香りの「丸さ」に、測定できる手がかりはある?

香りの「丸さ」に、測定できる手がかりはある? 香りの科学

香りを「丸い」「なめらか」「明るい」と表すことがあります。分子の形を見ているわけではありません。鼻で感じた印象を、形や手触り、色など、別の感覚に結びつけているのです。そんな連想には、機器で測れる香りの特徴も関わっているのでしょうか。

2023年、Ryan J. Wardらは、人が香りに結びつけた形、触感、音の高さ、色などの回答と、「電子鼻」という装置の測定値を比べました。目的は、好ましさ、言葉の意味、経験や学習で説明されてきた感覚同士の結びつきに、香りの物理・化学的な特徴がどのくらい関わるかを調べることでした。

68人が答えた、香りに似合う形や色

研究チームが使ったのは、以前の研究で集めた68人の評価データです。女性45人、男性23人で、平均年齢は26.75歳でした。対象はブラックペッパー、ラベンダー、レモン、オレンジ、ペパーミント、キャラメル、チェリー、コーヒー、刈ったばかりの草、マツ(パイン)の10種類。二つのブランドの精油・香料油を使っています。

試料の容器には白いテープを巻き、液体の色から連想しないようにしました。香りの提示順はランダムで、参加者はそれぞれを少なくとも一度嗅ぎ、必要なら嗅ぎ直せました。

形については、角張った図形と丸い図形を両端に置いた9段階の尺度で、香りに合う位置を選びました。触感では、ざらざらした紙やすりとなめらかな絹に実際に触れてから、香りの印象を9段階で答えています。香りの快・不快も別に評価しました。

音については、実際に音を聴きながら、香りに合う高さを選びました。色は、画面上で明るさや色合いを調整して選択しています。したがって、ここで測った「丸さ」は、香りから連想して選んだ図形との対応です。分子の形や、香りを嗅いだときに実際に図形が見える現象を測ったものではありません。

電子鼻が読むのは、人の感想ではなくセンサーの反応

次に、同じ10種類の香料を電子鼻で測りました。これは複数のガスセンサーを組み合わせ、気体が触れたときの反応の違いを記録する装置です。人のように「レモンらしい」「心地よい」と感じるのではなく、香りの混合物が作る反応のパターンを捉えます。

測定した特徴には、揮発性の成分に反応する複数のセンサーの値と、温度、湿度、気圧が含まれました。香料を装置内に入れて10分間記録し、それを各香料で10回ずつ繰り返しています。合計100記録ですが、香料の種類は10種類です。解析には、繰り返し測定をまとめた各香料の平均的な特徴を使いました。

電子鼻のセンサーは、複数の成分に反応します。そのため、特定のセンサーの値が人の評価と関連しても、「この一つの分子が丸い印象を生んだ」とは言えません。香りの全成分を同定する分析でもなく、装置が捉えにくい成分や、一部の定量できない値があることも、原著は限界として挙げています。

人が似ていると感じた香りは、測定値でも似ている?

研究チームはまず、形や触感、色などの平均評価が似ている香りを近くに置いた「地図」と、センサーの値が似ている香りを近くに置いた地図を作りました。両方に、コーヒーとキャラメルが同じグループに入るなど、重なる部分がありました。

地図の向きや大きさをそろえて、香り同士の配置がどれくらい重なるかを調べると、著者らの指標では平均49%の類似度でした。ただし、これは配置の似かたを表す数値です。「人の連想の49%を化学で説明できた」「未知の香りを49%の確率で当てた」という意味ではありません。

たとえば、オレンジとレモンは人の評価では同じグループでしたが、センサーの特徴では同じグループには入りませんでした。人が似た印象を抱くことと、装置が似た反応を示すことには、重なりもずれもあったのです。

測定した特徴が説明したのは、評価のばらつきの6~23%

次に、参加者や香料ごとの差を考慮した統計モデルで、一つひとつの評価を調べました。九つの測定特徴のうち、ほかの値と強く重複していた一つを除き、八つを使っています。

形、触感、快・不快、音の高さ、色の各項目に、測定特徴との有意な関連が見つかりました。測定特徴の部分だけが説明した、評価のばらつきの割合は6~23%でした。たとえば形では18%、触感では6%、快・不快では10%、音の高さでは9%。色では、明るさが16%、赤と緑の方向が17%、黄と青の方向が23%でした。

これらは、この10種類について集めたデータの中で、評価の違いをモデルがどの程度捉えたかを表します。一人の感じ方がその割合だけ成分で決まるという意味ではなく、まだ測っていない香水や、別の人の回答を同じ精度で予測できるかも、この数値だけでは分かりません。

香りの強さや質を通じて、連想に関わるのかもしれない

形の評価には温度が、触感や快・不快、音の高さにはガスセンサーの反応が、色には温度や気圧を含む複数の特徴が関連していました。著者らは、その背景として、香りの強さ、香りの質、混合物の複雑さが関わる可能性を考えています。

たとえば温度や湿度、気圧は、におい物質が気体としてどのように存在するかに関わり、それが感じる強さや連想につながるかもしれません。ただし、この研究で温度を操作して同じ香料を比較したわけではありません。温度を上げると印象が丸くなる、といった因果関係は確かめていません。

原著では、特定のセンサー名を手がかりに、関わる化学物質についても考察しています。しかし、混合物に対するセンサーの反応だけで、連想を生む成分や仕組みを確定することはできません。空気質に関するセンサーを使ったことも、その香料の健康影響を調べたこととは別です。

この結果の意味は、学習や経験の説明を取り消すことではありません。レモンを見て嗅いできた経験や、香りの好き嫌いなどと並んで、鼻に届く刺激の物理・化学的な特徴も、一部を説明する手がかりになるということです。生まれつきの連想か、経験で身についた連想かを、この実験が決着させたわけでもありません。

知らない香りでも予測できるかが、次の課題

著者らは、香りの種類を増やし、なじみのない香りでも確かめる必要があるとしています。名前や経験からの連想が少ない香りでは、測定特徴が説明する割合が大きくなるかもしれない、という予想です。これは今回の10種類で実証された結論ではありません。

さらに、モデル作りに使わなかった香りを一つ残しておき、その評価を予測できるかを確かめる方法や、参加者に嗅いでもらう直前・直後に測定する方法も提案しています。そうすることで、未知の香りへの対応力や、その場の環境が与える影響を、より直接に調べられます。

研究は英国の工学・物理科学研究評議会(EPSRC)の助成を一部受けています。助成元は研究設計や解析、発表判断に関与せず、著者らは利益相反なしと申告しています。

まとめ

香りに合う形、触感、音、色の連想には、電子鼻で測った特徴との小さな、しかし有意な関連がありました。評価のばらつきの6~23%を測定特徴が説明したことは、連想を理解するうえで、経験や言葉だけでなく、香りの物理・化学的な側面にも目を向ける意味を示しています。

香りの「丸さ」は、一つの成分に貼りついた固定のラベルではありません。それでも、気まぐれな言葉として片づけるだけでは捉えきれない共通点があります。刺激の特徴が、感じる強さや質を通じて、ほかの感覚との結びつきにどう入り込むのか。この研究は、その道筋を調べる足場を作っています。

参考文献

Ward, R. J., Wuerger, S. M., Ashraf, M., & Marshall, A.(2023). Physicochemical features partially explain olfactory crossmodal correspondences. Scientific Reports, 13, 10590. DOI: 10.1038/s41598-023-37770-1. 原著全文。原著はCC BY 4.0で公開されています。