洗濯機の扉を開けたとき、むっとしたにおいがする。そんなとき、中にはたくさんの菌がいるのだろうと想像するかもしれません。では、におう洗濯機とにおわない洗濯機では、菌の量や顔ぶれがどう違うのでしょうか。
2026年の研究は、実際に使われている家庭の洗濯機16台を調べました。見えてきたのは、においの有無で菌の集団が大きく二分されるというより、洗濯機の場所ごとに異なる、小さな違いでした。なかでも洗剤の引き出しには、においとの関連を探る手がかりが集まっていました。
においと菌の関係を、二つの角度から調べる
洗濯機の中には水分があり、衣類などから持ち込まれる成分も残ります。こうした環境では微生物が暮らし、表面に集まってバイオフィルムと呼ばれる膜状の集団を作ることがあります。ただ、菌が見つかることと、その洗濯機を人が「におう」と感じることの間には、まだ十分に分かっていない部分があります。
フルトヴァンゲン大学のSabasadat Seyednikkhooらは、洗濯機の細菌を「どんな種類がいるか」と「どれくらいの量があるか」の両面から調べました。特定の菌が多いことや、細菌全体の量が、使用者の感じるにおいと結びつくかを確かめるのが研究の目的です。
対象はドイツの大学関係者らが使う16台で、持ち主がにおうと答えた8台と、におわないと答えた8台。専門の嗅覚評価者による判定や、におい成分の機器測定による分類ではなく、家庭での使用者の実感を出発点にしています。
同じ洗濯機の中でも、三つの場所を分けて見る
試料を採ったのは、洗剤を入れる引き出し、扉のゴムパッキン、下部の排水だまりにあたるサンプという3か所です。16台から計48の部位試料を集め、細菌の種類を見分ける手がかりとなる16S rRNA遺伝子の配列を読みました。
これに加えて、別に採った試料の細菌DNAをqPCRという方法で定量しました。におう群、におわない群の各1台は、信頼できる定量に必要なDNA濃度に達しなかったため、この比較は各7台、計14台です。採取した面積の違いを補正し、同じ洗濯機から採った3か所のデータが互いに関連することも解析に組み込みました。
DNAを使う方法なら、通常の培養では拾いにくい細菌も調べられます。一方、この定量値は細菌DNAの量で、今生きて活動している菌の数や、作られたにおい物質の量を直接測ったものではありません。
目立ったのは、菌の種類と場所の組み合わせ
細菌の顔ぶれは、採取した場所によって違っていました。扉のパッキンではモラクセラ属が目立ち、種としてはMoraxella osloensisが多く見つかりました。下部の排水だまりでは、シュードモナス属などが多く、洗剤の引き出しには複数の種類が混在していました。
Moraxella osloensisは、洗濯物の不快なにおいとの関連が先行研究で報告されている細菌です。ところが今回のパッキンでは、におう洗濯機にも、におわない洗濯機にも多く、その相対的な割合に有意差はありませんでした。よく知られた菌の名前が見つかるだけでは、持ち主が感じるにおいを説明しきれなかったのです。
上位を占める菌の多くでは、におい群による差は限られていました。差が見られたものも、すべてがにおう群で多いわけではありません。たとえば、下部の排水だまりではDiaphorobacter nitroreducensが、におわない群で多く見つかりました。
洗剤の引き出しには、小さな違いが集まっていた
菌の多様性を調べると、におう洗濯機の洗剤引き出しでは、種類の豊富さや、その分布を表す一部の指標が高くなっていました。パッキンと下部の排水だまりでは、同じ多様性指標に、におい群の有意差はありませんでした。
菌の集団全体の組み合わせを比べる解析でも、洗剤引き出しには群間差が見られました。ただし、使う統計手法によって有意になるかは異なります。パッキンでは、菌の多さまで含めた比較では差が出ず、どの菌が存在するかに着目した比較で差が出ました。下部の排水だまりでは、いずれの比較でも明確な群分けはできませんでした。
さらに、全体では少数派の菌の中にも、におう群で割合が高いものがありました。著者らは、こうした細かな構成の違いや菌の活動に注目しています。全体で多い菌だけを数えると見えにくい違いが、特定の場所にあるかもしれないという結果です。
菌量は、におう群で高めでも、ばらつきが大きかった
細菌DNA量の中央値は、3か所とも、におう群のほうが高めでした。しかし、洗濯機ごとのばらつきが大きく、両群の測定値はかなり重なっていました。
統計解析では、採取場所による違いは有意でしたが、におい群による違いは、研究で用いた有意水準には届きませんでした。におい群のp値は0.067です。これは「菌量が同じと証明された」という意味ではなく、今回の規模とばらつきの中では、群間差を明確に検出できなかったという結果です。
著者らも、少数の洗濯機を調べた探索的な研究であり、小さな差を捉える力には限界があると述べています。においと菌量の関係を詳しく知るには、もっと多くの洗濯機を調べる必要があります。
次に知りたいのは、菌が何をしているか
今回の結果から浮かぶのは、菌の種類や量に加え、その場所で何を材料に、どんな物質を作っているかという問いです。同じ菌が存在していても、周囲の水分や残留物などが異なれば、その活動も変わる可能性があります。
研究では、菌が作る揮発性物質や代謝活動までは測っていません。洗剤の引き出しが重要な場所かもしれないという見方も、関連をもとにした次の研究への手がかりです。そこを掃除すれば必ずにおいが消える、と試した実験ではありません。
著者らは今後、訓練された評価者によるにおいの判定と、細菌の構成、代謝物、活動を一緒に調べることを提案しています。洗剤の使い方、洗濯頻度、家庭の状況も記録すれば、洗濯機の中の環境とにおいのつながりを、より具体的に探れます。
まとめ
家庭の洗濯機16台を調べたこの研究では、細菌の顔ぶれは洗濯機の部位によって異なり、におう群とにおわない群の差は比較的小さく、場所に依存していました。洗剤の引き出しでは、多様性と菌の組み合わせに関連が見られ、次に詳しく調べる候補として浮かび上がりました。
14台で測った細菌DNA量は、におう群で高めでしたが、群間差は統計的に有意ではありませんでした。菌の総量や代表的な菌の名前だけでにおいを判断するより、どこに、どんな集団がいて、何を作っているのかを見る。洗濯機のにおいを理解するには、そんな複数の視点が必要だと分かる研究です。
共著者にはHenkel Consumer Brandsの研究者が含まれます。研究資金はドイツ連邦研究・技術・宇宙省のNASHプロジェクトから提供され、著者らは利益相反なしと申告しています。
参考文献


