KUOCA(クオカ)— ファインダイニングを香りへ変えた、ソウル発フレグランスの物語

クオカのWild Peachのワイングラスを逆さにした形の瓶と、桃や香草のある洗練された食空間。美食の余韻を、肌で味わう。 ブランド創業者

「希少な素材を用い、一皿ずつ心を込めて仕上げ、顧客の五感を満たす。それがクオカの哲学です」

— キム・ジス(創設者)

KUOCA(クオカ)は、最初から香水専業ブランドとして生まれたわけではない。家族に伝わる天然化粧品のレシピを出発点に、舞台俳優の肌を支える少量生産のスキンケアへ、さらに食後の記憶のように残るボディケア、香水へと領域を広げてきたブランドである。その歩みをたどると、クオカの「グルマン」は単なる甘い食べ物の香調ではなく、素材を選び、調理し、寝かせ、一皿として供するまでの料理人の姿勢そのものを指していることが見えてくる。

クオカの歩みをたどる手がかりは、キム・ジス自身が語った舞台裏の経験と、工房から生まれた製品の変化にある。創業者の詳しい履歴や香水の制作チームにはまだ見えない部分もあるが、家族のレシピと料理への愛情が、今日の香りにつながっている。

基本情報

ブランド名: KUOCA(クオカ)。名称はイタリア語で女性の料理人・シェフを表す「cuoca(クオカ)」に由来する。ファインダイニングの厨房で一皿を仕上げるように、美をつくる。その発想がブランド名に込められている。

設立・一般展開: 2019年、ソウル・聖水洞(ソンスドン)の小さな工房から一般向けの展開を始めた。それ以前の歩みもあり、業界誌『CosmeticsDesign-Asia(コスメティクスデザイン・アジア)』の創業者取材では、2014年に著名人やVIP向けの受注生産スキンケアとして始動したと紹介されている。家族や身近な人へ届けていた製品が、2019年に広く手に取れるブランドへ育ったのである。

創設者: キム・ジス。ブランドの物語を自ら語り、日本でも創設者として紹介されている。『コスメティクスデザイン・アジア』の取材には共同創業者のベンジャミン・ユウも登場する。ユウの創業前の足跡までは詳しく伝わっていないが、鮮度を重視する製品づくりをともに進めた人物である。

発祥地: 韓国・ソウル、聖水洞。

香水ラインの開始: ブランド初の香水コレクション「Perfume Blends(パフュームブレンド)」は2025年に登場し、日本では同年10月に発売された。つまり、クオカは2019年創設のビューティーブランドであり、香水ブランドとしての本格始動は2025年である。

公式サイト: 韓国公式サイト / 日本公式オンラインストア

創設者とブランドの成り立ち

舞台の裏側から始まった物語

キム・ジスは化粧品業界の出身ではない。幼少期に偶然観たミュージカル『ノートルダム・ド・パリ』に魅了され、その後10年以上にわたってミュージカルの企画に携わっていた。彼女自身は、この舞台業界での経験が後のクオカの足場になったと語っている。

ブランドの直接的な種は、家族のひとりが趣味で作っていた天然化粧品であった。価格を優先せず、肌によいと考えた原料を選んだ手作りの処方であり、肌荒れに悩んでいたジス自身もその使用感に手応えを得たという。ミュージカル制作に携わっていた頃、厚い舞台化粧と強い照明にさらされる俳優たちへその化粧品を贈ったところ、「もう一度使いたい」という依頼が続いた。これが、家族のレシピを商品へ育てる転機になった。

「俳優たちに天然化粧品を贈ったところ、また使いたいという依頼が続きました。それをきっかけに、この化粧品について真剣に考えるようになったのです」

— キム・ジス

家庭の処方は、そこから一段ずつ商品へと育っていく。ジスは化粧品づくりの職人を訪ねて学び、研究所責任者らの助言を受けながら独自処方を整えたと振り返る。2014年には著名人やVIP向けの受注生産が始まっていたという。開始月や当時の商品名、顧客の顔ぶれまでは詳しく伝わっていないものの、舞台関係者へ贈った一本が口コミで広がっていった時期と重なる。

化粧品を「料理」と捉える

製造を学ぶ過程で、ジスは化粧品と料理の共通点に気づいた。新鮮な材料を準備し、配合し、加熱し、熟成させる。そして一度に大量につくるより、少量ずつ仕上げたほうが完成度を管理しやすい。彼女はその感覚を「ラーメンを10個まとめて作るより、1個を作るほうがおいしい」と説明している。

ここから「クオカ」という名と、ファインダイニングを化粧品に置き換える思想が生まれた。ブランドが重視したのは、単に食品由来の素材を使うことではない。シェフが市場で素材を選び、配合を見極め、最良の状態で客へ出すように、化粧品も鮮度、比率、技術、提供時点まで一続きの体験として管理する、という考え方であった。

2019年、聖水洞の工房へ

クオカは2019年、聖水洞の自社工房を拠点に一般市場へ向けて正式に展開した。外部委託先へ家族由来の処方を開示したくなかったこと、そして「製造後30日以内」の製品だけを販売する鮮度方針を守るため、自社製造設備を設けたとジスは説明している。少量を日々生産する方法は効率的ではないが、彼女は化粧品業界の既成概念に染まっていなかったからこそ、この判断ができたとも振り返っている。

「美容業界の出身ではなかったからこそ、こんな無謀な決断ができたのかもしれません」

— キム・ジス、自社製造と製造後30日以内の販売について

『コスメティクスデザイン・アジア』の取材では、当時の製品は注文を受けてから少量ずつ作られ、トリュフやチャーガ茸などが使われていたと紹介されている。共同創業者のベンジャミン・ユウが目指したのは、「鮮度」を次のビューティートレンドにすることだった。時間とともに有効成分が減るという自社の試験結果を、その理由として挙げている。試験の詳しい条件までは分からないが、最良の状態で手渡すことを大切にしていた様子が伝わる。

スキンケアから「香る肌」へ

2022年、クオカはハンド&ボディケア「Epicure Blends(エピキュアブレンド)」を発表した。顔用の「Premium Blends(プレミアムブレンド)」が高級食材そのものを発想源にしていたのに対し、エピキュアブレンドは完成した料理の味と香りを身体用製品へ移す試みである。初期の代表香は、ピンクペッパーを利かせた「Rose Cake(ローズケーキ)」と、スパイシーな「Dark Tea(ダークティー)」であった。使用感と香りの両立には2年間をかけて開発・試験したとジスは語っている。

「エピキュアブレンドは、“美食家”という名にふさわしく、料理の特別な味と繊細な香りを込めたラインです」

— キム・ジス

このラインは、後の香水にとって重要な助走になった。ローズケーキ、ダークティー、ワイルドピーチなど、まずハンドクリームやローションとして肌に定着した香りが、フレグランスタグやオードパルファムへと展開されていくからである。クオカにとって香水化は突然の業態変更というより、スキンケアで培った「香り・触感・記憶」のうち、香りを主役へ引き上げる過程だったと見ることができる。

2025年、香水ブランドとしての第二章

2025年、クオカは約1年半の開発期間を経て、初の香水ライン、パフュームブレンドを発表した。最初の3作は「Wild Peach(ワイルドピーチ)」「Grapefruit Brûlée(グレープフルーツブリュレ)」「Geisha Coffee(ゲイシャコーヒー)」で、日本では10月8日に伊勢丹新宿店で先行販売、10月22日に一般発売された。

2026年には「Matcha Latte(マッチャラテ)」「ダークティー」と、韓国近代抽象美術の先駆者・劉永国(ユ・ヨングク)の作品世界を香りへ移した「Mountain Within(マウンテンウィズイン)」を追加。同年7月には、ボディケアの代表香を再構成した「ローズケーキ」も韓国で発売され、香水の軸がより明確になった。

香水が加わったいま、クオカは自らをファインフレグランスのブランドと位置づけている。オードパルファムからハンド&ボディケアまで、根にあるのは同じ料理の発想だ。スキンケアから始まった歩みの中心に、いつしか香りが座るようになった。その変化も、このブランドの面白さである。

ブランドのこだわり

一皿のように組み立てる香り

クオカの香りづくりは、ひとつの目立つ香料を押し出すより、料理の味を重ねるように複数のノートを配置する発想に特徴がある。果汁感にハーブの苦みを添えるワイルドピーチ、柑橘にココナッツクリームを重ねるグレープフルーツブリュレ、コーヒーの酸味を花・胡椒・ウッドへつなぐゲイシャコーヒーは、その典型である。公式はパフュームブレンドを、季節、温度、感情、記憶を呼び覚まし、最初の印象から肌に残る余韻までを一皿の料理のように構成した香り、と説明している。

ここでいう「桃」「コーヒー」「抹茶」は、食材そのものだけを瓶に閉じ込めたという意味ではない。香水では天然香料と合成香料を組み合わせ、果肉の瑞々しさや焙煎の陰影といった印象を描く。クオカの各作品も、香調名から原料の産地や配合の内訳まで読み取れるわけではない。スキンケアで高級食材を用いることと、香水でその食材の香りを描くこと。料理という共通の出発点から、異なる方法で感覚に働きかけているのである。

ワイングラスを思わせるボトル

パフュームブレンドのボトルは、味覚体験という着想に合わせ、ワイングラスを模したシルエットを採用している。丸みのある上部と細く絞られた基部は、食卓と香水を視覚的に結びつける装置であり、ブランドの「嗅覚で味わう」という発想を端的に伝える。

初期のスキンケアにも、料理への目配りがあった。ボトルネックのリボンはシェフのネッカチーフを表し、箱には原料と製造日を記載。100%再生紙を使った包装も評価された。香水ボトルや現行の外箱については、デザイナー名やガラス、キャップの詳しい仕様までは分からないが、食卓の記憶を外観へ移す発想は、ワイングラスのような輪郭にも続いている。

香りをつくる人たち

香りの作り手については、まだ輪郭の見えない部分がある。香水データベースのParfumo(パルフモ)は、グレープフルーツブリュレの調香師にスージー・ル=エレの名を挙げている。ただし、クオカ自身の紹介では、そのクレジットを確かめられない。他作品を手がけた人や香料会社との役割分担、完成までの試作の数も含め、制作の舞台裏は今後の話を待ちたいところだ。

香水ラインナップ

パフュームブレンド

パフュームブレンドは、食材、料理、飲み物を題材に、トップから残香までをコース料理のように展開する中心コレクションである。Fragrantica(フレグランティカ)は2026年時点でクオカの香水を7作品登録しており、最初の作品群を2025年、最新作を2026年としている。

  • ワイルドピーチ — 野生の桃、バーベナ、ミントから始まり、ピーチブロッサムを経てホーウッドへ落ち着くフルーティ・フローラル。熟した果実だけでなく、葉やハーブの青さを添えることで「絞りたて」の輪郭をつくっている。50mL、オードパルファム。
  • グレープフルーツブリュレ — スペアミント、グレープフルーツ、ココナッツ、トンカラクトン、サンダルウッドを組み合わせたシトラス・ウッディ。明るい柑橘をミルキーな甘さで包み、「ブリュレ」の焦げた陰影を思わせる設計である。50mL、オードパルファム。
  • ゲイシャコーヒー — コーヒーを軸に、ブラックペッパー、トンカビーン、アンバーウッド、ムスクを重ねるウッディ・ムスク。ブランドはゲイシャ種コーヒーに感じられる酸味と花の印象を、温かな木質へつないでいる。50mL、オードパルファム。
  • マッチャラテ — ベルガモット、クラリセージ、カルダモン、ミントで始まり、抹茶、ミルク、ガーデニアを経て、トンカ、バニラ、ムスクへ移る。抹茶の苦みと乳白色のクリーム感を対置したウッディ・ムスクである。50mL、オードパルファム。
  • ダークティー — 紅茶、ベチバー、ガイアックウッド、カルダモン、パチョリを中心とするウッディ・スパイシー。もともとボディケアで支持された香りを、より深い濃度の香水として再構成した作品である。50mL、オードパルファム。
  • ローズケーキ — ローズとピンクペッパーの立ち上がりに、ヘーゼルナッツのクリーミーな質感、アンバーウッドの温かな残香を重ねる。2026年7月20日に韓国で発売され、既存のハンド&ボディケアから香水へ移された。50mL、オードパルファム。

マウンテンウィズイン

マウンテンウィズインは、通常の美食テーマから一歩離れた、クオカ初のアーティスト・コラボレーションである。山の本質を抽象絵画で探究したユ・ヨングクの作品世界をもとに、アルデヒド、ラズベリー、ライチの透明感から、インセンス、ラブダナム、オリス、クリーミーココアを経て、ヴァージニアシダー、バニラ、アンバー調へ至る。日本公式ではブランド初の「Extrait de Parfum(エクストラ ド パルファム)」、すなわちオードパルファムより高濃度の香料を用いた作品として紹介されている。50mL。

この一本では、料理名ではなく絵画が主題だが、「赤い山」「澄んだ空気」「煙」「木」といった視覚的・空間的要素を、素材の層へ翻訳する方法はパフュームブレンドと共通する。海外の販売店でオードパルファムと紹介されることもあるが、日本での正式な名称はエクストラ ド パルファムである。

ちなみに…

ダルバ・グローバルの2026年第2四半期決算説明では、同年7月にクオカスキンが同社などから総額146億ウォンの投資を受け、ダルバ側が約34%の持分を取得したと紹介されている。投資後も2人の創業者が経営を続け、クオカの独立したブランド運営を維持する方針だという。小さなスキンケア工房から始まったクオカが、韓国発のプレミアムフレグランスとして、次の歩みへ進んだ出来事である。

ブランドが大きくなるほど、少量生産や「厨房」の思想をどう守るのかも気になってくる。初期のスキンケアが掲げた「製造後30日以内」という鮮度方針は、香水にそのまま当てはまるものではない。香水で前に出るのは、精密なブレンドと、美食の体験を香りへ移すこと。料理にたとえる姿勢は変わらず、扱う製品に合わせて、その意味を少しずつ広げているのである。

厨房の物語は続く

ジスがどこで育ち、どの学校へ通い、どのミュージカルを手がけたのか。その詳しい足跡には、まだ見えない部分がある。共同創業者ユウの歩みや2人の細かな役割分担も同様だ。香水の作り手、香料会社、濃度や天然・合成香料の配合比、ボトルを設計した人にも興味は尽きない。今ある紹介だけでは、そのすべての顔が見えるわけではない。

それでも、クオカの物語をつなぐ一本の線は見える。舞台裏で求められた家族の化粧品が、鮮度を大切にする小さな工房へ育ち、やがて料理の味、質感、余韻を香りへ移すようになった。作るものが変わっても、よい材料を選び、手をかけ、いちばんよい状態で誰かへ届ける。その姿勢こそが、クオカらしさを形づくっている。

参考文献