athletia(アスレティア)— エキップのブランド創設と、揺れる感情を描く香水づくり

雨の窓辺に置いたアスレティアのUNTIL THE CLOUDS CLEARをイメージした倒立ボトルと紙製台座。上部にブランド名と日本語コピーを配した生成画像。 ブランド創業者

私たちはいつでもポジティブでいるわけではありません。

倉持麻未(商品開発担当)

雨が続く日に、無理に気分を晴らさなくてもよい。秋の夕暮れに覚える懐かしさと寂しさを、そのまま受け止めてもよい。アスレティアのオードパルファンには、いつも快活であることを求めない視点がある。

2020年にスキンケア&ライフスタイルブランドとして誕生したathletia(アスレティア)は、「よく動き、よく休む」という生活の循環を考えてきた。その発想が2025年、焦燥・思案・感傷を題材とする3つの香水になった。動く時間と休む時間、その間で揺れる気持ちまでを見つめたブランドである。

基本情報

  • ブランド名:athletia(アスレティア)
  • 開始:2020年2月19日(構想開始は2018年)
  • 創設・展開企業:株式会社エキップ(日本・東京)
  • 立ち上げのキーパーソン:松岡美季(当時のマーケティングマネージャー)、倉持麻未(商品開発担当)
  • オードパルファン発売:2025年10月17日
  • 公式サイト:athletia

創設者とブランドの成り立ち

2018年、生活の変化から始まった構想

アスレティアを生み出したのは、RMKとSUQQUを展開する花王グループのエキップである。同社の3番目のブランドとして、化粧品を肌に使う時間だけでなく、一日の過ごし方へと視野を広げた。

その着想の背景には、当時のエキップ社長・前澤洋介がスイスのチューリッヒで暮らした経験があった。仕事を終えてヨガに行く人、湖で泳ぐ人たちの姿から、仕事以外の時間を豊かにする休み方に目を向け、オンとオフのバランスを体感できるブランドを目指したのである。

構想が動き始めたのは2018年。立ち上げを担った松岡美季は、それまでエキップの他ブランドで商品開発と海外マーケティングに携わっていた。新しいブランドを考える際に注目したのは、美容業界だけではなかった。健康を意識したスナック、手軽さとおいしさを両立する食のサービス、楽しみながら体を動かすボクササイズ。忙しい生活の中で、自分の体や食事を気遣う行動が広がっていた。

美しさの概念が肌など表面上に対してだけではなく、生き方を含めて語られるようになる

松岡美季

松岡は2020年の取材で、美しさをめぐる価値観の変化をこう捉えた。食生活や環境への意識も含め、日々の選択を支えることがブランドの出発点となった。

2020年、動く時間と休む時間を支える3つのライン

2020年2月19日、アスレティアはスキンケア&ライフスタイルブランドとして始動した。肌を整える「tune & charge(チューン&チャージ)」、外出や運動の場面を考えた「active & go(アクティブ&ゴー)」、呼吸や睡眠に目を向ける「breathe & sleep(ブリーズ&スリープ)」の3つのラインを用意した。

基本のスキンケア、紫外線対策、ルームミストなどを並べたのは、製品の種類を増やすためだけではない。活動している時も、静かに過ごす時も、生活には異なる手助けが必要になる。携帯性や使いやすさを重視する製品と、香りを通じてくつろぐ時間をつくる製品が、同じブランドの中に置かれた。

創設時の「Strengthen Yourself. — 美しさは鍛えられる —」という言葉も、こうした生活の設計と結びついている。動と静のどちらか一方に偏るのではなく、その間を行き来できるしなやかさを重んじたのである。

環境への配慮も当初からものづくりに組み込まれた。初期のコアバランストーニングローションには再生ガラスを90%以上使った緑の容器を採用した。再生によって生まれる色の個体差を、均一に消すべきものではなく、個性として受け止めた。使う人の多様さを尊重する考え方が、容器の色にも重ねられていた。

2021年、英国で伝えたクリーンビューティ

2021年10月28日には英国向けの公式オンラインショップを開設し、11月22日、ロンドンのセルフリッジ百貨店オックスフォード店に出店した。英国の美容業界メディアTheIndustry.beautyも同年11月、3つのラインと自然由来の原料、再生紙の箱などを挙げて英国進出を報じている。海外に伝えられたのは、スキンケアと生活、環境をひとつながりに考えるブランドの姿だった。

セルフリッジを選んだ理由には、同百貨店が進めるProject OceanやProject Earthといった環境・社会への取り組みがあった。加えて、植物性天然精油の香りを実際に試せる場所を設ける意味も大きい。オンラインで商品を届ける展開に、香りと使い心地を確かめる接点が加わった。

2025年、揺れる感情を香水の題材に

2025年10月17日、ブランド初のオードパルファン3種が発売された。企画に携わった倉持麻未は、スキンケアやヘアケアの商品開発を経験し、2018年にエキップへ入社。アスレティアの立ち上げ時から商品企画に関わってきた人物である。

倉持が香水の題材として選んだのは、誰もが経験する気持ちの揺らぎだった。いら立ちや落ち込みをなかったことにせず、香りの中で受け入れ、ゆっくりと普段の自分へ戻る。その意図から、焦燥、思案、感傷という3つの感情に、それぞれ記憶の中の情景を与えた。

アスレティアが重んじるレジリエンスとは、困難に直面しても適応し、立ち直っていくしなやかさである。活動と休息の配分を考えてきたブランドは、香水でその視点を内面へと広げた。季節や天候を介して感情を描くことで、気分を一方向へ押し上げるだけではない香りの物語をつくったのである。

香りの考え方は、容器づくりでも共有された。倉持は、コンセプトや感情を表すクリップボードをデザイナーに渡し、時間をかけて形を考えた。倒立させるボトルでは、安全性と安定性を確保する課題にも取り組んだ。香りと造形の両方から、揺らいでも戻れる姿を探ったのである。

ブランドのこだわり

天然植物精油と合成香料でつくる香りの奥行き

3つのオードパルファンは、香料の90%以上を天然植物精油で構成している。これは製品全体に占める割合ではなく、香料の構成についての数字である。植物の青臭さや土を思わせる精油の表情を生かしながら、合成香料も用いて、肌の上で展開する香りに奥行きと持続するニュアンスを与えた。

この組み合わせには、自然原料を大切にしつつ、使い心地や表現のために技術も取り入れる姿勢が表れている。倉持は2021年、クリーンビューティについて次のように語っている。

できないことを隠さず、正直にその理由まで開示してこそクリーンビューティの本質に繋がっていくと思います。

倉持麻未

原料や製法を伝え、使う人が選べるようにすること。自然という言葉だけで完結させず、必要な技術とその理由まで明らかにする考え方が、香水の素材選びにも通じている。

焦燥・思案・感傷を描く3つの香景

「LOST IN THE CROWD(ロスト イン ザ クラウド)」が描くのは、都会の春の焦燥である。暖かくなって街に人が増える一方、突風や砂埃に心が落ち着かない。明るい柑橘にエレミやナツメグの刺激を重ね、ウッディな重みへと進む構成は、春を軽やかさだけで描かず、ざらついた空気も残している。

対して「UNTIL THE CLOUDS CLEAR(アンティル ザ クラウズ クリア)」は、雨の続く初夏の思案を題材にした。考えが浮かんでは消え、晴れ間を待つ時間。その情景を、レモンとガルバナムの冷たく青い印象、ジャスミンやイランイランの花の豊かさ、ラブダナムやベチバーの土を思わせる余韻へとつなげている。雨に濡れた草木から、やわらかな光の差す昼下がりへ。香りの変化に、待つ時間の推移を重ねた作品である。

「TWILIGHT HUES(トワイライト ヒューズ)」には、秋の夕暮れの感傷がある。グレープフルーツとピンクペッパーが茜色の街のきらめきを、オスマンサス、すなわちキンモクセイが風に舞う枯葉を表す。やがてスモーキーな余韻へと移り、明るい思い出ともの悲しさを同じ情景に置く。

3作を分けるのは、単なる季節の違いではない。春の街で落ち着かない時、雨の中で考えを巡らせる時、別れ際に懐かしさが迫る時。異なる気持ちの居場所を用意することが、この香水の共通する発想である。

1-ドデカノールの配合と商品企画

香りには、肌が持つ香りの成分として扱われる1-ドデカノールも配合した。倉持によれば、この成分の研究と香水の商品開発は別々に進み、結果として企画の方向性と重なったという。研究を起点に3つの物語を決めた、という順序ではない。石けんのような軽やかな香りで、香りづくりを妨げなかったことも、配合を考えるうえでの具体的な特徴だった。

この成分を香料として取り入れたことと、感情を受け止める香水の物語は、別の側面から製品を支えている。3作の創作を理解する鍵は、まず倉持が選んだ感情と、それを映す情景にある。

緑の倒立ボトルと、自分へ戻るための台座

香水を置く時、緑のガラスボトルは逆さになり、紙製の台座に収まる。キャップを上にして並べる一般的な姿を反転させた造形である。公式に示された意図は、香りとともに自分へ戻れる基地をつくること。倒立しても立ち続ける姿に、しなやかな軸を託した。

このパッケージを手がけたのは、SAYURI STUDIOの東海林小百合である。アスレティアのブランドロゴとパッケージにも携わり、2025年の香水ではパッケージデザインに加えてビジュアルや映像のアートディレクションを担当した。動と静を表すロゴに続き、香水でもブランドの考え方を造形で伝えた。

パッケージは無言で商品の魅力をお客様に伝えるようになります。

東海林小百合

東海林は、クライアントとの対話を重ね、パッケージに人格を吹き込む仕事をこう説明する。静かに置かれたボトルにも、使う人の気持ちを映す役割が与えられている。

台座にはFSC認証紙、つまり責任ある森林管理などに配慮した認証材の紙を使用する。ガラスと紙の質感を生かし、香りを楽しんだ後にはボトル、キャップ、スプレー、台座を分別しやすいように設計した。取り出して使い、戻せば部屋の中に佇む。その往復を含めた形が、生活に寄り添うアスレティアの香水を示している。

参考文献