花の写真を見ると、慣れかけた花の香りに気付きやすい?

花の写真を見ると、慣れかけた花の香りに気付きやすい? 香りの科学

花の香りが漂っているとき、花の写真を見ると、その香りに気付きやすくなるのでしょうか。2020年の研究では、花の画像を見たときのほうが、日用品の画像を見たときより「香りがある」と答える割合が高く、回答も速くなりました。

ただし、香りを嗅ぎ続けて慣れてくると、その違いは一様には残りませんでした。研究は、目から入る手掛かりと、においへの慣れがどう関わるかを、行動と脳波の両方から調べています。

見たものと香りが合うとき、慣れ方は変わる?

同じにおいに触れ続けると、次第に気付きにくくなることがあります。この研究でいう「慣れ」は、持続するにおいに対する知覚や反応の変化です。研究チームは、香りと意味の合う画像が検出を助けるとしても、その働きが嗅ぎ続けている間にどう変わるかを知ろうとしました。

用いたのは「New Day」というフローラル・グリーン調の調合香料です。プロピレングリコールで5%に希釈し、専用装置で一定の流量を保って鼻の下へ送りました。画面には、花の画像か、香りと直接関係しない日用品の画像を提示しています。

最初の実験では香りに気付く回答を測り、次の実験では、香りのある場合と無い場合で画像への脳応答がどう違うかを調べました。視覚が嗅覚に与える影響と、嗅覚が視覚の処理に与える影響を、両方向から見る設計です。

25人が、2分間の香りの中で「ある・ない」を回答

実験1には、嗅覚検査の基準を満たした成人25人が参加しました。120秒間にわたり香りを提示するブロックを10回行い、ブロック間には1分間の無臭空気の休憩を設けました。

各ブロックでは、花の画像10回、日用品の画像10回を、それぞれ0.5秒ずつ提示しました。参加者は直前の画像を見ているときに、においを感じたかどうかを、できるだけ速くマウスで答えます。香りは画像に合わせて出したり止めたりせず、ブロックの間ずっと流れていました。

解析では120秒を24秒ずつの5区間に分け、「においがある」と答えた割合と、回答にかかった時間を比較しました。論文はこの割合を検出感度と呼んでいますが、ここでは無臭試行での誤報まで考慮した感度指標ではなく、実際に香りがある間の検出回答率です。

花の画像で、香りを見つける回答が多く、速くなった

全体として、花の画像では日用品の画像より、においがあると答える割合が高くなりました(p<0.001)。正しく検出したときの回答時間も、花の画像のほうが短くなりました(p=0.002)。

一方、どちらの画像でも、嗅ぎ続けるにつれて検出回答率は下がりました。画像条件の差は初めの区間で大きく、最後の24秒では有意な差が認められませんでした(p=0.28)。花の画像があっても、においへの慣れそのものは進んでいたのです。

回答時間では、花の画像に対する全体的な速さの利点は見られましたが、経過時間によってその差が変わるという明確な結果はありませんでした。検出する割合と、検出したときの速さは、同じようには変化しませんでした。

別の25人では、画像を見たときの脳波を記録

実験2には、別の成人25人が参加しました。今度は、145秒間香りがあるブロックを10回、無臭空気のブロックを5回行い、129電極の脳波を記録しました。各ブロックの開始時と、その後およそ30秒ごとに、においの強さも評価しています。

においの強さは、香りのあるブロックで無臭空気より高く、時間がたつにつれて下がりました。最後まで両条件の差は残ったものの、差は初めほど大きく、持続するにおいに慣れていく様子が確認されました。

脳波は、香りの開始ではなく、画像が現れた時点にそろえて解析しました。注目したのは、画像提示の250〜400ミリ秒後に前頭部付近で現れる、N400と呼ばれる負方向の電位変化です。意味、注意、記憶などに関わる情報処理の指標として検討されています。

画像と香りの組み合わせの差は、初期のN400に

香りに触れ始めた最初の時間帯では、香りの有無と画像の種類の組み合わせによってN400が変わりました。香りがあるときは、日用品より花の画像で負方向の反応が大きくなりました。一方、無臭空気のときには、花と日用品の画像の差は有意ではありませんでした。

その後の時間帯では、同様の有意な組み合わせの効果は見られませんでした。持続する香りの知覚が弱くなる中で、画像への脳応答に表れる香りの影響も変わることが示唆されます。

ただし、この脳波実験では花の画像が全体の25%、日用品が75%で、花のほうが珍しい提示でした。したがって、N400の違いには、香りと意味が合うことだけでなく、画像が出る頻度や予想外らしさも関わり得ます。実験1は両画像を半数ずつ提示しており、この頻度の偏りは実験2の解釈に関わるものです。

脳の場所まで、どこまで分かったか

研究チームは、記録した電位がどの脳領域から生じたかを推定する解析も行いました。初期のN400に関わる活動源として、眼窩前頭皮質、島皮質、帯状皮質、海馬傍回など複数の領域が挙がりました。

しかし、それらは全条件を合わせた活動源です。領域ごとに香りと画像の組み合わせの効果を検定すると、多重比較の補正後に有意なものは残りませんでした。今回の結果から「花の画像が香りを助けた場所」を特定することまではできません。

また、使った香りは1種類で、画像も花と日用品という大きな分類です。別の香りや、個人が特に強く結び付けている画像でも同じように働くかは、さらに調べる必要があります。ブロック中に香りが常にある実験1だけでは、知覚の変化と「ある」と答えやすくなる判断の変化も完全には分離できません。

まとめ

花を思わせる香りの中では、花の画像を見たときのほうが、日用品の画像を見たときより、においがあると答える割合が高く、回答も速くなりました。ただし検出回答率は時間とともに下がり、最後の24秒には画像条件の有意差がなくなりました。

別の実験では、香りと画像の組み合わせによるN400の差が初期にだけ見られました。目と鼻からの情報は影響し合いますが、その関係は香りを嗅ぎ続けている間も一定ではない。慣れを含めて香りの体験を捉える大切さが分かる研究です。

研究はUnileverの支援を受けました。論文では、著者T. GiesbrechtとA. Thomasは研究当時同社の社員で、実験計画やデータ解析は担当しなかったと記載されています。

参考文献

Fallon N, Giesbrecht T, Thomas A, Stancak A. (2020). A Behavioral and Electrophysiological Investigation of Effects of Visual Congruence on Olfactory Sensitivity During Habituation to Prolonged Odors. Chemical Senses, 45(9). 原著論文。