自分の香水は、ほかの匂いの感じ方に影響する?

自分の香水は、ほかの匂いの感じ方に影響する? 香りの科学

香りや味を人の感覚で調べる官能評価では、参加者に香水やコロンをつけてこないよう求めることがあります。身につけた香りが、評価する試料の匂いに影響するのを避けるためです。では、その香りは、つけている本人の嗅覚にも影響するのでしょうか。

2022年に発表されたThadeus L. Beekmanらの研究は、この慣行に実験的な根拠を与えようとしたものです。同じ人が香水のない状態と、香水をつけた状態で嗅覚検査を受けると、弱い匂いを検出する成績や、匂いを区別する成績に差がありました。ただし、どんな匂いかを当てる成績には有意な差がなく、香りの影響は検査の種類によって異なっていました。

「匂いがする」「違いがわかる」「何の匂いかわかる」

この研究では、匂いを出すペン状の器具を使う「Sniffin’ Sticks」という検査で、嗅覚の三つの側面を調べています。

一つ目は、どれほど薄い匂いまで気づけるかという「検出閾値」です。ごく弱い匂いでも検出できるほど感度が高いことになります。この検査の閾値スコアは、高いほど薄い匂いを検出できるように得点化されています。物理的な濃度の閾値と、検査の得点の向きが逆になる点に注意が必要です。

二つ目は、匂いの違いを見分ける「弁別」です。何の匂いかを言い当てられなくても、二つの匂いが違うと気づくことはあります。三つ目の「同定」は、その匂いが何であるかを判断する課題です。日常ではひとまとめに「鼻が利く」と表現していても、弱い刺激を捉えること、違いを見分けること、匂いの正体を判断することは、分けて調べられます。

同じ19人が、香水のない状態と二つの量を比較

分析の対象になったのは、専門的な官能評価の訓練を受けていない19人です。平均年齢は33歳で、参加前の自己申告で嗅覚の低下や困難を訴えた人は除かれています。全員が1週間ずつ間隔を空けて3回参加し、香水なし、3噴霧、10噴霧の条件をすべて経験しました。条件の順序は参加者間で偏らないよう釣り合わせ、無作為化しています。

使った香水は、全員共通のMarc Jacobs「Decadence」オードパルファムです。参加者が好みの香水を選んだわけではありません。事前の研究で男女どちらかのイメージに偏りにくいと評価されていたことが、選定の理由でした。

香水は肌に直接つけず、検査の直前に別室でエプロンの胸の部分へ噴霧し、そのエプロンを参加者が着用しました。3噴霧は約0.162g、10噴霧は約0.540gに相当します。予備試験では、それぞれ「ちょうどよい強さ」と「過剰な強さ」と判断されていました。この呼び方は今回の準備条件での評価であり、日常の適量を示すものではありません。

参加者には、自分の香水をつけずに来ることと、検査前2時間の飲食・喫煙を控えることを求めました。検査は換気された部屋で研究者と参加者が一対一で行い、閾値、弁別、同定の順に実施しています。閾値と弁別の課題中は目隠しをしました。

弱い匂いの検出には、3噴霧でも差があった

閾値の平均スコアは、香水なしで7.89、3噴霧で5.95、10噴霧で3.67でした。三つの条件のどの組み合わせにも統計的に有意な差があり、香水の量が多い条件ほど、薄い匂いを検出する成績が低くなっていました。「ちょうどよい強さ」とされた条件でも、香水なしと同じ成績ではなかったのです。

弁別の平均スコアは、香水なしで12.00、3噴霧で10.68、10噴霧で10.26でした。有意な差が認められたのは、香水なしと10噴霧の比較です。3噴霧の成績は数値上その間にありましたが、香水なしとも10噴霧とも有意な差はありませんでした。したがって、3噴霧で弁別も確実に低下したとまではいえません。

同定では、三つの条件の成績に有意な差がありませんでした。一方、三つの得点を合計したTDIスコアは、香水なしが33.05、3噴霧が29.05、10噴霧が26.57で、香水なしは二つの香水あり条件より有意に高くなりました。3噴霧と10噴霧の合計得点には有意な差がありません。合計得点だけを見ると、個々の能力への影響の違いが隠れるため、各課題の結果も併せて読むことが大切です。

なぜ影響したのか。著者らが挙げた二つの可能性

著者らは、まず「嗅覚順応」を挙げています。同じ匂いに続けてさらされると、その刺激に対する感度や反応が下がる現象です。もう一つは、身につけた香水が検査の弱い匂いを覆い隠す「マスキング」です。とくに香水が強い条件では、この影響が考えられます。ただし、今回の実験は、順応とマスキングのどちらが、どの程度働いたかを切り分けてはいません。

閾値検査はエプロンを着けた後、最初に行われました。この順序から、著者らは、香りにさらされて数分という比較的短い時間でも影響が生じた可能性を指摘しています。ただし、時間経過そのものを比較した実験ではなく、何分で影響が始まるか、香水を外してからいつ戻るかは調べていません。

同定に有意な差がなかった理由については、同定用の匂いが、ほかの課題より強く、種類も多かったため、香水の影響を受けにくかった可能性を挙げています。また、匂いを見分けることと正体を判断することには、異なる認知の働きが関わるという先行研究にも触れています。いずれも結果を説明する仮説であり、この実験で仕組みまで確かめられたわけではありません。

官能評価の慣行を支える結果と、次に確かめること

この研究が直接示したのは、身につけた香水が、本人の嗅覚検査の成績を変えうることです。とくに弱い匂いの検出では、予備試験で過剰とされなかった量でも差がありました。著者らはこれを、官能評価の参加者に香水を控えてもらう慣行を支持する証拠と位置づけています。試料そのものの特徴を捉えたい場面で、本人がまとった香りも検査条件の一部として考慮する理由になります。

ただし、実際の食品の味や好ましさを評価した研究ではありません。食べ物を口にしたとき、鼻へ抜ける香りを感じる「レトロネーザル嗅覚」への影響も、今後の課題です。訓練を受けた評価者についても、著者らは影響を予想していますが、今回の参加者から直接確かめられたことではありません。

また、一種類の共通の香水をエプロンにつけたため、参加者が普段使う「自分の香り」というより、周囲の環境の匂いとして感じていた可能性があると著者らは述べています。使い慣れた香水を自分でつけた場合、噴霧する場所や衣服を変えた場合、同じ場にいる別の人が香水をつけている場合にも同じ結果になるかは、別に調べる必要があります。

まとめ

香水を身につけると、ほかの匂いの感じ方に影響することがある。今回の19人の実験では、弱い匂いの検出と、強い香水条件での匂いの弁別に、その証拠が得られました。香水を控えて官能評価に参加するという慣行には、評価者本人の嗅覚への影響を減らす意味もあると考えられます。

同時に、同定には有意な差がなく、課題の種類によって、検出された影響は異なりました。この研究は、日常の推奨噴霧数や長期的な嗅覚への影響を決めるものではなく、香りを評価する際に、自分がまとっている香りにも目を向けるための実験的な手掛かりです。

参考文献

著者:Thadeus L. Beekman, Kaushik Luthra, Shady Afrin Jeesan, Rebecca Bowie, Han-Seok Seo
論文名:Should Panelists Refrain from Wearing a Personal Fragrance Prior to Sensory Evaluation? The Effect of Using Perfume on Olfactory Performance
掲載誌:Foods 11(3), 428(2022年)
公開日:2022年2月1日
DOI:10.3390/foods11030428
原著全文:出版社の論文ページ
原著ライセンス:Creative Commons Attribution 4.0(CC BY 4.0)。