ブドウの花は、種類で香りが違う?

ブドウの花は、種類で香りが違う? 香りの科学

ブドウの香りといえば、果実やワインを思い浮かべます。けれども、実になる前の小さな花にも、揮発する成分があります。その違いは、花粉を運ぶ虫との関係に結び付いているのでしょうか。

Ahmed G. Darwishらが2025年に発表した研究は、米国南東部で栽培されるマスカダインというブドウを対象にしました。雌花を付ける系統と、雄しべ・雌しべを備えた両性花を付ける系統を比べ、花の成分と受粉の仕組みを理解するための手掛かりを探しました。

16系統の花から、成分を取り出す

研究では、雌花の8系統と両性花の8系統、計16系統を調べました。マスカダインの両性花は自分の花粉でも受精できますが、雌花を付ける株は他の株から花粉を受け取る必要があります。

採取した花は、各系統で3組の試料にまとめ、凍結保存した後、乾燥させて粉末にしました。その粉末を塩水とともに60℃で温め、上にたまる気体を集め、GC–MSで成分を分けて調べています。

この方法が捉えるのは、処理した花の試料から取り出せる成分です。畑で咲く花が、そのまま空気へ放つ香りを測ったものではありません。測定信号をもとにした成分の比較と、虫が自然の中で受け取る匂いの強さは、分けて考える必要があります。

両性花に多い成分、雌花に特徴的な成分

両性花の系統では、1系統あたりに検出される成分の種類が平均的に多く、分析上の総量の指標も高くなっていました。ただし、同じ花の型の中でも、系統による違いは大きくありました。

とくに詳しく調べたのは、花の香りに関わる成分群の一つ、テルペン類です。統計的に全体の組み合わせを比べると、雌花と両性花はおおむね別の集まりになりました。ただし、両性花の「Noble」と雌花の「Majesty」のように、その区分から外れる系統もあり、花の型だけですべてが決まるわけではありません。

さらに、二つの型の区別に寄与する候補として、11成分が選ばれました。たとえばβ-エレメンやβ-ビサボレンは両性花側、α-セリネンなどは雌花側に特徴的でした。ここでいう候補は、このデータの中で型を見分ける手掛かりであって、その成分が実際に虫を引き寄せると確認したものではありません。

花の見た目にも違いがありました。一つの花の集まりに含まれる小花の数は、雌花の系統で平均約44個、両性花の系統で約169個でした。著者らは、香りの組み合わせに加えて、花の数や、虫にとって報酬になる花粉などが重なり、両性花を見つけてもらいやすくする可能性を考えています。

手で花粉を付けると、実はどう変わった?

研究者は別の試験として、雌花の品種「Darlene」と両性花の品種「Floriana」を各5株使いました。それぞれの株で20の花の集まりを選び、半分は自然に受粉させ、半分は袋をかけたうえで、別品種「Granny Val」の花粉を手で付けました。両性花の人工授粉群では、自分の花粉による受粉を防ぐため、雄しべも取り除いています。

Darleneでは、人工授粉によって一房あたりの粒数が約60%増えました。一方、一粒の重さは約33%小さくなり、房全体の重さの変化は小さいものでした。したがって、収穫量が60%増えたという結果ではありません。Florianaでは、これらの指標に有意な変化は見つかりませんでした。

この結果から著者らは、雌花のDarleneには、自然の受粉条件では十分に発揮されていない結実の余地があると考えています。ただし、試したのは各型1品種ずつです。また、人工授粉では花粉の供給だけでなく、袋かけや、Florianaでは雄しべを除く処理も加わっています。

香りが虫を呼んだかは、これからの課題

著者らが提案するのは、花の香り、見た目、花粉や蜜といった報酬が組み合わさり、花と虫のやり取りを形作るという説明です。雌花と両性花で成分が違う背景に、花粉の有無や花の構造の違いがある可能性も挙げています。

また、雌花に特徴的だったα-セリネンについては、他の植物でハチを遠ざける作用が報告されていることから、誘引を弱める可能性を論じています。しかし、この研究では、その成分を虫に提示する実験や、花への訪問回数の観察はしていません。マスカダインでも同じ作用を持つか、他の成分と混ざったときにどう働くかは未確認です。

成分名は機器の信号をデータベースと照合して推定しており、人が感じる香りを官能評価した研究でもありません。分析で見つかった成分の違いと人工授粉の結果は、香りが受粉を左右したという因果関係を、そのまま証明するものではないのです。

まとめ

マスカダインの雌花と両性花には、花の成分の組み合わせにも違いがありました。さらに、雌花の1品種では手で花粉を付けると粒数が増え、自然の受粉条件では結実の力を十分に生かせていない可能性が示されました。

この二つの結果をつなぐのが、香りだけでなく、花の数や花粉という報酬まで含めて、虫への合図を考える著者らの仮説です。見分ける手掛かりになった成分が、実際にはどの虫に、どのように働くのか。その検証を進めることで、環境が変わる中で花と送粉者の関係を理解し、作物の受粉を支えるための基礎情報になると考えられます。

参考文献

Darwish, A. G., Das, P. R., Olaoye, E., Gajjar, P., Ismail, A., Mohamed, A. G., Tsolova, V., Hassan, N. A., El Kayal, W., Walters, K. J., & El-Sharkawy, I.(2025). Untargeted flower volatilome profiling highlights differential pollinator attraction strategies in muscadine. Frontiers in Plant Science, 16, 1548564. DOI: 10.3389/fpls.2025.1548564/原著全文。

研究はフロリダ州農業消費者サービス局のViticulture Advisory Councilによる支援を受けています。著者らは、利益相反となり得る商業的・金銭的関係はないと申告しています。原著:© 2025 Darwishほか、Creative Commons Attribution(CC BY)。