汗のようなにおいへの敏感さに、「偽遺伝子」の働く型が関わる?

汗のようなにおいへの敏感さに、「偽遺伝子」の働く型が関わる? 香りの科学

汗のようなにおいを持つイソ吉草酸に、とても敏感な人がいます。2007年の研究は、この違いの一部がOR11H7Pという嗅覚受容体の遺伝子と関連することを示しました。興味深いのは、当時「偽遺伝子」として登録されていたこの遺伝子にも、人によっては受容体として働く型があったことです。

研究では、人の検出閾値と遺伝子を比較し、さらに細胞の実験でイソ吉草酸への応答を確認しました。同時に、特定のにおいだけへの敏感さとは別に、複数のにおいにまたがる感度のつながりも見つけています。

「偽遺伝子」でも、全員が同じ型とは限らない

嗅覚受容体は、においの分子を受け取り、神経への信号の出発点になるタンパク質です。その設計図である遺伝子に、タンパク質作りを途中で止める変化などがあると、十分に働く受容体を作れないことがあります。

今回注目したのは、受容体を作れる型と、作れない型の両方が人の集団に存在する遺伝子でした。「偽遺伝子」というデータベース上の名前だけでは、一人ひとりが持つ型の働きまで決まらないのです。研究者たちは、この違いがにおいの検出感度と結びつくかを調べました。

四つのにおいを、どこまで薄くしても検出できるか

イスラエルで募集した参加者のうち、DNAを利用できた377人について遺伝子と嗅覚を解析しました。測ったのは、イソ吉草酸、酢酸イソアミル、L-カルボン、シネオールの検出閾値です。ただしシネオールは、無作為に選んだ200人の部分集団で測定しています。

試験では、においを含むペン型の器具を、三つの選択肢から選びました。試料は鉱油中で十倍ずつ薄めた五段階です。約3秒ずつ鼻先で提示し、四回続けて正しく選べる濃度を手掛かりに閾値を決め、直前の薄い濃度でも再確認しました。82人は1〜4週間後に再検査を受け、測定の再現性も調べています。

遺伝子側では、最初の52候補のうち、測定品質や型の頻度の条件を満たした43か所を解析しました。四つのにおいとの組み合わせは計172通りになるため、多数の比較による偶然の関連を減らす補正も行っています。

高い感度と結びついたOR11H7P

明確な関連が出たのは、OR11H7Pの型とイソ吉草酸の検出閾値でした。特に感度が高い人の中では、働かない型を二つ持つ人が少なく、少なくとも一つは働く型を持つ人が多くなっていました。この関連は、多重比較の補正を通過しています。

ここでいう「敏感」は、薄いイソ吉草酸の存在を検出しやすいという意味です。においをどれほど嫌うか、他人の体臭をどれほど気にするかを評価した研究ではありません。また、実際の汗や体臭は多数の分子の混合物なので、この単一分子の結果と分けて考える必要があります。

OR11H7Pの型が説明したのは、この集団のイソ吉草酸の閾値のばらつきの約8%でした。一つの遺伝子だけで感度が決まるというより、個人差を作る要素の一つが見つかったという結果です。

働く型の受容体は、細胞でもイソ吉草酸に反応した

人のデータに関連があっても、その受容体が本当にイソ吉草酸を受け取れるかは、別に確かめる必要があります。研究者たちは、アフリカツメガエルの卵母細胞にヒトの受容体と信号伝達に必要な仕組みを発現させ、におい刺激に対する電流の変化を測りました。

働く型のOR11H7Pを発現させた細胞は、イソ吉草酸に応答しました。一方、途中でタンパク質作りが止まる型や、比較用に選んだ三つの別の嗅覚受容体では、同じ条件の特異的な反応は見られませんでした。

近隣にあるOR11H4とOR11H6も、イソ吉草酸に反応しました。OR11H7Pの働く型は平均の反応が大きかったものの、この三つの受容体同士の反応量の差は有意ではありません。イソ吉草酸を受け取る仕組みには、よく似た複数の受容体が関わる可能性があります。

この細胞実験で反応を確認した濃度は、人が薄いにおいを検出する条件より高いものでした。溶液中の細胞と、空気の流れや粘液を伴う人の鼻では、刺激の届き方も異なります。細胞実験は受容体と分子の対応を支える証拠であり、鼻の感度をそのまま再現する測定とは区別されています。

四つのにおいの感度にも、共通する部分があった

もう一つの重要な発見は、四つのにおいの検出閾値に、どの組み合わせでも有意な相関があったことです。一つのにおいに敏感な人が、ほかのにおいにも敏感である傾向があり、複数のにおいに高い感度を示す人は、各感度が無関係だと仮定した場合より多く見られました。

それでも、全体的な感度を統計モデルに加えて調整した後も、OR11H7Pとイソ吉草酸の関連は残りました。特定の分子の受け取り方に関わる違いと、いくつかのにおいに共通する感度の違いが、重なって存在すると考えられます。

著者らは、受容体から先の信号伝達や脳での処理、環境への曝露などが、共通する感度に関わる可能性を挙げています。今回、その共通機構を担う遺伝子を特定したわけではありません。同じ人の再測定でも閾値は変動しており、感度を一回の数値だけで固定的に捉えないことも大切です。

まとめ

イソ吉草酸に高い感度を示す人では、OR11H7Pの働く型を持つ人が多く、その型の受容体は細胞でもイソ吉草酸に応答しました。偽遺伝子として登録された場所にも、個人によって機能する型があり、においの感じやすさと結びつくことを示した研究です。

一方、四つのにおいの感度には共通する部分もあり、OR11H7Pだけでは大半の個人差を説明できませんでした。近くにある別の遺伝的変化の寄与も残るため、著者らは、特定の受容体と嗅覚全体に関わる複数の仕組みから感度を理解する必要があると結論づけています。

研究は米国NIH、Crown Human Genome Centerなどの支援を受け、著者の一人はイスラエルの科学・文化・スポーツ省の研究奨励金を受けています。著者らは利益相反なしと申告しています。

参考文献

Menashe I, Abaffy T, Hasin Y, et al. Genetic Elucidation of Human Hyperosmia to Isovaleric Acid. PLOS Biology. 2007;5(11):e284. doi:10.1371/journal.pbio.0050284.