AUX PARADIS(オゥパラディ)— 大塚惠の歩みと、香りと瓶を繰り返し使うものづくり

AUX PARADISのフルールの茶色い角瓶を、柑橘の花と木のテーブルに配した生成画像。上部に「香りも、瓶も、長くともに。」とブランド名・読み方。 ブランド創業者

環境のため、また香水の文化を守るためにも、繰り返し使えてリサイクルもできる香水を作りたい

大塚惠

使い終わった香水瓶のスプレーを外し、また同じ香りを注ぐ。AUX PARADIS(オゥパラディ)では、その小さな動作にブランドの成り立ちが見える。茶色の角瓶は香りを保つ容器であると同時に、使い捨てにしないための工夫を重ねた道具でもある。

2008年、日本の空気や肌、香りへの感性を意識した4つの香水から始まったブランドである。香水販売の現場で大塚惠が抱いた疑問は、取り外せるスプレー、透明ガラスへの塗装、詰め替え、そして店頭のはかり売りへとつながった。香りを日常に根づかせることと、その香りを収める瓶の行く先を考えることが、同じものづくりの中にある。

基本情報

  • ブランド名:AUX PARADIS(オゥパラディ)
  • ブランド誕生:2008年5月
  • 創設者:大塚惠
  • 運営会社:株式会社エストインターナショナル(1989年9月設立)
  • 香水専門店の開始:1996年11月
  • 公式サイト:AUX PARADIS

創設者とブランドの成り立ち

海外香水の販売から、使い終わった瓶の問題へ

オゥパラディの母体となるエストインターナショナルは、1989年9月に設立された。香りとの関わりが始まるのは、その7年後。1996年11月に香水専門店を開き、海外ブランドの香水を販売した。会社の設立、香水販売の開始、自社ブランドの誕生には、それぞれ異なる時期がある。

1990年代後半、日本では若い世代の間に香水のブームが広がった。大塚はその市場で香水を届けながら、使い終わった瓶が分別の難しいごみになることを気にかけていた。スプレーを瓶の口に固定する「カシメ式」は、利用者が簡単に取り外せる構造ではない。美しい香りを楽しんだ後に残るものを、どう扱えばよいのか。それが自社の香水を考える動機になった。

必要だったのは、スプレーを外して繰り返し使える瓶である。大塚は海外の展示会を巡り、ねじを回して取り外すスクリュー式のスプレーを見つけた。ただし、詰まりやすさという懸念もあった。再び使える構造と使い勝手を両立するため、さらにスプレーを探し続けたのである。

目指したのは、環境への意識を大きく掲げるだけの製品ではなかった。大塚は後に、押しつけにならない「さりげないエコ」を心がけ、それが今も取り組みの土台にあると記している。香水を普通に使う行為の中に、瓶を長く使える仕組みを組み込む。その考えが、オゥパラディの製品設計を形づくった。

2008年、4つの香りと詰め替えできる瓶で始動

2008年5月、オゥパラディは「Rose(ローズ)」「Citron(シトロン)」「Fleur(フルール)」「Savon(サボン)」の4つの香りで始まった。求めたのは、日本の空気、日本人の肌、香りを感じる繊細さに目を向けたベーシックな香りである。

香料の産地を明らかにし、サトウキビを原料とする醸造アルコールを用いる。できる限り自然の素材を使いながら、合成香料の力も借りる。香りの表現を選ぶ際にも、天然という言葉だけで完結させなかった。香料の調達と調香はフランス、製造は日本で行う体制をとっている。

容器は、透明なガラスに茶色の塗装を施す方法を選んだ。茶色は紫外線による香りの変質を防ぐため、透明ガラスは使い終わった後のリサイクルを考えた選択である。見た目の色と、ガラス自体の色を分けて設計した点に、このブランドの瓶づくりの特徴がある。

スプレー式の瓶と、そこに香水を移すためのレフィルも、ブランド開始時から用意した。瓶を再び使うことを、後から加えたサービスではなく、最初から使い方の一部にしたのである。

2021年、ワインサーバーを香水のはかり売りに応用

自宅でレフィルから詰め替える方法にも、残る課題があった。中身を移した後のレフィル瓶が空になるのである。その瓶にも香水を補充できれば、さらに繰り返し使える。店頭のはかり売りは、ブランド誕生時から目標としていた仕組みだった。

2021年2月、一部の直営店ではかり売りを開始した。実現のために応用したのは、ワインをはかり売りするサーバーである。香水の品質を保持しながら、設定した量をボタンひとつで瓶に注ぐ。香りを選ぶ場所に、使い終わった瓶を再び満たす機能が加わった。

2022年、大塚は本人の寄稿で、店頭で回収した空き瓶をガラス工場へ送り、その送料を会社が負担していることも記した。瓶を使い続ける仕組みと、不要になった瓶を資源に戻す仕組み。その両方を運営の中で支えている。

エコは手間もコストもかかりますが、取り組まねばならない最重要課題と捉えています。

大塚惠

はかり売りを始めて終わりではなく、システムの改善やプラスチック容器の削減も課題とした。一つの瓶をめぐる疑問から、製品、店頭、回収先までをつなぐ仕事へ。オゥパラディの歩みは、香水の販売を経験した人が、その先の使い方まで考え直した過程でもある。

ブランドのこだわり

フルールに見る、天然香料と合成香料の組み合わせ

最初の4香のひとつであるフルールは、凛とした奥ゆかしさを表すフローラルとしてつくられた。さりげなく香り、身につける人の周囲にも穏やかに広がることを目指している。英語の香水データベースFragranticaでも、控えめな花の印象と柑橘の明るさを持つ香りとして紹介されている。

現行の公式説明には、シシリー島のレモン、カラブリアのベルガモット、チュニジアのネロリ、マダガスカルのラベンサラという天然香料と、合成アンバー・ムスクが記されている。柑橘と花、芳香を持つ植物の素材に、合成香料の余韻を合わせる構成である。素材の産地と、天然・合成の使い分けを具体的に示すことが、ブランドの香りづくりを理解する手がかりになる。

オゥパラディは、天然香料の複雑さと、合成香料によって表現できる香りやニュアンスを、それぞれの長所として扱う。ムスクやアンバーも合成香料を使用する。自然の素材を重視する姿勢と、香りの表現に技術を使うことは、このブランドでは両立している。

主要な香料をラベルにも記すのは、香りだけを抽象的に伝えるのではなく、何からつくられたかを手に取る人へ伝えるためである。4つのベーシックな香りから始まったブランドには、素材の輪郭を知りながら香りを楽しむ入り口が用意されている。

同じ瓶への充填と、交換できるスプレー

店頭のはかり売りでは、使い終わったオゥパラディの瓶に、同じ香りを同じ量だけ充填する。充填前に瓶をアルコールで洗浄し、再び香水を注ぐ仕組みである。単にレフィルを販売するだけでなく、瓶を持ち戻るところまで使い方をつなげた。

スクリュー式のスプレーにも、利点だけでなく課題がある。現在の公式説明でも、動きが悪くなったり詰まったりする場合があり、原因は完全には究明されていないとしている。天然香料を多く使うことも、要因のひとつとされる。取り外せる構造を維持しながら、不具合の際にはノズルを交換する対応を用意した。

再使用とは、瓶を残すことだけではない。香水を補充できること、不具合のある部品に対応できること、不要になれば回収や分別へつなげられること。オゥパラディでは、それぞれが別々の付加価値ではなく、瓶を長く使うための仕組みとしてつながっている。

香りを重ねて楽しむための余白

オゥパラディは、2種類の香水を肌の上で重ねる楽しみ方も提案している。重ねる順番によって香り立ちが変わり、同じ香水でも異なる組み合わせを楽しめる。瓶の中身を別の香りに混ぜ替えるという話ではなく、身につける時の表現を広げる考え方である。

一つの香りを繰り返し使うことと、その香りを別の香りに重ねて楽しむこと。瓶は長く手元に残り、使う人は日々の気分に応じて香り方を変えられる。香水を特別な日のためだけに置くのではなく、生活の中で使い続けられるものとして考えるブランドの姿が、ここにも表れている。

参考文献