Luckyscent(ラッキーセント)とScent Bar|米国の香水店の創業史と、選品・サンプル・対面接客

温かな光の木のテーブルにサンプル瓶と試香紙を配したLuckyscentとScent Barの紹介画像 香りの世界を広げる

百貨店と私たちを分けるものは、耳を傾けることと、辛抱強く向き合うことです。

フランコ・ライト、2017年

画面から香りは届かない。それでも、画面の向こうにいる人へ香水を届けることはできる。2002年にロサンゼルスで始まったLuckyscent(ラッキーセント)は、その隔たりを、小さなサンプル瓶と香水について語る言葉で埋めてきた。

実店舗の名はScent Bar(セントバー)。カウンターを挟んで好みを話し、ブランドを横断して香りを比べる。オンラインショップと実店舗は別々の商売というより、まだ知らない香水と人が出会うための、二つの入口なのである。

基本情報

  • 名称:Luckyscent(ラッキーセント)/実店舗 Scent Bar(セントバー)
  • オンライン事業創業:2002年秋
  • 実店舗1号店開業:2006年、ロサンゼルス
  • 共同創業者:Adam Eastwood(アダム・イーストウッド)、Franco Wright(フランコ・ライト)
  • 発祥:アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルス
  • 事業:ニッチ・独立系香水を中心とするオンライン販売、サンプル販売、実店舗での選品・接客
  • 公式サイト:Luckyscent

ニッチ香水とは、大量流通の香水とは異なる創作や販売のあり方を持つ香水を指す言葉である。ラッキーセントの歴史は、米国の客がそうした香水に触れる機会を、インターネットと店の両方で増やしてきた歴史でもある。

創業者と店の成り立ち

グラフィックデザインの仕事で出会った二人

イーストウッドとライトは、ロサンゼルスのヴェニスにあったグラフィックデザイン会社で出会った。自分たちの会社を持ちたいと考えた二人は、1999年にデザイン事務所を設立。ウェブ制作と広告を手がけ、美容関連の顧客との仕事も育てていった。

当初から香水販売を職業にする計画があったわけではない。顧客のサイトをつくるなら、自分たちでも電子商取引を試してみよう。ライトが最初に考えたのは、バッグ、靴、香水を扱うラグジュアリーなサイトだった。そこからイーストウッドと話し合い、香水に絞ることになる。オンラインで見つけられなかったコム デ ギャルソンのオーデコロンも、着想の一つだった。

デザインする側にいた二人が、自分たちの関心を商品選びへ移していく。その最初の客は、意外にも身近にいた。

最初のお客さんは、私たちのFedExの配達員でした!

フランコ・ライト、2017年

2002年秋、ロサンゼルスの独立系香水を遠くへ届ける

二人の周囲には、すでに小さな香水ブランドが生まれていた。カイ フレグランス、チャイルド、セージ、サラ・ホロウィッツのクリエイティヴ・センチュアライゼーション。ロサンゼルスで出会えるこうした香りを、全米、さらに世界へ紹介できないか。それが、2002年秋に始まったラッキーセントの具体的な動機だった。

マーケティングとデザインの経験は、香水を写真と言葉で紹介する仕事にも生きた。香水の背景を伝えるコンテンツ、写真、独自の選品を組み合わせ、まだ名前を知られていないブランドに出会う入口をつくる。当時はMakeupAlleyのような掲示板や専門グループにも、香水を語り合う人々が集まりつつあった。手作業で用意するサンプル瓶は、ネット上の関心を、客の家で実際に嗅げるものへ変えていった。

美容とテクノロジーの仕事の傍らで始めたサイトは、量販市場のいつもの選択肢に飽き足らない人々に届いた。2003年にはデザイン事務所を閉じ、ラッキーセントへ専念する。副業としての実験が、本業になったのである。

2006年、オンライン専業からScent Barへ

実店舗への進出は、最初から当然の結論ではなかった。イーストウッドは当初、店舗を持つことに確信がなかった。一方、欧州の香水ブランドの中には、オンライン専業の店との取引に慎重なところがあった。実店舗を持つことは、新しい作り手との関係を開くための条件にもなった。

2006年、ロサンゼルスに最初のセントバーが開いた。現在のハリウッド店とは別の、ビバリー・ブールバード沿いの小さな場所である。その後、同じ通りのより広い店舗へ移った。ウェブでは伝えきれない瓶の姿を見せ、手に取り、客の反応を目の前で受け取る。店は、品物を置くためだけの場所ではなくなっていった。

2017年には、ダウンタウンのROW DTLAに2号店を開業した。小さなカウンターで培った対話を、もう一つの街の場所へ広げる転機だった。続いて2019年、ニューヨークのノリータ地区に出店する。西海岸から東海岸へ、オンラインで育った店の顔が広がった。

作り手との関係から生まれた15周年の香水

小さなブランドを紹介し続けることは、取扱商品を増やすことだけを意味しなかった。2018年、イーストウッドは、アンディ・タウアーの香水を米国へ紹介した頃を語っている。初期の「レール・デュ・デゼール・マロカン」は、小さな四角い瓶に、本人が印刷して貼ったラベルを付けていた。ラッキーセントは、そのような段階の作り手を客につないできた。

創業15周年には、その関係から限定作品も生まれた。ボーグ・プロフーモのアントニオ・ガルドーニとの「Noun(ナウン)」は、彼が持っていた希少なパチョリとローズ・アブソリュートの話から始まった。試作を数か月にわたり受け取りながらも、ライトが重視したのは調香師の自由だった。

調香師には、創作の自主性を持っていてほしいのです。

フランコ・ライト、2018年

小売店の記念品であっても、店が完成形を細かく指定するのではなく、作り手の表現を客へ届ける。その姿勢は、出来上がった香水を選ぶ仕事ともつながっている。

2025年の資本参加と、2026年のブルックリン店

長く二人で育ててきた会社にも、資本面の転換が訪れた。2025年11月、投資会社Monogram Capital Partnersによる過半数株式取得が報じられた。取引の完了は同年1月。2023年に別の投資会社から提案を受けたことが、外部資本を検討するきっかけになった。

目指したのは、組織と米国内の店舗網を育てることだった。人材や運営体制を整えながら、対面で時間をかける接客をどう維持するか。拡大期には、その仕事自体が問われる。創業者たちは、人に向き合う体験が店舗の成功を支えており、成長後も不可欠だという考えを示している。

2026年にはブルックリンのウィリアムズバーグにも店が加わった。4月24日の開業前報道は、従来のノリータ店と比べ、客が自分で瓶を手に取りやすい配置と、イベントのための広さを伝えている。香りのカテゴリーで選ぶ考えを残しつつ、空間の使い方は一店舗ごとに変わっている。

LuckyscentとScent Barの年表

年 出来事
1999年 イーストウッドとライトがデザイン事務所を設立。
2002年秋 香水専門のオンラインショップLuckyscentを創業。
2003年 デザイン事務所を閉じ、香水事業に専念。
2006年 ロサンゼルスに実店舗Scent Barの1号店を開業。
2017年 ROW DTLAに2号店を開業。創業15周年の協働企画も展開。
2019年 ニューヨークのノリータに出店。
2025年 Monogramによる過半数株式取得。1月に取引完了、11月に報道。
2026年 ブルックリン店が加わる。10月時点の公式掲載は4店舗。

選品と、客を香水につなぐ仕事

珍しさだけでなく、品揃えの中での役割を考える

初期には欧州を旅し、独自のブランドや香水を探した。やがて紹介の経路は、オンライン、SNS、客からの情報、ブランド自身の応募へと増える。2022年にイーストウッドが説明した選品では、ライトが最初に検討し、店頭スタッフも意見を出していた。実際に客へ紹介する人自身が、そのブランドに関心を持てることを大切にしていたのである。

物語に惹かれ、香りを確かめる。ただし、魅力的な物語と珍しい香りがあれば、自動的に採用されるわけではない。ライトは、コンセプト、香りの特徴、価格、流通、客の動向、希少性、人気などを合わせて考えると説明する。

これは必要だろうか。すでに同じようなものを売っていないだろうか。

フランコ・ライト、2022年

さらに、オンラインと店頭でそれぞれどう受け止められるかも考える。一つのブランドだけを見るのではなく、店全体でどんな香りの世界を用意できるかを考える選品である。利益率だけを決め手にしない場合もあるという。無名であること自体を価値にするのではなく、客に紹介する意味を見極めている。

ブランドの棚を越えて、香りを比べるカウンター

セントバーでは、香水をブランド別だけで囲い込まず、香りの特徴でまとめる。たとえばバニラやレザー、インセンスを探す人は、異なる作り手による表現を同じ流れで比較できる。カクテルバーで酒の種類ごとに瓶が集まっているように、客の関心から棚を案内する考え方である。

ここではスタッフに、複数のブランドを横断する知識が求められる。名前を一つすすめて終わるのではなく、客の言葉を聞き、反応を受けて次の候補を考える。ブランド名をまだ知らない人にも、好きな香りを出発点にできる売場である。

2026年のブルックリン店も、肌にのせ、時間とともにどう変わるかを確かめるよう案内している。香水を並べる順序と、客が判断するための時間。その両方を設計することが、対面の店の仕事になっている。

サンプルは、店から離れて考えるための時間

ラッキーセントのサンプルは、香水を買う前の付属サービスにとどまらない。遠方の客へ店の一部を運び、家で試す機会をつくる仕組みである。2022年、イーストウッドは、瓶への充填、ラベル貼り、在庫管理を自分たちで行う労力も説明していた。扱う香水が増えるほど、その小さな瓶を用意する仕事も複雑になった。

現在の公式サイトには、テーマ別のサンプルセットに加え、スタッフ名を冠した選集も並ぶ。「Fragrance Fitting(フレグランス・フィッティング)」では、使いたい場面、好き嫌い、関心のある香りなどを伝えると、セントバーのスタッフが6種類を選ぶ。質問への回答を人が読み、選品するサービスである。

自分で候補を決める方法と、誰かの選び方を借りる方法が並んでいる。全商品を把握することが難しくても、そこから香水の世界へ入っていける。選択肢を増やすだけでなく、その中を進む道筋を用意している点に、ラッキーセントらしさがある。

彫刻家の経験を、香水を伝える言葉へ

店の仕事は、動画を通じても外へ広がった。スティーヴン・ゴンタルスキー(Steven Gontarski)は彫刻の仕事を経て、2009年にセントバーの仕事へ移った人物である。創業者たちとともに、香水について率直な印象を動画で伝える方法を考えた。

彼の背景には、美術作品から何を感じ、何を考えたかを言葉にする講評の経験があった。美術を教え、講義をした経験も、カメラの前で話す助けになった。香料の一覧を読み上げるだけでなく、作品が自分に何を起こしたかを説明する。その経験が、香水を語る仕事にも生きている。

店頭の会話を知る人の声を、訪れられない人も聞ける。公式サイトには動画とポッドキャスト「It’s Just Perfume」への入口がある。旅の予定がなくても、店がどんな香水に関心を持ち、どんな言葉で伝えるのかに触れられる。

現在の店舗と、日本から利用する入口

2026年10月時点で、公式サイトが案内するセントバーは次の4店舗である。所在地や営業時間の最新情報は各店舗の公式案内で確認できる。

  • Hollywood:7405 Beverly Blvd., Los Angeles, CA 90036
  • DTLA:777 S. Alameda St., Los Angeles, CA 90021
  • NYC:244 Elizabeth St., New York, NY 10012
  • Brooklyn:663 Driggs Avenue, Brooklyn, NY 11211

日本は現在、公式の配送可能国リストに含まれる。サンプルや香水を検討する際は、各商品の販売・配送条件と、公式のカスタマーサービス案内を確認したい。送料や通関などの条件は変わり得るため、ここでは一律の料金を示さない。

ラッキーセントがつくってきたのは、米国で手に入りにくい香水を集める場所と、それを自分の関心へ引き寄せる仕組みである。写真と言葉から入り、小さな瓶で確かめ、必要なら人の提案を借りる。その往復には、知らない香りを、知らないまま遠ざけておかないための工夫が積み重なっている。

参考文献