を踏まえ、微量でもこの花らしさに関わる重要な要素だと考えました。

今回、3成分を混ぜて花の香りを再現したり、一つずつ抜いて変化を調べたりする実験は行われていません。したがって、得られたのは、分離したにおいと標準品の比較から主要な寄与成分を推定し、その存在を化学的に確認した結果です。

まとめ

「チョカモカ」の香りには、甘いバニリンに加え、乾いたココア様のMDPと、スパイシーフローラルなオイゲノールが、主要な要素として関わることが示されました。特にMDPは小さな分析ピークでも、焙煎したカカオを思わせる特徴と結び付きました。

花の香りを理解するには、多く含まれる成分を並べるだけでなく、実際に鼻で感じる特徴との照合が大切です。今回の対象は一つの栽培品種と少数の株であり、ほかのチョコレートコスモスにも同じ組み合わせがあるかは、次に確かめたい問いとして残っています。

著者3人は、論文掲載時に塩野香料所属と記載されています。独立した研究資金・利益相反の申告欄は確認できませんでした。

参考文献

遠藤普克・増田沙織・岡田茜(2025)「チョコレートコスモス『チョカモカ』の花のにおい寄与成分の同定」におい・かおり環境学会誌、56(4)、277–280。doi:10.2171/jao.2025.04(原著全文)