焼肉のにおいは、1時間後にも残る? 40軒のLDKを調べた研究

焼肉のにおいは、1時間後にも残る? 40軒のLDKを調べた研究 香りの科学

家で焼肉をしたあと、しばらくしてもリビングににおいが残っている。そんな経験を、実際の住宅の空気を集めて確かめた研究があります。

40軒のLDKを夏・秋・冬に調べたところ、調理を終えて1時間たっても、においの指標は調理前まで戻りませんでした。ただし、その結果には台所の換気設備を動かしたのは調理中だけという、大切な条件があります。残り方の数字とともに、住まいのつくりとの関係も見てみましょう。

実際の家で、調理前後の空気を集める

棚村壽三らが2011年に発表した研究の目的は、LDKに普段どの程度のにおいがあるのか、調理でどう変わるのか、そして住宅の設備や間取りとどのように関係するのかを調べることでした。特定の消臭製品を試した研究ではありません。

調査したのは、リビング・ダイニングとキッチンが一体になった40軒。戸建住宅と集合住宅が20軒ずつで、それぞれガスとIHを使う家を10軒ずつ選びました。同じ40軒を、2007年の夏・秋・冬の3期間に調べています。

住人には、牛肉400g、焼肉のたれ120mL、サラダ油15mLを使い、フライパンで2回に分けて15分間調理してもらいました。食材と手順をそろえ、家庭ごとの献立の違いをできるだけ減らすためです。卓上の焼肉プレートで、食べながら長時間焼く場面とは条件が異なります。

採取したのは、調理前、調理直後、調理終了1時間後の空気です。LDKの中央付近、床から1.2mの高さに指定した場所で、住人がポンプを使って袋に集め、大学に送りました。その空気を、嗅覚検査に合格した30〜40代の女性6人が評価しました。

換気はいつ動かし、いつ止めた?

この研究を読むうえで、時間の順序が重要です。まず窓と扉を10分間開けて換気し、すべて閉じて1時間待ってから、調理前の空気を採取しました。その後、調理中の15分間だけ台所の換気設備を作動させています。

調理後も窓と扉は閉じたまま。フライパンや皿などを洗ったのは、1時間後の空気を採り終えてからです。一方、24時間換気システムがある家では、それは常時運転しました。夏と冬はエアコンを使い、秋は冷暖房を使わない条件でした。

つまり、ここで分かるのは、この使い方をしたときの残り方です。調理後もレンジフードを回し続けた場合や、窓を開けた場合、すぐに器具を洗った場合の違いは、この実験では比較していません。

「臭気濃度400」は、何を表す数字?

研究で測った中心的な指標は、臭気濃度です。名前に「濃度」とありますが、特定の化学成分が空気中に何mgあるかを測った値ではありません。

用いたのは「三点比較式臭袋法」。においを含む空気を無臭の空気で薄め、無臭の袋と嗅ぎ分ける試験から、においを感じなくなるまでの希釈倍率を求めます。大まかにいえば、数値が高いほど、より薄めても検知される試料です。この測定の考え方は、環境省の三点比較式臭袋法マニュアルでも説明されています。

したがって、臭気濃度が100から400になっても、人が4倍強く感じた、4倍嫌なにおいになった、という意味にはなりません。研究チームは、その違いも見るため、においの強さ、快・不快、どんなにおいかを別々に評価しました。

1時間後も、調理前の値には戻らなかった

平均臭気濃度は、夏・秋・冬のいずれも、調理前がおよそ100、調理直後がおよそ400、1時間後がおよそ200でした。各季節で、直後も1時間後も調理前より有意に高く、調理の影響が残っていました。臭気濃度自体には、季節による有意差は認められませんでした。

一方、においの強さや快・不快の評価には、調理前後で有意な変化が認められませんでした。臭気濃度だけが上がり、ほかの評価はそれに比例しなかったのです。

その背景として著者らが挙げたのが、においの質の違いです。調理直後には料理のにおいという回答が増え、1時間後には料理のにおいが残りつつ、酸っぱいにおいなどの回答も再び増えていました。これは嗅いだ人の言葉を集めた結果で、特定の酸や腐敗成分を化学分析で突き止めたわけではありません。

また、冬の調理前の空気は、夏より強く、夏・秋より不快に評価されました。臭気濃度の季節差がなくても、感じ方には差が出る。においを一つの数字だけで表す難しさが、ここにも現れています。

火の種類より、換気設備や空間との関係が見えた

調理直後の臭気濃度は、フードのない換気扇を使う家、キッチンが完全に開かれた形式の家、LDKの容積が小さい家などで高くなりました。ここでいう容積は、床面積に天井高を含めた空間の大きさです。

1時間後まで有意な関連が認められた項目は、調理中に使った換気設備でした。フードのない換気扇の家では平均360、レンジフードの家では平均190。対して、ガスとIHの違いでは、調理直後も1時間後も有意差は認められませんでした。

ただし、換気扇の家は6軒、レンジフードの家は34軒です。同じ家の設備を取り替えて比べたのではなく、もともと異なる住宅を比較しています。キッチン形式によってLDKの平均容積にも違いがあり、間取りだけの効果を切り離せません。各設備が発生したにおいをどれほど捕まえて排出したかという「捕集率」も測っていません。

この結果は、調理中ににおいを集める設備と、室内へ広がる空間の両方に目を向ける手がかりになります。ただ、数字から「レンジフードへ交換すれば残り香が半分になる」と見積もることはできません。

研究の背景と、暮らしへの読み替え

論文の著者所属には、大同大学、三重大学に加え、東京電力株式会社技術開発研究所が記載されています。東京電力所属の共著者は小林和幸、濱中香也子の2人です。独立した利益相反や研究資金の申告欄は、確認した本文には見当たりませんでした。企業所属著者がいることと、特定の機器の優位性が実証されたことは分けて読む必要があります。

暮らしに引きつけるなら、「火を止めた時点で、においの問題も終わるとは限らない」という点が大切です。においが残るときには、調理後に換気設備をどう使っているか、調理器具をいつ片づけているかも、振り返る項目になります。この研究から、換気を続けるべき最適な分数までは決められません。

まとめ

40軒のLDKで同じ焼肉調理を行った調査では、台所換気を調理中だけ作動させた条件で、1時間後も臭気濃度が調理前より高く残りました。調理直後には換気設備・空間の大きさ・キッチン形式との関係があり、1時間後には換気設備との関係が見られました。

同時に、臭気濃度の上昇は、感じる強さや不快感の上昇と同じではありませんでした。残り香を考えるときは、どのくらい検知される空気なのか、何のにおいに感じるのか、どう換気していたのか。この三つを合わせて見ると、食後の部屋の空気をより具体的に捉えられます。

参考文献

  • 棚村壽三、光田恵、毛利志保、小林和幸、濱中香也子(2011).LDKのにおいの臭気濃度と影響を及ぼす要因.日本家政学会誌,62(5),289–297.DOI/原著全文。
  • 環境省.三点比較式臭袋法マニュアル.測定方法の解説。2026年10月12日確認。