バニラの香りで牛乳は甘くなる?

バニラの香りで牛乳は甘くなる? 香りの科学

砂糖を増やさずに、バニラの香りを加えると牛乳は甘く感じられるのでしょうか。2018年、Gloria Wangらは108人に18種類の脱脂乳を飲んでもらい、バニラと砂糖が互いの感じ方をどう変えるかを調べました。

研究が確かめたかったのは、単にバニラ入りの牛乳が甘く評価されるかだけではありません。「甘い香り」と「舌で感じる甘さ」を答える欄が分かれていても、その影響は残るのか。さらに、組み合わせた効果は、二つの材料が別々にもつ効果の足し算を超えるのか、という問いでした。

香りの印象を、甘さの欄に答えているだけ?

バニラのように甘い食べ物を連想させる香りは、甘さの知覚を強めると報告されてきました。ただ、実験で「どれくらい甘いですか」とだけ尋ねると、香りの印象まで甘さの点数に入れてしまう可能性があります。研究者はこれを、適切な回答欄がないために別の欄へ感覚を振り分ける問題として考えています。

一方、ふだん食べ物を味わうときは、香り、味、口当たりを細かく切り分けるとは限りません。実験でそれぞれを分けて評価させること自体が、風味の受け取り方を変えてしまうかもしれません。今回の研究は、その問題を意識しながら、実際の食品である牛乳と、製品に使われる濃度を含む幅広い配合で調べました。

18種類の牛乳を、108人が3日間で評価

参加者は19~71歳の108人で、週に1回以上、脱脂乳または低脂肪乳を飲み、バニラ風味の牛乳の試飲に関心がある人たちでした。1日6試料ずつ、3日間で全18試料を評価しました。

牛乳に加える砂糖は重量の0~5%、2倍濃縮のバニラ抽出物は0~0.75%の範囲です。香り成分だけを純粋に取り出した試料ではなく、バニラ豆を水とエタノールで抽出した製品を使っています。砂糖だけ、バニラだけ、両方を加えた配合に、何も加えない脱脂乳を組み合わせました。

試料は5℃で、内容を示さない3桁の番号を付けて出しました。提示順は参加者間で偏らないように調整しています。参加者はまず9段階で好みを答え、その後に「甘さ」「バニラ風味」「牛乳らしい風味」「とろみ(粘りの感じ)」の強さを、それぞれ0~100の尺度で評価しました。香りの印象を答える欄も用意することが、今回の大事な工夫です。

バニラは甘さを少し高め、砂糖はバニラ感を強めた

全体の濃度と評価の関係をモデル化すると、バニラを増やしたときに甘さが高まる効果は、小さいながら統計的に有意でした。香りと甘さの評価欄を分けても、甘さへの影響が完全には消えなかったのです。

ただし、甘さを大きく左右したのは、やはり砂糖の量でした。モデル上、バニラ抽出物を0.1パーセントポイント増やしたときの甘さの上昇は、100点尺度で約0.5点です。これは濃度と平均的な評価の関係から計算した目安で、すべての人がその差をはっきり識別できた、という意味ではありません。

逆向きの影響もありました。砂糖を増やすと、バニラ風味の評価が大きく上がったのです。著者らは、バニラが甘さを増す働きより、砂糖がバニラ感を増す働きのほうが目立ったと報告しています。バニラ風味の食品で砂糖を減らすと、甘さだけでなく、バニラらしさも変わり得ることが、この研究から見えてきます。

著者らは、この相互作用を、味と香りが知覚の中で結びつくことによるものと考察しました。ただし、この実験自体で脳活動を測ったわけではなく、抽出物から放出される揮発成分を直接測って仕組みを確定したわけでもありません。

足し算を超える組み合わせは、濃いほどよいわけではない

「バニラを加えると甘くなる」ことと、「二つを合わせると、別々の効果を足した以上になる」ことは同じではありません。研究者は、砂糖だけを加えた牛乳とバニラだけを加えた牛乳の濃度と甘さの関係から、相互作用がない場合の基準をつくりました。そして、実際に両方を混ぜた牛乳の甘さが、基準からどれほどずれるかを調べました。

この解析では、混合した9配合のうち4配合に、著者らが設定した基準を超える相乗効果の証拠が見られました。砂糖1.31%または2.24%に、バニラ抽出物0.30%または0.435%を組み合わせた配合です。相乗効果は、低~中程度の濃度で目立ち、バニラを最も多くした混合試料では同じ基準を満たしませんでした。

ここでいう相乗効果は、濃度と評価を使う数学的な判定です。著者らも、その指標の違いが消費者にとってどれほど意味のある感覚差なのか、ほかの食品にも同じ判定基準が使えるのかは、さらに検証する必要があるとしています。相乗効果があった割合を、そのまま砂糖の削減率に読み替えることはできません。

「甘い」と「好き」は別の曲線になる

好みの評価は、バニラと砂糖を増やし続ければ上がる形ではありませんでした。濃度と好みの関係を表すモデルでは、砂糖約3.79%、バニラ抽出物約0.53%付近が最も好まれる点となりました。これは、この脱脂乳と抽出物、参加者群のデータに当てはめたモデル上の値です。あらゆるバニラミルクの最適配合ではありません。

著者らは、香りによる甘味増強が小さいことを踏まえ、減糖に活用するなら、ほかの手法と組み合わせる必要があるだろうと述べています。また、今回のように風味を項目ごとに採点する方法だけでなく、食品をひとまとまりとして比べる方法でも、相互作用を確かめるべきだと提案しました。

まとめ

バニラの香りは、この脱脂乳の実験では甘さを少し高めました。その変化は、甘さと香りの回答欄を分けても残り、一部の配合では単純な足し算を超える相互作用も示されました。ただし、効果は小さく、バニラを増やすほど相乗効果や好みが高まるわけではありません。

同時に重要なのは、砂糖もバニラの感じ方を変えていたことです。バニラと砂糖は、香り担当と甘さ担当にきれいに分かれるのではなく、飲んだときの風味を一緒につくっています。減糖した食品のおいしさを考える際にも、甘さだけを戻すのではなく、香りの印象まで含めて配合を整える必要があることを、この研究は示しています。

参考文献

Wang, G., Hayes, J. E., Ziegler, G. R., Roberts, R. F., & Hopfer, H.(2018). Dose-Response Relationships for Vanilla Flavor and Sucrose in Skim Milk: Evidence of Synergy. Beverages, 4(4), 73. DOI: 10.3390/beverages4040073 / 原著全文。

原著:© 2018 by the authors. Licensee MDPI, Basel, Switzerland. CC BY 4.0。