毎日を大きく変えなくても、自分自身へ戻る瞬間をつくることはできる。
上妻善弘(SINN PURETÉ 代表兼プロデューサー)
SINN PURETÉ(シン ピュルテ)は、洗顔や保湿の前に香りを感じる時間を置いた、日本のビューティーケアブランドである。スキンケアを一日の義務として済ませるのではなく、自分の状態へ意識を向ける習慣として捉える。その発想は、肌を整える製品から、身につける香水や髪、手もとのケアへと広がってきた。
現在の姿を理解する鍵は、既存ブランドを引き継いだクリエイティブ会社の経験にある。長く制作を支えてきた人々が運営の責任を担い、香りだけでなく、使う順序、手触り、容器までを一緒に組み直したのである。
基本情報
- 前身:2012年に展開を始めた「シン」
- 事業移管:2020年4月、アナイスカンパニーへ
- 再始動:2021年6月15日Web先行発売、同年9月1日フルリニューアル
- 再始動を担う人物:上妻善弘(代表兼プロデューサー)、泉眞史(アナイスカンパニー取締役)
- 製造販売元:アナイスカンパニー/発売元:JIMOS
- 公式サイト:SINN PURETÉ
創設者とブランドの成り立ち
制作を支えていた会社が、2020年に事業を引き継ぐ
前身の「シン」は、ジョンマスターオーガニックを手がけていた会社のもとで、自然由来の成分と日本製にこだわる化粧品として展開を始めた。実用性と機能性を備えたスキンケアが、ブランドの出発点である。
アナイスカンパニーにとって、それは突然出会ったブランドではなかった。ファッションやビューティーの制作を担う同社は、以前からクリエイティブや販促に関わっていた。取締役の泉眞史は、2021年に振り返った時点で、約10年の付き合いを持つ、愛着のあるブランドだったと語っている。
2020年4月、アナイスカンパニーが事業を引き継いだ。泉は継続の可能性に胸を躍らせる一方、自社でブランドを運営することには未知の領域が多かったと振り返る。
始めは手探り状態からスタートしたことも事実です。
泉眞史(2021年)
制作を引き受ける立場から、製品を届け続ける立場へ。自分たちだけでできることの限界に直面し、他社との関わりも広がった。移管から一年半ほどを経た2021年秋には、百貨店やアットコスメへの展開も始まっていた。表現の力を、ブランドを継続する仕組みへつなぐ過程であった。
2021年、スキンケアの入口を香りに変える
再始動では、オーガニックの良さを受け継ぎながら、原料と処方を見直した。自然由来の素材に、科学と技術、使いやすさを組み合わせる方針である。同時に、コロナ禍やデジタル化で生活が変わるなか、日常のケアを自分に向き合う時間として捉え直した。
新しい軸は「マインドフルビューティー」。ここでいうマインドフルネスとは、いったん立ち止まり、今の自分の感覚へ注意を戻すことである。慶應義塾大学の満倉靖恵教授と香りの研究を進め、スキンケアの前に香りを感じ、静かに呼吸する手順を提案した。香りを、ケアが始まる合図にしたのである。
2021年6月15日にWebで先行発売し、9月1日に本格的なリニューアルへ進んだ。
この年には、アンバサダーのSHIHOとのオードパルファム「フィグ&フィグリーフ」も7月15日に発売した。日常のケアと香りを結ぶ提案は、スキンケアの香り付けにとどまらず、身につけるフレグランスへも広がっていた。
2023年、内側へ向けた香りを自己表現へ広げる
再始動を率いた上妻善弘は、企業のブランディングやデザインのディレクションを重ねてきた人物である。シン ピュルテでも、製品とビジュアルを別々に考えるのではなく、香りを感じる体験と手に取る形を一緒に組み立てていった。
2023年11月1日に登場したシグネチャーラインでは、その方向をさらに外へ広げた。それまでの、自分へ意識を戻すための香りから、身につける人の個性を表す香りへ。開発の背景には、ブランドが行った「自信が持てるお守りアイテム」の調査で、フレグランスがコスメに次ぐ位置に挙がったことがあった。
中心となったのは「ラブ アンロック」「セルフ エンパワーメント」「オーバー ザ ムーン」の三つのオードパルファムである。同じラインには手洗いやハンドケアも加わり、その後はヘアケアへ展開した。香水を一本で完結させず、日常のさまざまな動作で香りをまとう考え方である。
現状に満足せず、ひとつずつ、こだわりのモノづくりを続けたい
上妻善弘(2023年)
上妻の言葉には、刷新したブランドを完成形として固定しない姿勢が表れている。香りを入口に新しい使い手と出会い、ケアの習慣から自己表現へ、提案の範囲を広げてきた。
ブランドのこだわり
自然由来の素材と科学を組み合わせる処方
ものづくりの方針を表すのが「ハイブリッドナチュラル」である。自然由来の原料やオーガニック認証のある原料を積極的に取り入れ、皮膚科学の視点や実用性を組み合わせる。スキンケアでは、肌に触れたときのテクスチャーも重視する。香りを感じることと、手で製品をなじませることの両方で、毎日の行為へ意識を向ける設計である。
上妻が香りに託すのも、自分の感覚へ戻るきっかけである。新しい手順をいくつも足すより、すでに行っている洗顔や保湿の時間の受け取り方を変える。この生活の組み立て方に、ブランドの香りづくりを読む手がかりがある。
ラブ アンロックに重ねた、花束と人物の記憶
シグネチャーパフュームは、香りを「目に見えないファッション」と捉える。作品の核にあるのは、感情や記憶を身につけるという発想である。
「ラブ アンロック(LOVE UNLOCK)」が描くのは、大切な人へ向ける愛情と、記憶に残るその人の面影だ。「無垢で深い愛」という花言葉を持つカーネーションを中心に、ジャスミンとローズを重ね、花束のイメージをつくった。さらにジンジャーの苦み、レザーとアンバーの深さを組み合わせている。
花の明るさだけで終えるのではなく、時間とともに姿を変える香りに、人物の記憶を託す。その選択からは、感情を製品名に掲げるだけでなく、香りの重なりで物語を組もうとする姿勢が見えてくる。
容器づくりにも生かす、クリエイティブの経験
ラブ アンロックの容器は、丸みを持つ透明なガラスに、銀色の球体のキャップを合わせている。厚みのある底部と光を映すキャップが、液体と一体となって目に入る造形である。
上妻が運営する別会社には、化粧品やフレグランスの容器製造の事業があり、そこでシン ピュルテの容器を開発してきた。既成の容器を選ぶだけでなく、形から世界観を組み立てられる自由度が、製品の表現を支えている。
協働では、香りと包装に相手の美学を移す
2025年12月には、ワイルドサイド ヨウジヤマモトと「パウダー&スモーク」を展開した。これはヘア&ボディオイルとハンドセラムに用いた香りである。
アイリスのパウダリーな甘さに、カシュメランの温かみ、サンダルウッドとパチュリのスモーキーな深さを組み合わせた。包装には黒とかすれの質感を用い、相手の「不完全さ」に宿る美学を反映した。オイルのラベルは不規則で非対称のデザインとし、一枚ずつ手で貼られている。花の香りは外箱のアイリスのグラフィックにもつながっている。香り、触れる製品、目にする包装を横断して、協働相手の世界観を形にした例である。
さらに2026年のシグネチャーパフュームでは、「熟れた感情」を題材に、果実の甘さへ影を加えるコレクションを発表した。「バナナ フォグ」はバナナとキャラメルにタバコやパチュリを重ね、「チェリー スモーキング」はチェリーリキュールの甘さにコーヒーの苦みやレザーを合わせる。感情を一色にせず、相反する印象を共存させる展開である。2026年10月に先行販売され、一般発売は10月14日を予定している。
参考文献
- 上妻善弘に聞く、マインドフルフレグランスの思想 — LIONEL
- 泉眞史:ブランド事業譲渡について/国産スキンケアブランドを抱えた理由と覚悟 — アナイスカンパニー
- 2021年9月1日のフルリニューアルと6月15日のWeb先行発売 — JIMOS
- 香りで始めるビューティールーティンとSHIHOとの香水 — JIMOS
- 香りをフックに規模拡大へ:上妻善弘の香水と容器の話 — FASHIONSNAP
- ABOUT SINN PURETE:理念・処方・ブランド名 — 公式サイト
- SIGNATURE PERFUME SERIES — 公式サイト
- シグネチャーパフューム/LOVE UNLOCK — 公式商品ページ
- WILDSIDE YOHJI YAMAMOTOとの協働 — VERSE
- WILDSIDE YOHJI YAMAMOTO × SINN PURETÉ Collaboration Collection — ヨウジヤマモト
- 熟れた感情をテーマにした2026年の新コレクション — JIMOS


