一つずつ嗅ぐとプラスチックのようなのに、マンゴーの香りと一緒に嗅ぐとフルーティーに感じる。2021年の研究では、「3-カレンオキシド」という成分に、そんな印象の違いが見つかりました。
研究の目的は、3品種のマンゴーらしい香りをつくる成分を調べること。そして、分離した成分を単独で嗅ぐだけでは見えない、果実全体の香りの中での働きを探ることでした。
3品種の香りを、二通りの方法で調べる
対象は、市販の適熟マンゴー「アーウィン」「カラバオ」「ナムドクマイ」です。切りたての果実を8人が評価すると、アーウィンは甘くフルーティーでラクトン様、カラバオは青く酸っぱい印象、ナムドクマイは果実様の甘さに硫黄様・青い印象もあると表現されました。
研究者たちは各品種の果肉1.1kgから香気成分を溶媒で抽出し、高真空での蒸留によって香りの濃縮物をつくりました。分析は、専門評価者3人によるにおい嗅ぎガスクロマトグラフィーを基盤に、二つの方法で行います。
一つはAEDAです。抽出物を3倍ずつ薄め、装置で分離された成分を嗅いで、どの希釈段階まで感じられるかを調べます。もう一つはAROMATCHで、分離した成分に加え、切った生のマンゴーから出る香りも同時に鼻へ送ります。
AROMATCHの背景となる香りには、果肉100gを約2cm角に切り、1%アスコルビン酸液10gを加えた試料を使いました。25℃で果実の香りを送り、個々の成分がその中でどう感じられるかを調べる仕組みです。
甘さの共通成分と、品種ごとの特徴
二つの分析から41のにおいを持つ成分が検出され、そのうち36成分が、標準品との香り、保持位置、質量スペクトルの比較で同定されました。
単独で嗅ぐAEDAでは、甘い香りを持つHDMF、別名フラネオールが3品種とも高いFD値を示しました。FD値は「何倍に薄めても感じられたか」の指標で、香りに関わる有力な候補を探すために使います。
アーウィンでは、桃やココナツを思わせる甘いラクトン類が目立ちました。一方、カラバオとナムドクマイでは、青い香りの(Z)-3-ヘキセナールや、甘いバニリンが高いFD値を示しました。全体として感じた品種ごとの印象に、成分分析からも手掛かりが得られています。
マンゴーの香りを背景にすると、印象が変わる
特に興味深かったのが、アーウィンの3-カレンオキシドです。単独の分析では「プラスチック様」と表現された成分が、果実全体の香りと同時に嗅ぐAROMATCHでは「フルーティー」と表現されました。
同じくアーウィンでは、p-クレゾールの印象が、単独では「動物様」、果実の香りの中では「熟した」印象になりました。ただし、カラバオの背景ではp-クレゾールは動物様と表現されており、どんな香りと一緒でも熟した印象になるわけではありません。
別の例は、(Z)-6-ドデセン-4-オリドというラクトンです。アーウィンのAEDAではFD値243だったものが、AROMATCHでは59,049まで検出され、甘さや厚みを感じさせる成分として捉えられました。果実の香りを背景にした方が、より薄い段階でもその働きを捉えられたという結果です。
この数字の比は、マンゴーのにおいが何百倍も強くなったことを意味しません。二つの異なる嗅ぎ方で、段階希釈した成分をどこまで感じたかの比較です。
単独のにおいだけでは、役割を決められない
AROMATCHでは、ナムドクマイのγ-オクタラクトンも、単独での甘いココナツ様から、全体に厚みを与える印象へ変わりました。また、すべての成分が感じやすくなるわけではなく、背景の香りと合わせるとFD値が低くなる成分もありました。
こうした結果は、香りの成分同士が混ざることで、感じやすさや質が変わることを示唆します。単独で好ましくない言葉で表される成分も、果実全体では熟した感じや個性に関わる可能性があるのです。
今回、3-カレンオキシド、4-アセトキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノン、(Z)-6-ドデセン-4-オリドの3成分は、マンゴーで初めて同定された成分として報告されました。特にアーウィンの香りを考える重要な候補とされています。
相互作用の仕組みは、これから確かめる
この研究は、成分の探索と、自然の香りを背景にした評価を組み合わせたものです。評価者は少人数で、感じやすさや質の変化をより多くの人で統計的に検証することは、著者たちも今後の課題としています。受容体でどんな相互作用が起きたかを測った研究ではありません。
また、3-カレンオキシドやp-クレゾールが果実の熟し具合を示す指標になるかという考えも示されていますが、熟成を時間経過で追って確かめた結果ではありません。品種や熟度、収穫・保存条件を広げた検証が必要です。
まとめ
3品種のマンゴーには、甘いHDMFなどの共通成分と、ラクトン類や青い香りの成分など、品種ごとの特徴がありました。さらにアーウィンでは、単独でプラスチック様に感じる3-カレンオキシドが、果実の香りの中ではフルーティーに、動物様のp-クレゾールが熟した印象に変わりました。
香りの中での役割は、一つの分子を単独で嗅いだ印象だけでは決まりません。どんな成分と一緒に届くかまで見ることで、マンゴーらしさをつくる組み合わせが見えてきます。
著者4人は、論文掲載時に曽田香料所属と記載されています。外部資金は受けておらず、競合する金銭的利益はないと申告しています。
参考文献
Kuroki, R., Sakano, R., Hattori, S., & Morishita, S. (2021). Comparing odor-active compounds in three mango (Mangifera indica L.) cultivars by aroma extract dilution analysis and the method for evaluating odor interactions. Food Science and Technology Research, 27(1), 103–109. doi:10.3136/fstr.27.103(原著全文)


