青葉や草を思わせる香りも、濃くすれば心地よさが増すとは限りません。青葉アルコールという1種類の成分を比べた2002年の研究では、10%よりも0.1%の試料のほうが、多くの参加者に好まれました。
同時に測った脳波の指標にも、濃度による違いが見られました。ただし測っていたのは、香りを嗅ぎながら音を聞き分ける課題への脳応答です。香りの快さを調べるとき、成分名だけでなく、濃度と本人の好みを確かめる重要性が見えてきます。
青葉の香りを、成分・混合・濃度から調べる
この研究が扱った「グリーンオドー」は、葉から感じる青々とした香りに関わる、炭素が6個のアルコール類とアルデヒド類です。代表例として、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、別名「青葉アルコール」と、(E)-2-ヘキセナール、別名「青葉アルデヒド」が含まれます。
研究の目的は、こうした8成分が人の脳波の指標にどう関わるかを、単独、2成分の混合、そして濃度の違いから調べることでした。自然の葉の香りは混合物なので、混ぜることで反応が強まる相乗効果があるかも検討しています。
最初の実験では8成分と28通りの2成分混合を広く比較し、次の実験では青葉アルコール1成分に絞って、濃度、快さ、脳応答を詳しく比べました。
P300は、音に注意を向ける課題の応答
測定したP300は、出来事に対応して現れる脳の電位変化の一つです。この実験では、1,000Hzと2,000Hzの音を、それぞれ80%と20%の割合でランダムに鳴らしました。参加者は、出現頻度の低い2,000Hzの音を聞いたときにボタンを押します。
こうした課題は「オドボール課題」と呼ばれます。研究チームは、少ないほうの音に対応する脳応答を、雑音などを除いた20回分で平均しました。香りの提示中と、無臭の溶媒だけの条件で、その波の振幅がどう違うかを比べたのです。
参加者は目を閉じて座り、試料を染み込ませたろ紙を鼻先約2cmに置きました。したがって、P300はにおいの到着そのものへの直接的な嗅覚応答ではなく、香りのある状況で行う聴覚課題への応答として読みます。
8成分と混合物では、確かな相乗効果は見つからず
実験1には、18〜22歳の健康な女性128人が参加しました。39人は単独成分、89人は2成分混合を調べる実験に割り当てられました。単独成分は0.03%の溶液とし、混合ではその溶液を等量ずつ組み合わせています。溶媒にはクエン酸トリエチルを使いました。
青葉アルコールや(Z)-3-ヘキセナールではP300が小さくなる例があり、青葉アルデヒドでは大きくなる例がありました。ただし、一つの成分や混合物を調べた人数はおおむね2〜7人と少なく、全体をまとめた検定では、単独成分でも混合物でも有意な関連は認められませんでした。
著者らは成分ごとの増減傾向を記述していますが、これだけから、ある成分を「落ち着かせる」、別の成分を「活動的にする」と確定的に分類することは難しい結果です。2成分を混ぜた場合にも、期待していた明確な相乗効果は示されませんでした。
青葉アルコールは、低濃度のほうが好まれた
実験2には、同じく18〜22歳の健康な女性34人が参加しました。P300を特定できなかった3人を除き、31人を解析しています。青葉アルコールの0.1%、10%、無臭の溶媒を比べ、脳波の測定後に、強さや快さ、香りの印象を尋ねました。
結果は、0.1%のほうが10%より有意に快いというものでした(p<0.01)。31人の内訳は、低濃度を好んだ人が26人、同程度と評価した人が2人、高濃度を好んだ人が3人です。
つまり、同じ分子でも濃度で心地よさが変わり、しかも好ましい濃度には個人差がありました。ここでの0.1%と10%は、ろ紙に付けた溶液中の重量濃度です。鼻へ届いた空気中の濃度や、部屋に置く製品の適量を表す数字ではありません。
脳応答の変化も、低濃度で大きかった
P300の振幅は、0.1%でも10%でも、溶媒だけの場合より小さくなりました(いずれもp<0.01)。さらに、低濃度の0.1%のほうが、高濃度の10%より振幅が小さく、減少が大きい結果でした(p<0.05)。
このため、濃い試料ほど脳波の変化が大きくなる、という単純な関係ではありませんでした。快さの評価と合わせると、より快いと感じられた低濃度で、聴覚課題へのP300がより小さくなっています。
個人ごとにも、好みと振幅の関係を探索しています。低濃度を好んだ26人のうち20人は、低濃度でP300がより小さくなりました。また、高濃度を好んだ3人は全員、高濃度でP300が小さくなりました。一方、好みと振幅の向きがそろわない人もいて、人数の少ない下位集団の観察であることにも注意が必要です。
こうした結果から、著者らは、濃度だけでなく快さも脳応答の変化と関係する可能性を考えました。ただし、濃度と快さを別々に操作した実験ではないため、どちらが変化を引き起こしたかを切り分けるところまでは進んでいません。
脳波の減少を、どう受け止めるか
原著の考察では、P300の減少を鎮静的な作用やリラックスと結び付けています。しかし、この研究で直接測ったのは、音の課題中の電位変化と、においの快さなどの評価です。ストレス症状の改善や治療効果を測った試験ではありません。
P300の大きさは、課題の情報処理に関わる指標として扱われます。「小さいほど健康によい」「大きいほどよくない」といった単純なものさしにはできません。今回の確かな観察は、青葉アルコールの2濃度で快さが異なり、音への応答も異なったことです。
対象が若い女性に限られる点、最初の成分・混合の比較では各条件の人数が少ない点も、結果を広げる際の制約です。一方、同じ分子を使って濃度を変えた設計は、香りの研究で「何を嗅いだか」だけでは足りないことを示す具体例になっています。
まとめ
青葉アルコールを0.1%と10%で比べた実験では、31人中26人が低濃度を好み、全体でも低濃度の快さの評価が高くなりました。香りを嗅ぎながら音を聞き分ける課題のP300も、両濃度で溶媒より小さく、低濃度のほうが減少が大きくなりました。
一方、8成分や2成分混合の比較では、全体として有意な関連や明確な相乗効果は示されませんでした。青葉の香りを一括りにせず、成分、濃度、本人の感じ方を併せて確かめることが、香りと人の反応を理解する上で重要です。
論文では著者K. Sanoの所属が曽田香料のフレグランス研究部門と記載されています。独立した利益相反声明は確認できませんでした。
参考文献
Sano K, Tsuda Y, Sugano H, Aou S, Hatanaka A. (2002). Concentration Effects of Green Odor on Event-related Potential (P300) and Pleasantness. Chemical Senses, 27(3), 225–230. 原著論文。


