匂いを追うドローンは、なぜ途中で止まるのか

匂いを追うドローンは、なぜ途中で止まるのか 香りの科学

風に乗って届く花の香り。どこかで香っていると分かっても、発生源の場所まで突き止めるのは簡単ではありません。匂いを感じるセンサーをドローンに載せれば、香りの来た方向へ飛んでいけるのでしょうか。

2025年2月、千葉大学や信州大学などの研究チームは、カイコガの触角を使って匂いを追う小型ドローンを報告しました。研究の工夫は、触角の感度を生かす装置と、周囲を調べる途中で回転を止める動きにあります。

空気の中の匂いは、一本の道ではない

匂いの分子は空気の流れで運ばれます。風の速さや乱れによって、その広がりは細い筋のようになり、場所や時間で濃さが変わります。発生源に向かえばいつでも滑らかに濃くなる、という地図を描けるわけではありません。

そのため、ある瞬間に強い反応が出ても、それだけで進む方向を決めるのは難しくなります。さらに、ドローンはプロペラで自ら空気を動かします。匂いを受け取る装置をどこに置き、どちらへ向けるかまで考える必要がありました。

本物の触角から、電気信号を読む

この研究で使ったのは、雄のカイコガから切り離した本物の触角です。一本の触角を電極につなぎ、匂いへの反応として生じる小さな電気信号を読み取ります。信号を増幅してコンピューターへ送り、ドローンの向きと組み合わせて進行方向を決める仕組みです。

対象は、カイコガの性フェロモンの主成分「ボンビコール」でした。雄が交尾相手を見つける手がかりになる物質で、この触角はそれに敏感に反応します。花の種類や香水の香調を人のように嗅ぎ分ける機械をつくった研究ではありません。

生物の組織なので、触角ごとに信号の強さが違い、乾燥にも気を配る必要があります。研究チームは、電極に溝を設けて導電性のジェルを保持しやすくし、信号の増幅率を変えられる回路も組み込みました。弱い反応を読み取りやすくするとともに、強い反応で測定範囲を超えるのを避ける工夫です。

匂いが来た向きを、覆いの形で絞る

触角の周囲には、入口が外側へ広がる覆いを取り付けました。機体に近すぎるとプロペラの風の影響を受けるため、触角はドローンの中心から10cm離しています。研究者たちは風速を測り、煙を流して、覆いに空気が入る様子も確かめました。

飛行中の機体を一周させて反応を比べると、入口を広げない覆いでは、匂い源の方向を中心に左右90度ほどの範囲で反応が集まりました。入口を広げた覆いでは、左右45度ほどに絞られました。どの方向からでも同じように感じるより、正面からの匂いに反応しやすいほうが、機体を回して方向を探る手がかりになります。

回り続けるより、ときどき止まる

次に改めたのが動き方です。新しい方法では、一周の回転を三つに分け、途中に4秒ずつの停止を挟みました。ここでいう停止は、着陸したりプロペラを止めたりすることではありません。空中で機体の向きを保つ時間を設ける、という意味です。

停止中と回転中の電気信号を、そのとき機体が向いていた方向と対応させます。反応の強さを考慮して進む方向を推定し、そちらへ0.7m進む。この「周囲を調べる、進む」という動きを繰り返しました。

匂い源から3m離れて始めた比較では、従来の回転と前進を組み合わせる方法は17回中3回、新しい方法は17回中7回、成功と判定されました。割合では約18%から約41%への増加です。成功の基準は、匂い源から半径1.3m以内に入ることでした。発生源の一点を言い当てた割合ではありません。

新しい方法では、推定した方向も実際の匂い源の方向に寄りやすくなりました。停止することで触角へ空気が届きやすくなることや、一瞬だけ匂いの筋に触れる影響を和らげることを、著者たちは理由として考えています。こうした仕組みの説明と、比較実験で成功回数が増えた事実は、分けて読む必要があります。

5m先から近づく実験で分かったこと

改良した装置では、5m離れた場所からの探索も行いました。電池による飛行時間の制約を避けるため、有線で給電した室内実験です。13回の試行のうち2回で匂い源の約45cm手前まで近づき、別の2回では約1mまで到達しました。5m先から毎回確実に見つけられた、という結果ではありません。

論文には、10m離れていても匂いを検出した実験もあります。ただし、こちらは廊下で機体を空中にとどめて反応を測ったものです。「10m先で検出できること」と「そこから飛んで発生源へたどり着くこと」は、別々の性能として調べられています。

いずれも、室内でボンビコールを決まった装置から送り出す条件での結果です。

まとめ

匂いを受け取れる触角を載せたドローンでも、どの方向へ進むかを決める工夫が必要です。今回の研究では、空気を取り込む覆いを整え、回転の途中で向きを保つ時間を設けることで、匂いの来る方向を探りやすくし、比較実験で発生源へ近づけた回数を増やしました。

香りは、空気の流れの中で届いたり途切れたりします。その変化を進む手がかりにするには、何を感じ取れるかに加え、どう空気を受け取り、いつ測るかが大切になる。「ときどき止まる」という動きは、匂いを検出する技術を、匂いをたどる技術へつなぐ工夫だったのです。

原著情報

Chihiro Fukui, Tomoya Uchida, Sakito Koizumi, Yuta Murayama, Hao Liu, Toshiyuki Nakata, Daigo Terutsuki
Advanced bio-hybrid drone for superior odor-source localization: high-precision and extended-range detection capabilities
npj Robotics, 3, Article 4 (2025). 初回公開・正式版公開:2025年2月5日。
DOI: https://doi.org/10.1038/s44182-025-00020-9
全文: https://www.nature.com/articles/s44182-025-00020-9

原著のライセンス:Creative Commons Attribution 4.0 International(CC BY 4.0)。本記事は原著の知見をもとにした独自の日本語解説です。原著の図表は転載していません。