わきのにおいの一部は、皮膚から出た時点ではにおわない材料を、細菌が分解することで生まれます。その途中には、分子を切り分ける酵素の働きがあります。
2024年の研究は、皮膚にすむ細菌の一種から、これまで正体が分からなかった分解段階を担える酵素「PepV」を見つけました。さらに、この酵素は体臭を作るためだけの特別な道具ではなく、普段の栄養利用にも関わる、幅広く働く酵素らしいことを示しています。
においの材料から、強いにおいの分子が出るまで
研究の対象は、わきの皮膚にも生息する細菌、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)です。この細菌は、アポクリン腺から分泌される無臭の前駆体を取り込み、強いにおいを持つ硫黄系の分子、3M3SHへ変えます。
前駆体の名前はCys-Gly-3M3SH。難しく見えますが、ここで大切なのは、においになる部分に、システインとグリシンという二つのアミノ酸が結びついていることです。
最終段階で働くPatBという酵素は、グリシンが外れたCys-3M3SHなら処理できます。しかし、グリシン付きの材料には働けません。そこで、その前にグリシンを切り離す「はさみ」が必要になるはずでした。
材料を細胞へ取り込む仕組みと、最後ににおい分子を切り出す酵素は、すでに研究されていました。今回の目的は、その間にある未解明の段階を特定し、どんな性質の酵素が担うのかを調べることです。
細菌の中から、目的の働きを追いかける
研究チームは、ホミニス菌の細胞を壊して中のタンパク質を取り出し、性質の違いを利用して何段階にも分けました。そのたびに、前駆体を処理する働きが残っている部分を探しています。
検出には、次の段階のPatBも一緒に入れる工夫をしました。探している酵素がまずグリシンを外せば、PatBが続いて3M3SHを放出します。その生成を色の変化として測ることで、最初の酵素の働きを間接的に追跡できます。
活性のある部分に含まれるタンパク質を分析すると、PepVが見つかりました。続いて、PepVを別途作って精製し、前駆体に働くことを確かめています。単に「活性のある試料に一緒に入っていた」だけでなく、取り出した酵素の反応まで確認したのが重要です。
ただし、PepVだけでにおい分子が直接放出されるわけではありません。PepVがグリシンを外し、その後にPatBがにおい分子を切り出すという分担です。
体臭づくり専用ではなかった
PepVは、二つのアミノ酸がつながった「ジペプチド」を切る酵素です。研究チームは、体臭の前駆体以外にも、さまざまなジペプチドを与えて反応を調べました。
すると、試したL型アミノ酸を含むジペプチドには広く働きました。一方、立体的な向きが違うD型アミノ酸同士の組み合わせや、三つのアラニンがつながった分子は、今回の条件では切れませんでした。何でも分解するのではなく、二つのアミノ酸からなる材料を中心に扱う性質です。
においになる部分が付いていない、単純なシステインとグリシンの組み合わせも得意でした。濃度と反応速度から求めた触媒効率は、体臭の前駆体を処理する場合の約70倍でした。この比較は、試験管内で精製酵素を測った値です。
さらに、黄色ブドウ球菌のPepVも、同じ前駆体の最初の分解を行えました。この菌は、最後の段階を担うPatBを欠いているため、この反応ができることだけで3M3SHを作れるわけではありません。
これらの結果から、PepVは体臭専用に進化した酵素というより、細菌がさまざまな短いペプチドを利用する働きの一部として、体臭の前駆体も処理できると考えられます。反応の途中で得られるグリシンは、細菌がタンパク質や細胞壁を作る材料にもなり得ます。
大きな分子が入る「くぼみ」を調べる
体臭の前駆体には、普通のジペプチドよりかさばる部分があります。それでもPepVが扱えるのはなぜでしょうか。
研究チームは、構造がすでに分かっている近縁の酵素を手掛かりに、ホミニス菌のPepVの立体構造モデルを作りました。そこへ前駆体を配置すると、アミノ酸部分を受け取る場所の隣に、においになる大きな部分を収められそうなくぼみが見つかりました。
この説明を確かめるため、くぼみの周りのアミノ酸を置き換えました。空間を狭くする方向の変更では活性が下がり、広くする方向の変更では効率が上がる例がありました。D437Aという変更では、体臭の前駆体に対する触媒効率が約6倍になりました。
これは、分子を受け入れる空間が反応に関わるというモデルを支える結果です。「体臭が6倍になった」という人の測定ではありません。また、今回の構造は近縁タンパク質に基づく推定モデルであり、前駆体と結合したホミニス菌のPepVを直接構造解析したものではありません。
酵素の働きには金属イオンも関わり、試した条件ではマンガンイオンが最も高い活性を支えました。分子を収める形と、反応を進める化学的な仕組みの両方が必要なのです。
においの経路が分かることと、消臭できること
この研究によって、ホミニス菌が無臭の材料を取り込み、二段階で分解して3M3SHを作る経路の、欠けていた部分が具体的になりました。同時に、取り込みや最初の分解には、広く使われる細胞の機能が利用され、最後のPatBの働きが特徴的だという姿が見えてきました。
実験は、細胞抽出物や精製した酵素を中心に行われています。皮膚上でPepVを抑える製品を試したわけでも、遺伝子を取り除いて人のにおいが減ると確かめたわけでもありません。著者らは、皮膚上の環境を完全には再現できず、ほかの酵素も同じ分解に一部関わる可能性を残しています。
また、体臭にはさまざまな分子と微生物が関わります。ここで分かったのは、そのうち3M3SHへ至る経路の一段階です。においの仕組みを知る成果として読むと、過不足なく捉えられます。
研究は英国BBSRCの助成を受けています。著者にはUnileverの現社員と、研究実施時に同社の社員だった研究者が含まれ、その関係が開示されています。
まとめ
PepVは、無臭の体臭前駆体からグリシンを外し、次のPatBが強いにおいの分子3M3SHを放出できる形へ整える酵素でした。
幅広いジペプチドへの反応、別種の菌の酵素との比較、構造モデルと変異実験から、体臭づくり専用というより、細菌の一般的な栄養利用の仕組みがこの経路にも使われていると考えられます。においは、分泌物と微生物と複数の酵素がつながって生まれる。その一つのつながりを明らかにした研究です。
参考文献
Herman R, et al. Identification of a staphylococcal dipeptidase involved in the production of human body odor. Journal of Biological Chemistry. 2024;300(12):107928. doi:10.1016/j.jbc.2024.107928


