ラベンダーは落ち着く香り、ペパーミントはすっきりする香り。こうした印象は、素早く流れる情報を見逃さない力にも、そのまま結びつくのでしょうか。
Ryan Hackländerらは、香りによって短い時間内の注意の働きが変わるという先行研究を、提示方法を変えた3つの実験で検証しました。2024年にオンライン公開され、2025年の巻号に掲載された研究です。主な問いは、ラベンダーとペパーミントで、二つ目の標的を見落とす程度が違うかでした。
まばたきせずに起きる「注意の瞬き」
実験では、画面の同じ場所に文字や数字を次々と表示します。参加者の仕事は、18個の文字に紛れて現れる二つの数字を覚え、何だったか答えることです。一つの記号が現れてから次の記号が現れるまでの間隔は0.1秒でした。
一つ目の数字を正しく捉えたあと、二つ目がすぐに続くと、二つ目を答えにくくなる時間帯があります。これが「注意の瞬き」と呼ばれる現象です。目を閉じる動作ではなく、短い間に続けて届く情報を処理するときの、注意の取りこぼしを調べています。
この研究では二つの数字の間隔を変え、特に0.3秒後と0.5秒後の二つ目の正答率の差を、見落としの程度の指標にしました。いずれも、一つ目を正しく答えた試行だけを使った値です。
先行研究では、ペパーミントのときに、ラベンダーより注意の瞬きが大きいと報告されていました。注意を狭く集中させるほど、一つ目に資源を使いすぎて二つ目を取りこぼす、という考えが背景にあります。つまり、この課題では「集中が強いほど成績が良い」と単純には予測できません。
香りを切り替える速さを、3段階で変えた
3つの実験に参加したのは大学生計117人。装置の不具合があった5人分を除き、最終解析は112人でした。先行研究は香りを室内に広げていましたが、今回は装置を使い、鼻の下へ香りを短く送りました。同じ参加者が、ラベンダーとペパーミントの両方を経験しています。
実験1の解析対象は34人。試行ごとにどちらかの香りを無作為に選び、数字が流れ始める前から約2秒間提示しました。これで差が見つからなかったため、次は「香りが働くまでに時間が必要なのでは」と考えました。
実験2は39人です。香りを提示する試行のあとに、香りを新しく送らない試行を挟みました。香りを嗅いだ直後だけでなく、少し時間がたったあとにも違いが出るかを確かめるためです。
実験3も39人。香りが頻繁に切り替わることが影響を打ち消す可能性を考え、同じ香りだけを繰り返し送るまとまりを設けました。ラベンダー、ペパーミント、両方を混ぜた順序のまとまりに加え、香料を使わず空気だけを送る比較も入れています。
見落としは起きても、香りの種類による差は出なかった
3つの実験で、ラベンダーとペパーミントによる注意の瞬きの違いは、いずれも統計的に明確ではありませんでした。例えば実験1では、二つ目の数字の正答率の落ち込みは、ラベンダーで約12ポイント、ペパーミントで約11ポイントと近い値でした。
3実験のデータをまとめた解析でも、二つ目を見落としやすくなる典型的なパターンは見られましたが、香りの種類による違いは確認されませんでした。課題そのものが機能していなかったため、差を見つけられなかったとは考えにくい結果です。
参加者が二つのにおいを区別できるかも別に調べ、どの実験でも偶然に答える水準を上回っていました。また、実験3では気分の快・不快や覚醒感を測りましたが、二つの香りがそれぞれ異なる変化を起こした証拠はありませんでした。
空気だけの条件との差は、どう読む?
すべての比較で差がなかったわけではありません。実験3では、空気だけのまとまりより、二つの香りのまとまりを平均したほうが、注意の瞬きは小さくなりました。一方、一つ目の数字の正答率は、ペパーミントより空気だけの条件で高いという、別の違いもありました。
ただし、空気だけのまとまりは、前の香りの影響を避けるため、全員が最初に行っています。この設計では香りの有無と実施順序を切り離せません。これらは予想外の結果でもあり、著者ら自身が、すぐに仕組みを決めつけず慎重に扱うよう求めています。「どちらの香りも見落としを改善した」と結論づけるには足りません。
香りの名前だけで、注意の働きを決められるか
研究者たちは、香りの種類に応じて「覚醒する」「落ち着く」と考える説明にも立ち返りました。今回、香りを受け取ってからの時間や、同じ香りに触れる長さを変えても、ラベンダーとペパーミントの差は出ませんでした。そこで、どちらかに誰にでも共通する一定の注意効果が備わっている、という考えを疑問視しています。
代わりに、香りと過去の経験の結びつきや、本人が期待する作用が、研究ごとの差に関わる可能性を挙げました。例えば、ラベンダーからくつろいだ場面を連想するかどうかは、人によって違います。ただし、今回その個人的な連想が結果の原因だと確かめたわけではなく、今後検証すべき説明です。
今回の追試は、先行研究と全く同じ条件ではありません。部屋へ広げる香りと、装置から短く届く香りには違いがあり、今回は音の合図に合わせて息を吸う指示もありました。対象は女性の多い大学生の集団で、調べたのはこの数字の課題です。日常の集中力全体や、あらゆる香りの効果が否定されたわけではありません。
まとめ
香りの提示方法やタイミングを変えた3実験では、ラベンダーとペパーミントで注意の瞬きが変わるという結果は再現されませんでした。無香条件との一部の差も、香りが見落としを改善する確かな証拠とはいえません。
著者らの重要な結論は、香りに固定された、誰にでも同じ注意効果を前提にしないことです。香りを注意のために役立てようとするなら、本人の経験や期待を含め、何がどの過程に働くのかを具体的に調べる必要があります。そのために、香りを届ける時刻を制御し、同じ人の中で条件を比べる研究が有用だと提案しています。
参考文献
Hackländer, R., Baess, P., & Bermeitinger, C. (2025). Smells like … no evidence that odors influence the attentional blink. Attention, Perception, & Psychophysics, 87, 458–479. オンライン公開:2024年12月19日。DOI: 10.3758/s13414-024-02986-4 / 原著全文 / 刊行版PDF。
原著のライセンス:CC BY 4.0。© The Author(s) 2024。


