匂いの名前を間違えても、何かは分かっている?

匂いの名前を間違えても、何かは分かっている? 香りの科学

リンゴの匂いを嗅いで、「果物」と答える。「リンゴ」が正解のテストなら誤答でも、何も分かっていないわけではなさそうです。名前を言い当てられなかったときの言葉には、匂いのどんな情報が残っているのでしょうか。

Thomas Hörbergらが2024年に発表した研究は、スウェーデンの成人2,479人の回答を分析しました。正答率だけを見るのではなく、誤答に使われた言葉の意味や、普段どれくらい使われる語かを調べ、匂いの知覚と言語のつながりを探った研究です。

16種類の匂いを、まず自分の言葉で答える

対象はストックホルムの地域住民を追跡する研究に参加した、約58~100歳の人たちです。匂いの課題に参加した2,569人から、認知症やパーキンソン病など、研究で定めた除外条件に該当する90人を除きました。平均年齢は約72歳です。

使ったのは、リンゴ、バナナ、コーヒー、革、バラ、ペパーミントなど、日常的な16種類の匂い。まず選択肢を見せずに、何の匂いか自由に答えてもらいました。答えを一つに絞れず、複数挙げることもできました。

名前が間違っていたり、答えられなかったりした場合には、正解を含む四つの選択肢から選んでもらいます。総合的な同定成績は、自由回答か選択式のどちらかで正しく答えられた匂いの数です。自由に名前を出せた数だけではありません。

今回詳しく調べたのは、最初の自由回答で出た誤答です。無回答とは区別し、一語で表された言葉を中心に解析しました。

「言い間違い」は、でたらめではなかった

研究者は、スウェーデン語の大量のブログ文章などを使い、それぞれの語の使われ方を数値化しました。よく使われる語か、匂いの話に登場しやすいか、広い範囲の匂いに使える語か。また、正解の名前と意味がどのくらい近いかも調べています。

たとえば「リンゴ」と「ナシ」は、食べる、果物といった似た文脈で使われます。このような文章中の使われ方から、語の意味の近さを推定しました。匂いの分子構造や、鼻が感じた似ている度合いを直接測った値ではありません。

頻繁に出る誤答には、日常でもよく使う語、匂いや味と結びつきやすい語、正解と意味が近い語が多く見られました。同時に、特定のものに限定されない、広い表現もよく使われていました。

16種類中14種類の匂いでは、誤答の上位三つに、果物・花・香辛料といった大きな分類名や、良し悪しを表す言葉が含まれていました。そうした答えを促されていなくても、正確な名前が出ないときには、もう少し広い表現を選んでいたのです。

同じ誤答でも、正解への近さが違う

さらに、総合的な同定成績が良い人ほど、間違える場合にも、具体的なものを指す語や、正解に意味が近い語を使う傾向がありました。幅広いものに当てはまる一般的な語より、対象を絞り込める言葉を使っていたのです。

リンゴに対してナシと答えるのと、まったく別のものを挙げるのとでは、正解には届かなくても、残っている情報が違うと考えられます。一方、「果物」や「甘い」のような答えも、匂いの一部の特徴を伝えている可能性があります。

ただし、この研究で示されたのは回答の特徴と成績の関連です。具体的な語を使わせれば嗅覚が良くなる、といった訓練効果を試したわけではありません。

誤答の言葉から、香りの捉え方も見えてくる

言葉をまとめて分析すると、心地よさ、食べ物との結びつき、具体的なものを指すかどうかが、誤答の広がりを整理する主要な軸になっていました。これは、過去に調べられた英語の香りの語彙とも似た構造です。

つまり、誤答は単なる雑音ではなく、人が匂いをどのような特徴で理解しているかを映す資料にもなります。ただし、一部の語の評価にはスウェーデン語を英訳した既存データを使っており、すべてを同じ参加者から直接評定したわけではありません。

対象が高齢のスウェーデン語話者で、限られた16種類の匂いを使った点にも注意が必要です。香りの表現は文化や経験、その場の目的によって変わります。この語のまとまりを、あらゆる年代や言語に共通する唯一の分類として扱うことはできません。

まとめ

名前を言い当てられなくても、匂いについての知識が失われているとは限りません。正解に近いものを挙げる、分類を言う、特徴を表す。誤答の中にも、対象をどこまで捉えているかの違いがありました。

著者らは、正解か不正解かだけでなく、「どのくらい近い答えか」も評価すれば、匂いを理解する力をより細かく捉えられると考えています。誤答の言語的な特徴は、既存の嗅覚評価を補う手がかりになる可能性がありますが、個人の病気や健康状態をこの言い方だけで判断できるという研究ではありません。

参考文献

Hörberg, T., Kurfalı, M., Larsson, M., Laukka, E. J., Herman, P., & Olofsson, J. K. (2024). A Rose by Another Name? Odor Misnaming is Associated with Linguistic Properties. Cognitive Science, 48(10), e70003. DOI: 10.1111/cogs.70003(原著全文)。

研究はスウェーデン研究評議会、Knut and Alice Wallenberg財団などの支援を受けています。著者らは、利益相反となりうる商業・金銭的関係はないと申告しています。原著:© 2024 The Author(s)、Creative Commons Attribution-NonCommercial(CC BY-NC)。