Mangla(マンラ)|チベット高原の記憶を、香りと工芸で日常につなぐブランド

チベット高原をイメージした風景とマンラのザ ピュレスト オブ スノーのボトル

静けさは、遠くにあるのではありません。

多哇德吉 — Mangla創業者

草原に寝転び、花の匂いを嗅ぎながら雲を眺める。遠くには牛や羊がいて、風が青稞の畑を渡っていく。青稞は高原で栽培される大麦である。Mangla(マンラ)の創業者・多哇德吉が覚えている幼少期には、そんな風景がある。

長く都市で暮らすようになってからも、彼女はその草原へ思いを向けた。自然に親しみ、自分の内側へ戻れる場所。その記憶を、今の暮らしで使う香りへとつないだのがマンラである。

香水を肌につける。部屋で線香を焚く。手にクリームをなじませる。マンラは、チベット高原の草木や暮らしから生まれた香りを、身体と住まいの両方へ広げている。

基本情報

  • ブランド名:Mangla(マンラ)/中国語表記:缦拉
  • 創業年:2023年
  • 創業者:多哇德吉
  • 創業者の故郷:中国・青海省果洛(ゴロク)の草原
  • 公式サイト:MANGLA

マンラは、チベット語の音訳で「癒しの道」を意味する名を掲げる。「精神の静けさ」「平和なエネルギー」「自然との深いつながり」を軸に、自分と向き合う時間を香りで日常に取り入れようとするブランドである。

創設者とブランドの成り立ち

果洛草原の幼少期と、都市生活からの自然への思い

多哇德吉は、果洛の草原で生まれ育った。色鮮やかな野の花、青空、雲、牛や羊。子どもの頃の彼女は、草原に横たわって匂いを嗅ぎ、風に揺れる青稞の畑を眺めて過ごした。自然は、遊び場であり、日々の生活を包む環境だった。

一度、厚く積もった野草の上で空を見上げていたとき、強く静かな自然の力に身体が浮かび上がるように感じたことがあった。夢だったのか、想像だったのか。彼女自身もそう問いながら、その体験が自然への喜びと畏敬を心に残したと語る。

大人になって都市で何年も暮らすうちに、彼女は幼少期を思い返し、自然に近づけるあの場所へ戻りたいと願うようになった。マンラの出発点には、故郷の景色と、都市生活の中で育ったその思いが重なっている。

マンラが、人とチベットの土地との自然なつながりをつくれることを願っています。

多哇德吉

故郷の記憶には、香を焚く暮らしもある。牧畜地域の朝、藏柏を焚いた煙が広い草原へ立ち上る。人々は祈りを捧げ、雪山や湖、草地を見渡す。そこでは、香りが自然や祈りと結びついている。マンラは、そうした土地の香りと文化を、現代の生活で使う製品へ移していく。

香りのオイル、線香、身体ケアを揃えた上海での発表

2023年に創業したマンラは、2025年10月16日、上海で香りを体験する展示と発表会を開いた。そこで発表した製品には、香りのオイル、線香、キャンドル、ディフューザー、ハンドクリーム、石けんが含まれていた。肌に触れるものと、部屋に香りを広げるものを、ともに展開していたのである。

会場には古い木の建具や原石が使われた。チベット高原の土地や暮らしを、香りと空間を通して伝える場だった。マンラは、香りそのものに加え、それを使う場所や器にも高原の文化を取り入れていった。

「デザイン上海」で示した伝統工芸と住空間

2026年3月19日から22日、マンラは「デザイン上海」に出展した。香水、線香、身体ケアの品々とともに並んだのは、木の家具や羊毛のクッション、壁に掛ける織物だった。

多哇德吉は、そのものづくりについてこう語っている。

私たちは、チベット文化の要素をそのまま持ってきたいのではありません。

多哇德吉

彼女が目指すのは、伝統の構造や意匠を解きほぐし、現代の製品へ組み直すことである。茶卓はチベットの住居の軒先から着想を得て、職人が木を磨いて仕上げた。羊毛のクッションには民俗的な文様を取り入れ、織物にはブランドの雪豹のモチーフを表した。

家具が囲む場所には、香りの製品も配置された。香水や香器は、日々座り、休み、誰かを迎える空間の中に置かれていた。多哇德吉のいう伝統と現代の対話は、こうした具体的な品物と、その組み合わせに表れている。

その後、サンフランシスコのScentFestにも、マンラの香水が並んだ。画家であり香水の作り手でもあるジョン・ビーベルは、木やハーブ、花の香りを持つ作品群に触れ、手仕事の親しみやすさを感じ取っている。

2026年10月16日には、U NOSE SHOPとNOSE SHOPオンラインで日本展開が始まった。日本での最初の展開は、五つの香水と、そのうち二つの香りのハンドクリームである。

ブランドのこだわり

高原の生き物と結びつけた五つの香りづくり

マンラは五つの香りに、高原の生き物や植物のイメージを重ねている。雪豹、鷲、白いヤク、チベットアンテロープ、花の咲く草地。それぞれに静けさや温かさなどのテーマを託し、木々や花、樹脂の香りと結びつけた。

「ザ ピュレスト オブ スノー|静かな雪国」(The Purest of Snow)は、雪豹をモチーフとする作品である。雪の高地を思わせるサイプレスの冷たさを題材に、ベルガモットやラベンダー、ウードを組み合わせる。ウードは沈香に由来する香りの呼び名である。

「アイ オブ ザ ヴォールト|蒼穹の眼」(Eye of the Vault)には、鷲のイメージを重ねる。中心は白檀、すなわちサンダルウッドである。そこにカルダモンやココナツを合わせている。同じ木質を扱いながら、「静かな雪国」の柑橘やハーブとは異なる組み合わせを選んだ。

五つの香りは、高原の異なる姿を担っている。マンラはそれらを香水だけにとどめず、ハンドクリームなどにも展開し、同じテーマを身体や空間の香りへ広げている。

栽培した木を選ぶ素材方針と、職人がつくる香器

マンラは、野生の木を伐採せず、栽培したサンダルウッド、ウード、チベットサイプレスを選ぶ方針を掲げる。木々から香りを得ながら、その木をどう育て、調達するかにも目を向けている。

香料の抽出には、真空抽出技術を採用している。

器づくりにも、土地の工芸が関わる。赤銅製の香器は、高原の職人が手作業で仕上げる。一方、ディフューザーの瓶や香りのオイルのキャップには、チベットの転経筒から着想を得た形を取り入れた。転経筒は、経文を納め、祈りの際に回す仏具である。伝統の形を現代の道具へ組み直す姿勢は、香りを入れる器にも及んでいる。

マンラは収益の一部を、チベット高原の牧畜地域の整備や子どもたちの教育支援へ還元する方針も掲げる。

線香と身体ケアに広げる香りの使い方

マンラの線香は、長さ12センチである。ブランドは、火をつけてから燃え尽きるまでを、一つのまとまった時間として捉えている。煙とともに香りが空間へ広がり、やがて消えていく。その移り変わりに、ゆっくり向き合うための品である。

線香は伝統工芸であるだけでなく、自然、文化、現代の暮らしをつなぐ表現でもあります。

MANGLA

ハンドクリームでは、高原で働く手や、ものをつくる手、人や自然に触れる手を題材にしている。酥油茶の温かさを受け止め、織物を織り、風雪や日差しにさらされる手。マンラは、その日々の営みと手をいたわる行為を結びつけ、五つの香りをクリームに展開した。

線香は部屋で過ごす時間に、クリームは手を使う暮らしに寄り添う。都市で暮らす人が香水や線香を使い、ひととき自分の呼吸や周囲の自然に意識を向ける。多哇德吉が故郷に求めた自然とのつながりは、そうした日常の小さな行為へと形を変えている。

参考文献