暑く乾いた時間を過ごしたハチは、涼しい場所へ戻れば、すぐに花を探せるのでしょうか。花の香りを検出することと、その香りに向かって動き出すことは、同じ能力ではないかもしれません。
2026年、Zoltán Tóthらは、セイヨウオオマルハナバチ(Bombus terrestris)を高温・低湿度にさらした後、花の香りに向かう行動と、触角の電気的な反応を調べました。極端な暑さが、花と送粉昆虫の香りによるやり取りを、どの段階で妨げるかを探る研究です。
40℃の乾いた環境から、15分休ませて実験へ
研究では、市販の3コロニーからハチを用意しました。実験の5日前から、10成分を混ぜた花の香りを糖液に加え、そのにおいと食べ物を結びつける機会を与えました。
高温処理の群は、一匹ずつ容器に入れ、40℃、平均湿度約15%で2時間45分過ごしました。対照の群も同じ時間、個別の容器で食べ物を与えずに置きましたが、温度は26~28℃、湿度は60~67%でした。温度だけでなく、湿度も異なる比較です。
処理後は15分休ませ、26~28℃の実験装置へ移しました。したがって、40℃の最中の行動ではなく、暑さと乾燥を経験した影響が、その後に残るかを見ています。処理中に4匹が死亡し、生き残った68匹が行動実験に参加しました。
巣ではなく、小さなケージから動き出すか
行動実験には、弱い風を流す細長い風洞を使いました。風上の二か所に、学習に使った花の香りと、対照のミネラルオイルを置きます。どちらにも青い円盤の目印があり、左右の位置は入れ替えました。
ハチは、香りの発生源から65センチ離れた小さな放虫用ケージに入れました。ケージから出られるようにしてから10分間、動き出すか、いつ出るか、どちらへ先に近づくかを動画で記録しています。野外で巣から出て本物の花を探す行動を、そのまま測ったわけではありません。
実験後の確認で、68匹のうち49匹が働きバチ、19匹が雄でした。雄の大部分は一つのコロニーに由来していたため、働きバチと雄は分けて解析しています。
働きバチの約半数が、ケージから出なかった
働きバチでは、対照の26匹は全匹がケージから出ました。一方、高温・乾燥を経験した23匹では、出たのは12匹でした。この差は統計的に有意でした。
出てきた働きバチに限っても、処理群では出発が遅くなっていました。ただし、この時間の違いには体の大きさも関係していました。研究では、翅の一部分の長さを、体の大きさの目安として使っています。
雄でも、対照の10匹はすべて出たのに対し、処理群では9匹中2匹でした。処理群の雄で香りの発生源まで近づいた個体はいなかったため、方向選択などの詳しい解析は行っていません。
この実験で最も明確だったのは、暑さと乾燥を経験した後、探索に関わる行動を始めない個体が増えたことです。
香りを選ぶ力が落ちたかは、まだ不確か
働きバチのうち、どちらかの香りの発生源まで近づいたのは32匹でした。内訳は、対照群が23匹、処理群が9匹です。研究者らは、この個体について、最初に花の香りとミネラルオイルのどちらへ近づくかを比較しました。
統計モデルでは、花の香りへ先に近づく確率は、対照群で約78%、処理群で約56%と推定されました。対照群では偶然の五分五分より花の香りを選びやすいという結果でしたが、処理群では五分五分との差は有意ではありませんでした。
ただし、二群を直接比べた差も有意ではありませんでした。片方だけが五分五分から有意に偏ったことは、それだけで二群の選択能力の差が証明されたことにはなりません。処理群で動いた個体が少なく、推定の不確実性が大きい点もあります。
著者らは、香りに沿って方向を選ぶ行動が乱れた可能性を論じていますが、この部分の証拠は、動き出す割合の低下ほど明確ではありません。また、香りの発生源へ近づいた個体では、最初の発生源へ到達するまでの時間に、処理による有意な差はありませんでした。
触角の反応は、一律には弱くならなかった
行動実験の後、研究者らはハチの触角を取り出し、花の香りを短時間当てたときの電気的な反応を測りました。これは、におい刺激を受けた触角の反応で、脳での記憶や、花へ向かおうとする意欲を直接測るものではありません。
働きバチ49匹の解析では、香りの量を増やすと、どちらの群でも反応が大きくなりました。高温・乾燥処理によって反応が全体として一律に弱くなるという結果は、得られませんでした。
一方、体の大きさとの関係には違いがありました。対照群では、大きな個体ほど触角の反応が強い傾向でしたが、処理群ではその関係が見られなくなっていました。処理と体サイズの組み合わせによる違いは、統計的に有意でした。
ただし、これは「小さいハチなら暑さに強い」と結論する結果ではありません。特定のにおい混合物を使った、処理後の触角反応について分かったことです。
においを検出できても、探しに行けるとは限らない
触角の反応が大きく低下していないのに、行動を始めない個体が増えたことは、著者らが重視する点です。暑さの影響は、においを受け取る入口だけでなく、動く能力や、食べ物を探す意欲、学習したにおいを使う過程に現れる可能性があります。
体温を下げたり回復したりするため、エネルギーを使う行動を控えていた可能性もあります。ただし、今回、運動神経や脳の働き、体温調節の仕組みを直接測ったわけではなく、原因を一つに特定はできません。
また、方向選択を解析できた処理群は、動き出せた少数の個体だけです。影響を強く受けた個体が解析から外れ、比較的影響の小さい個体が残っていた可能性もあります。これは、行動の各段階を分けて考える理由になります。
野外の花とハチの関係へ、どこまでつながる?
この研究は、暑く乾いた環境の後でも、採餌に必要な活動が低下し得ることを示しました。繰り返す熱波が、個体の食べ物の確保やコロニー、受粉に影響する可能性を、著者らは指摘しています。雄についても、採餌や繁殖への影響を調べる必要があるとしています。
ただし、野外ではハチが日陰を選んだり、活動する時刻を変えたりできます。今回の容器内の連続曝露とは異なり、実際の受粉量やコロニーの成長、雄の交尾成功は測っていません。3コロニー、一つの高温・低湿度条件、短い回復時間での結果です。
花の側も暑さによって香気成分の放出を変える可能性がありますが、今回は植物を使わず、合成した10成分の香りを一定の装置から出しました。著者らは、行動試験で薄めない混合物を使っても多くの個体が動かなかったため、同様の熱ストレスでは、花の放出量が増えるだけで活動低下を大きく補うとは考えにくいと論じています。ただし、植物の放出量や刺激濃度を増やして確かめた実験ではありません。より長く休めば回復するか、ほかの環境要因と重なるとどうなるかも、次に調べる課題です。
研究は英国生態学会、ハンガリー科学アカデミー、ドイツ研究振興協会などの支援を受け、著者らは利益相反なしと申告しています。
まとめ
高温・乾燥処理の後、セイヨウオオマルハナバチでは、ケージから出て探索に向かう割合が大きく下がりました。一方、動いた個体の方向選択の群間差は確定せず、触角の反応も一律には低下していませんでした。
花の香りを受け取ることと、それを使って食べ物へ向かうことは、別々の過程です。この研究は、気候の影響を考えるとき、香りの検出だけでなく、動き出す段階や方向を選ぶ段階まで見る必要があることを示しています。そのどこが妨げられるかを理解することが、花と送粉昆虫の関係への影響を捉える手がかりになります。
参考文献
Tóth, Z., Juhász, B., Kárpáti, Z., Schultheiss, P., & Nooten, S. S.(2026). Heat waves impair foraging initiation and directional movement toward a floral scent in the buff-tailed bumblebee (Bombus terrestris). Scientific Reports, 16, 21196. DOI: 10.1038/s41598-026-53492-6. 原著全文。© The Author(s) 2026. 原著はCC BY 4.0で公開されています。


