同じ顔写真でも、周囲に嫌なにおいがあると、その顔を少し不快に感じることがあります。2018年の研究では、においの種類だけでなく、顔を見るタイミングによって、その評価や脳の反応が変わるかを調べました。
結果は、悪臭の条件で顔の快さが低くなり、悪臭を嗅いでいる最中に顔を見たときには、後から見たときより脳波の一部の反応が大きくなるというものでした。何を嗅ぐかに加え、見る情報といつ重なるかも、感覚の結びつきを考える鍵になります。
香りの種類と、顔を見せる時刻を組み合わせる
研究の目的は、においと顔の提示間隔が、顔に対する快・不快の評価と、顔を見た後の脳活動にどう関わるかを直接比較することでした。単に「よい香りをつけると印象がよくなるか」を調べた研究ではありません。
29人が参加し、途中で辞退した1人を除く28人の行動データを解析しました。脳波は、雑音の多い2人分をさらに除いた26人で解析しています。参加者の年齢は18〜31歳で、事前に嗅覚の確認も行いました。
顔写真は、強い感情を表していない男女90人分です。事前の評価でも、おおむね中立的な快さと確認されていました。においは、心地よいジャスミン、不快な腐ったキャベツに似たメチルメルカプタン、比較用の清浄な空気の三条件です。
二つのにおいは、先行実験を参考に、感じる強さが近くなる条件を選んでいます。今回の評価でも、強さやなじみ深さの差は有意ではなく、快さはジャスミンのほうが明らかに高くなりました。
「嗅いでいる最中」と「嗅ぎ終わった後」の比較
においは、息を吸い始めるタイミングに合わせて3秒間提示しました。顔写真は、次の二通りのタイミングで、0.3秒間だけ見せます。
一つは、においを出し始めてから2秒後。においが続いている最中に顔が現れます。もう一つは、3秒間のにおいが終わってから1秒後。こちらでは、においの提示が終わってから顔を見ます。
論文では前者を同時提示として扱っていますが、においと顔がまったく同じ瞬間に始まるわけではありません。二つの刺激が時間的に重なっている条件です。
一人の参加者は、各顔を二度、同じにおいと組み合わせて見ました。違うのは顔が出るタイミングです。どの顔にどのにおいを組み合わせるかは参加者間で偏りを抑え、提示順も調整しました。
顔を見た後、参加者はその顔をどの程度快い、または不快と感じたかを0〜100で評価し、その試行のにおいの強さも答えました。実験中は、128チャンネルの脳波を連続して記録しています。
悪臭の条件では、顔の快さが低くなった
二つのタイミングを合わせて比べると、メチルメルカプタンの条件では、清浄な空気やジャスミンの条件より、顔が有意に低く評価されました。一方、ジャスミンと清浄な空気の間には、有意な差がありませんでした。
つまり、この実験では、心地よい香りが顔の評価を上げるというより、不快なにおいが評価を下げる結果が中心でした。
平均値を見ると、悪臭を嗅いでいる最中に顔を見た条件は47.94、においが終わった後に見た条件は49.39でした。清浄な空気では、それぞれ54.11と53.76です。変化の向きは、においの種類によって異なります。
解析でも、においの種類とタイミングの組み合わせによる違いが見られました。ただし、悪臭の条件だけを取り出した二つのタイミングの差は、有意水準には届きませんでした。「悪臭を嗅いでいる最中のほうが、顔の評価が確実に下がった」と、その比較だけで断定することはできません。
顔を見てから約0.5〜0.7秒後の脳波に違い
脳波では、顔が現れた時刻を基準に、多くの試行の信号を重ねます。こうして取り出す「事象関連電位」は、刺激の後、どのくらいの時間で反応が変わるかを見る方法です。
まず、顔を見てから約0.17秒の早い時間帯では、においの条件をまとめると、においの提示中に顔を見せたほうが、後から見せた場合より反応の振幅が大きくなりました。これは、悪臭だけに特有と確認された効果ではなく、提示タイミングによる違いです。
より遅い時間帯では、においの種類とタイミングの組み合わせによる違いが現れました。顔を見てから約0.52秒と0.71秒を中心とする二つの反応で、悪臭の提示中に顔を見たときのほうが、提示後に見たときより振幅の変化が大きくなりました。この脳波のタイミング差は有意でした。
この時間帯は、LPPと呼ばれる、感情を伴う情報の処理などに関わる比較的遅い反応に相当します。ジャスミンや清浄な空気では、同じ二つの時間帯に、有意なタイミング差は見られませんでした。
顔そのもの以外の情報も、評価に重なる
著者らは、不快なにおいと顔が重なると、周囲の不快な文脈が顔の処理へより強く関わる可能性を考察しています。嫌なにおいがある場面に注意を向ける仕組みと関連するのかもしれません。
ただし、脳波の振幅は「嫌いの量」を直接表示する数字ではありません。顔への注意や、複数の感覚を合わせる処理なども含み得ます。危険を避けるための適応的な働きという説明も、今回その行動まで検証したわけではなく、結果に対する解釈です。
実験で答えたのは、顔写真を見たときの快・不快です。その人の信頼性、性格、魅力を判定する実験でも、現実の対人関係が変わることを示す実験でもありません。
また、対象は二種類のにおいと短時間の顔提示です。脳波は、多くの電極と時間点を探索して差のある部分を選ぶ解析を使っており、結果が別の刺激や集団でも再現するかが重要になります。それでも、においと視覚の関係を調べるとき、提示の順序や間隔をそろえる必要があることが見えてきます。
研究は英国ESRCのCASE学生研究支援とUnileverの追加支援を受け、同社の社員2人が共著者です。同社の研究への関与は限定的だったと記載されています。
まとめ
不快なにおいの条件では、中立的な顔写真の快さが低く評価されました。さらに、悪臭の提示中に顔を見ると、提示が終わった後に見る場合より、顔を見て約0.5〜0.7秒後の脳波反応が大きくなりました。
顔の評価における悪臭条件内のタイミング差は、単独では有意ではありませんでした。本人の評価と脳の反応を分けて読むことも大切です。においが印象に関わる仕組みを理解するには、においの快さだけでなく、ほかの情報と出会うタイミングまで見る必要があります。
参考文献
Cook S, et al. Simultaneous odour-face presentation strengthens hedonic evaluations and event-related potential responses influenced by unpleasant odour. Neuroscience Letters. 2018;672:22–27. doi:10.1016/j.neulet.2018.02.032


