「もし人々が香水をもっと大切にすれば、世界はもっと穏やかな場所になるはずです」
——エリック・ミナティ(ニュー ノーツ創業者)
基本情報
New Notes(ニュー ノーツ)は、イタリア・ミラノを拠点とするニッチ香水ブランドである。2021年に、香水会社HIC Beauty(イック ビューティ)のもとで誕生した。創設者としてブランドの顔を担うのが、同社のクリエイティブディレクター、エリック・ミナティ(Erik Minati)である。ブランドは自らを「The Scent of Now(ザ・セント・オブ・ナウ/今この瞬間の香り)」と称し、性別やジャンルの境界を越えるエクストレ・ド・パルファン(extrait de parfum、香料濃度が非常に高い香水のカテゴリー)の新しい世代であることを標榜している。公式サイトは en.newnotesparfum.com である。
ブランドの出発点を2021年とする紹介がある一方、本格的な展開の始まりを2022年とする紹介もある。2022年7月には、ドイツの香水専門店「Aus Liebe zum Duft(アウス・リーベ・ツム・ドゥフト)」が前年に誕生したブランドとして取り上げている。2021年から2022年にかけて、ニュー ノーツの名が香水愛好家の目に触れるようになっていった。
創設者・ブランドの成り立ち
ニュー ノーツの物語の中心にいるのは、エリック・ミナティである。トリノ出身の彼は、欧州デザイン学院「Istituto Europeo di Design(イスティトゥート・エウロペオ・ディ・デザイン)」でアートディレクションを学び、アートディレクターとして活動してきた人物だ。幼い日の香りの記憶や、香水業界へ飛び込んだ劇的な転機よりも、このブランドを読み解く手がかりになるのは、彼が現在どのように創作を導いているかである。香りにどんなコンセプトを与え、どんな姿で世に送り出すか。アートディレクションを背景に持つミナティの考え方は、ブランドの言葉や作品の方向性に表れている。
ミナティは現在、ニュー ノーツの母体であるイック ビューティ社のクリエイティブディレクターを務めている。同社はミラノを拠点に、国際的な視野で香水づくりに取り組む会社だ。ミラノに息づく職人的な知恵、サヴォアフェールと、新しいビジネスを育てる都市の気風を、その活動の土台に置いている。同社の代表(CEO)はシンディ・ギユモン(Cindy Guillemant)であり、彼女はモロッコ・アラブ文化の美意識を主題としたブランド「Moresque(モレスク)」の創業者としても知られている。ギユモンは以前のインタビューで、自身のキャリアについて次のように語っている。
「私はフロリダで国際ビジネスのMBAを取得し、モンテカルロ、パリ、マイアミ、ミラノでキャリアを築いてきました。昔から香水を愛用していましたが、祖母が私に香りへの本当の愛情を植え付けてくれ、この業界に深く入り込むきっかけを与えてくれたのです」
——シンディ・ギユモン
ニュー ノーツは、こうしたイック ビューティのニッチ香水制作のノウハウを背景に生まれたプロジェクトである。ドイツの香水専門店「scent amor(セント・アモール)」は、その成り立ちをこんな言葉で捉えている。「ニュー ノーツの背後には、埃をかぶったボトルや装飾的なノスタルジアを伴うロマンティックなアトリエの物語はない。このブランドはイック ビューティのエコシステムから生まれた、国際的なニッチ香水の経験を持つミラノの会社の産物である」と。香水づくりや流通の経験を持つ会社が、新しい表現の場として構想したブランド。その背景を知ると、若いブランドでありながら、最初から明確な方向性を持っていたことも腑に落ちる。
では、ミナティはどんな考えで香りを生み出しているのか。ドイツの専門店「Hussong(フッソング)」が紹介する言葉には、ニュー ノーツという名前に込めた姿勢がよく表れている。
「それぞれの創作は、既存の慣習に疑問を投げかけるコンセプトから始まります。ニュー ノーツにとってのイノベーションとは、単に『新しい』ということだけではなく、『意味のある』ということを指すのです」
——エリック・ミナティ
こうした発言からは、New Notesが単なるトレンド追随のブランドではなく、香水の「文法」そのものを再構築しようとする意図を持っていたことがうかがえる。2021年に発表された最初のフレグランス群には、New Leather(ニュー レザー)やMusk Complexity(ムスク コンプレクシティ)などが含まれ、これらは伝統的な革や麝香(じゃこう)のイメージを、現代的な香料分子を用いて再解釈したものであった。
ブランドの成長過程においては、パリの老舗ニッチ香水専門店Jovoy(ジョヴォワ)とのコラボレーションなど、業界内での存在感を高める動きも見られる。2025年には、現在のジョヴォワを再興したフランソワ・エニン(Francois Henin)とミナティが共同で、限定フレグランス「Cherry Prosecco(チェリー プロセッコ)」を発表した。さらに2026年には、NOBILIS GROUP(ノビリス グループ)が同年5月からドイツ・オーストリア・スイスで独占販売を担うと発表された。この際、HIC BeautyのCEOであるギユモンは次のように述べている。
「この提携は、私たちのブランドにとって転換点であり、ノビリス グループの支援と私たちの共通のビジョンによって強化される、グローバルな成功物語への道の決定的な一歩です」
——シンディ・ギユモン(イック ビューティ CEO)
同じ発表の中で、HIC Beautyのクリエイティブディレクターとしてのミナティも、次のようにコメントしている。
「私たちは、ノビリス グループのチームが、その実証された専門性をもって、この包括的なアプローチを一貫して持続可能に実現するための正しいパートナーであると確信しています」
——エリック・ミナティ(イック ビューティ クリエイティブディレクター)
2026年3月には、バルセロナとマドリードでの発表イベントにミナティ自身が登壇し、新作「Magico Safrano(マジコ サフラーノ)」の創作背景を語った。イベントでは彼は「香りをテイスティングする」形式のセッションを行い、ワインの試飲会のように、一つひとつの香りを味わう体験型の紹介を行った。この場でミナティは、ブランドの根幹をなす考え方として「肌こそが香水の“最後の成分”である」という考えを改めて伝えている。
ブランドのこだわり
New Notesが最も強く打ち出しているコンセプトは「The Final Ingredient: Your Skin(ザ・ファイナル・イングリーディエント:ユア・スキン/最後の成分は、あなたの肌)」というフレーズに集約される。これは、香水を紙のムエット(試香紙)で判断するのではなく、必ず自身の肌に乗せて確かめてほしいという、ブランドからの明確な呼びかけである。その香りを支えるのは、上質な天然原料と、洗練されたハイテク分子、つまり化学的に合成された香料成分の組み合わせだ。自然と技術を重ねることで、従来の香水の型を越えた、より前衛的な香りを目指している。
香りの構造にも、その発想は及んでいる。ブランドが掲げるのは「Contemporary Blend Collection(コンテンポラリー ブレンド コレクション)」と「Hologram Collection(ホログラム コレクション)」という2つのライン。後者には、「二次元の画像に三次元の視覚を刻み込むホログラムのように、それぞれのフレグランスは高級な原料を重ね合わせることから新しい嗅覚的な深みを追求する」という、視覚に重ねた設計思想がある。
サステナビリティへの配慮もブランドの特徴の一つである。ブランドが掲げるのは、処方について包み隠さず伝える「徹底した透明性」だ。フタル酸エステルやパラベンを配合せず、動物実験を行わないクルエルティフリーを打ち出す。ボトルから外装まで、パッケージには100%リサイクル可能な素材を採用するという。すべての香水はイタリア国内で企画・製造されており、「100% Made in Italy(メイド・イン・イタリー/イタリア製)」であることも強調されている。
ジェンダーニュートラルという姿勢も一貫している。「香水は特定の性別に割り当てられるべきものではないので、私たちの香水はすべての人のためのものである」というのが、ブランドの立場だ。New Leatherのような伝統的に男性的とされてきた香りも、Latte di Cherry(ラッテ ディ チェリー)のような甘く華やかな香りも、明確な性別区分をせずに展開されている。
香水ラインナップ
New Notesの香水はすべてエクストレ・ド・パルファンの形式で発表されており、これは通常のオードパルファンよりも香料濃度が高く、持続性と肌への密着感を重視した処方である。公式サイトでは「コンテンポラリー ブレンド コレクション」と「ホログラム コレクション」が並び、ジョヴォワでは「コンテンポラリー ブレンド」と「Modern Liquid(モダン リキッド)」に分けて紹介されている。販売店によって案内の仕方は少し異なるが、さまざまな香調を現代的な感覚で組み直していく姿勢は共通している。
ブランド初期から知られる代表的な香りには、洗練された革の香りを再解釈した「New Leather(ニュー レザー)」、複雑に重なる麝香を主題とした「Musk Complexity(ムスク コンプレクシティ)」、そしてベビーパウダーのような清潔感を演出する「Talco(タルコ)」がある。これらは2021年前後に発表された、New Notesの原点となる香りである。
その後、ブランドはグルマン(食べ物を思わせる甘い香り)系の香りにも力を入れるようになった。キャラメルとバニラを主題とした「Caramelo Vanilla(カラメロ ヴァニラ)」や、チェリーとミルクを掛け合わせた「Latte di Cherry」は、香水評価サイト「Parfumo(パルフモ)」でそれぞれ7点台後半の評価を得たこともあり、ブランドの中でも人気の高い香りとされている。近年は、ピスタチオとミルクを組み合わせた「Latte Pistachio(ラッテ ピスタチオ)」、サフランを主軸とした東洋的でウッディーな「Magico Safrano(マジコ サフラーノ)」など、さらに新しい香りが加わっている。
より挑戦的なラインとして「Erotika(エロティカ)」シリーズがあり、「Erotika Minimale(エロティカ ミニマーレ)」と、より濃厚な「Erotika Maximale(エロティカ マキシマーレ)」が展開されている。なかでもマキシマーレについて、ドイツの香水専門店セント・アモールは「決して安っぽくはないが、挑発的である」と評しており、セルジュ・ルタンスの Musc Koublaï Khán(ムスク クブライ カーン) のような動物的なムスク系香水を思わせる、大胆な構成を持つ香りとされている。
また、パリの専門店ジョヴォワとのコラボレーションによる限定作「Cherry Prosecco(チェリー プロセッコ)」のように、既存の小売パートナーと組んだ限定リリースも行われている。これはチェリーと、シャンパンのように弾けるプロセッコの泡をイメージした、白い花を基調とする華やかな香りである。
ちなみに…
New Notesは、モロッコ風の美意識を軸とするモレスクや、アガーウッド(沈香)に特化したBlend Oud(ブレンド ウード)といった既存のイック ビューティ系ブランドとは異なり、「歴史」や「伝統」よりも、今どんな香りが生まれ得るかに目を向けている点が面白い。セント・アモールは、ニュー ノーツについて「このブランドは、香水がかつてどのように構想されていたかを説明したいのではなく、今日のニッチな香りが何であり得るかを示したいのだ」と評している。
「Z世代(ジェン・ジー)」に響くブランドとして語られることもあるニュー ノーツ。SNSで香りについて話したくなるような名前やコンセプトも、その受け止められ方の一つだ。性別や昔ながらの香調の区分に縛られず、今の自分が身につけたい香りを選ぶ。その自由さが、ブランドの掲げる「今この瞬間の香り」につながっている。
参考文献
- Erik Minati presenta Magico Safrano, la nueva fragancia de New Notes
- Rosa Limone and Osmanto Shock by New Notes – We proudly present
- Interviews (Erik Minati, New Notes)
- Our Story | New Notes 公式サイト
- New Notes exklusiv in Mainz(Parfümerie Hussong)
- Erik Minati – Art Director(LinkedIn)
- New Notes x Jovoy Paris Cherry Prosecco (2025) "Fizzy Fun"
- Hic Beauty 公式サイト
- Arabic Scents meet Italian refinement | MORESQUE(JDEED)
- The Brand | moresque shop
- New Notes – Italy's new olfactory voice between sensuality, rebellion and skin(scent amor)
- Profumi Di Nicchia | Newnotes | Italia(公式サイト)
- New Notes Joins NOBILIS GROUP(LinkedIn)
- New Notes presenta Magico Saffrano en Barcelona con Erik Minati
- Collections(ニュー ノーツ公式コレクション紹介)
- New Notes(ジョヴォワのブランド紹介)


