パクチーとカメムシに、同じにおい分子がある?

パクチーとカメムシに、同じにおい分子がある? 香りの科学

パクチーの香りを「カメムシみたい」と感じたことはあるでしょうか。食卓のハーブと、触るとにおいを放つ虫。ずいぶん遠い組み合わせですが、成分を調べた研究を読み合わせると、両者に同じ名前の分子が見つかります。

その一つが、(E)-2-デセナールです。虫の防御臭に関わる分子が、ハーブの葉から得た精油にもある。しかも、同じ葉でも、生のまま集めた香りと精油では、成分の顔ぶれが変わります。二つの研究から、この意外な接点をたどります。

二つの研究が、別々の目的で見つけた分子

ここで取り上げるのは、2018年のカメムシ研究と、2022年のコリアンダー研究です。二つを並べて共通成分を見るのは、この記事での比較です。研究者たちが、パクチーとカメムシを一緒に嗅ぎ比べたわけではありません。

カメムシ側の問いは、国際輸送の貨物に潜んだ虫を、放出する成分から見つけられるか。植物側の問いは、同じ品種の生葉から立つ香りと、葉を蒸留して得た精油とで、成分がどう違うかでした。それぞれの問いを追ってから、共通点に戻ってみましょう。

カメムシのにおいは、隠れた集団を探す手がかりになる?

Laura J. Nixonらが調べたのは、クサギカメムシ(Halyomorpha halys)の成虫です。越冬のために集まった個体が貨物に紛れ込むことを背景に、休眠中でも検出できる揮発成分を放つかを調べました。

研究チームは、静かに集まっている虫の周囲の空気を採取。さらに、休眠中の群と、温度や明るい時間を変えて休眠を中断させた群を用意し、容器を揺らした後に放つ成分を分析しました。

揺らして防御臭を放った群では、(E)-2-デセナールのほか、トリデカンや4-オキソ-(E)-2-ヘキセナールなどが見つかりました。休眠中の群も防御臭を出し、その反応は休眠を中断した群より起こりやすくなっていました。

これは、においを手がかりに貨物中の集団を探す可能性を示す結果です。ただし、共通して検出されたトリデカンは、ほかの生物などにもある成分。著者らは複数成分の組み合わせを見ることを提案し、背景のにおいとの区別や、実際の輸送条件での検証を課題に挙げています。

パクチーは、生葉と精油で違う顔を見せる

Sunjeet Kumarらの2022年の研究では、コリアンダー(Coriandrum sativum)の4品種を栽培し、葉を二つの方法で調べました。パクチーと呼んで料理に使う、あの植物です。スパイスの種子を分析した結果ではありません。

一方は、刻んだ生葉を容器に入れ、室温でその上の空気を集める方法。もう一方は、葉を4時間蒸留して得た精油です。混ざった成分を分けて識別するGC–MSなどの機器で、両者を比較しました。

(E)-2-デセナールが大きな割合を占めたのは、葉の精油のほうでした。4品種で15.7〜25.1%。これは分析で得た成分のピーク面積に基づく相対割合で、葉の重さや、鼻で感じる強さに対する割合ではありません。

一方、生葉から集めた成分では、青葉の香りに関わる酢酸(Z)-3-ヘキセニルが優勢でした。今回の生葉の結果表には(E)-2-デセナールは挙がっていません。つまり、この論文を根拠に「皿のパクチーから立つ香りの4分の1が、カメムシと同じ成分」とは言えません。

この研究では精油のラジカル消去活性と抗菌活性も試験し、品種による違いを報告しました。いずれも実験系での評価で、食べた人への健康効果を調べたものではありません。香りについての重要な成果は、同じ植物でも、生葉から集めた空気と蒸留精油では、成分構成が大きく違ったことです。

共通成分は、香り全体の「答え」になる?

二つの研究をつなぐと、クサギカメムシが放つ成分と、コリアンダーの葉から得た精油に、同じ(E)-2-デセナールが確認できます。「どちらもアルデヒドの仲間」という広い共通点より、一歩具体的なつながりです。

共通する食材があっても、二つの料理の味が同じになるとは限らない。香りにも、そんな見方ができそうです。今回分かったのは成分の接点で、香り全体の似方や人の好き嫌い、遺伝子との関係まで試したわけではありません。それらを知るには、成分が鼻に届く量や、人が実際に嗅いだときの反応も調べる必要があります。

抽出物とそのもとになる植物の違いは、ジャスミンの花とアブソリュートを比べた研究にも通じる話です。また、瓶の濃度と、鼻に届く濃度の違いを知ると、成分表だけでは決まらない部分が見えてきます。

まとめ

パクチーとカメムシには、実際に共通するにおい分子があります。今回の二つの原著では、クサギカメムシの放出成分と、コリアンダーの葉の蒸留精油から、(E)-2-デセナールが見つかっています。

カメムシの研究は、複数の放出成分を手がかりに、貨物中に隠れた休眠集団を探す可能性を示しました。コリアンダーの研究は、生葉と精油では成分構成が大きく異なり、品種によってその割合にも違いがあることを示しました。食材の香りを評価するときと、精油の特徴を評価するときで、見ているものを分ける手がかりになります。

同じ分子の名前が、害虫を見つける研究と、ハーブを知る研究の両方に登場する。別々の問いを追った成果が、自然界の意外なつながりを見せてくれます。

参考文献

  • Nixon, L. J., et al. (2018). Identification of volatiles released by diapausing brown marmorated stink bug, Halyomorpha halys (Hemiptera: Pentatomidae). PLOS ONE, 13(1), e0191223. DOI・原著全文。
  • Kumar, S., et al. (2022). Chemical Composition of Fresh Leaves Headspace Aroma and Essential Oils of Four Coriander Cultivars. Frontiers in Plant Science, 13, 820644. DOI・原著全文。