「メンズ」「レディース」という売り場の区分は、香水を選ぶときの手がかりになります。では、分類やボトルを見ず、誰かの肌についた香りだけを嗅いだときも、好みはその区分に沿って分かれるのでしょうか。
Anna Lindqvistが2012年に発表した研究は、市販香水2種類を、女性と男性それぞれの手首につけて調べました。参加者は17人。小規模な会議論文ですが、販売上の分類と、実際に嗅いだときの好みの関係を考えるための、具体的な比較です。
あえて、性別の印象が極端でない2種類を選ぶ
使用したのは、当時男性向けに分類されていたDior Higher Energyと、女性向けに分類されていたDalí Lagunaです。現在売られているすべての製品や処方を評価した研究ではありません。
この2種類は、先行研究で比較された12種類から選ばれました。どちらも好ましさの評価が高く、香りから受ける「女性的」「男性的」という印象の中間付近に位置していました。つまり、男女のイメージがはっきり対照的な2種類を比べたわけではありません。
著者が注目したのは、販売上は別々の区分に入っていても、香りの印象には重なりがあることです。先行研究では瓶に入れた香りを使っていたため、今回は肌につけても同じような傾向が見られるかを調べました。肌の匂いと香水が組み合わさることで、評価が変わる可能性を考えたのです。
目隠しをして、自分用とパートナー用を答える
香水をつける役は、ともに30歳の女性1人と男性1人でした。無香料の石けんで手首を洗い、実験時にはほかの香水や香りつきのシャンプーなどを使わないようにしました。それぞれの左右の手首に、2種類の香水を分けてつけています。
論文に記載された量は、各香水1ミリリットルです。これは、この実験で用いた条件であり、日常のつけ方を勧める量ではありません。
評価したのは20〜30歳の大学生17人で、女性9人、男性8人。香りの評価について訓練を受けておらず、原著では全員が異性愛者とされています。
参加者は目隠しをし、一つずつ手首の香りを嗅ぎました。尋ねられたのは、「自分で使いたいか」「パートナーに使ってほしいか」「つけている人は女性だと思うか、男性だと思うか」の3点です。相手を見て判断することはできません。
評価する人・つける人の男女で、明確な差は見つからなかった
自分で使いたいか、パートナーに使ってほしいかという回答について、評価する参加者の男女による有意な違いは、どちらの香水でも見つかりませんでした。そこで著者は、男女の回答をまとめて、つける人による違いを調べています。
その比較でも、同じ香水を女性の手首で嗅いだ場合と、男性の手首で嗅いだ場合との間に、使いたいかどうかの有意な差はありませんでした。パートナーに使ってほしいかという回答も同様でした。
これは、すべての人が同じ香水を好きだったという意味ではありません。また、男女の好みや肌の影響が完全に同じだと証明されたわけでもありません。今回の人数と条件では、統計的に明確な違いを検出できなかった、という結果です。
自分の好みと、パートナーへの好みはつながっていた
一方、自分で使いたいという回答と、パートナーに使ってほしいという回答には、関連が見つかりました。自分が使いたいと思った香水は、パートナーにも使ってほしいと答える傾向があったのです。
この研究の範囲では、自分向けと相手向けを、販売上の男女分類に沿って正反対に選ぶという姿にはなりませんでした。ただし、実際のパートナー同士を調べたわけではなく、相手もその香水を好むか、贈った後に使うかまでは分かりません。
つけていた人の性別を当てる課題では、正答率は条件によって約4〜7割でした。著者は、香りから相手の性別を安定して判断するのは難しかったと解釈しています。しかし、これを「香水をつければ体臭の違いが消える」と広げることはできません。香水をつけない状態との比較や、体臭成分の分析は行っていないためです。
男女以外の分類にも目を向ける
著者は、男女向けという二つの区分だけでは、すべての香水の好みを十分に説明できないと論じています。そして、香りの質、つまりどんな香りの特徴があるかによって整理する方法も考えられると提案しました。
その背景にあるのは、今回の2種類が、販売区分は異なっても、性別の印象が重なる領域から選ばれていたことです。極端に女性的・男性的と評価された香りだけを比べると、そうした重なりを捉えにくくなります。
ただし、この実験で新しい分類法の使いやすさを検証したわけではありません。ラベルを「メンズ」から「レディース」に変えて見せる操作もしていないため、表示そのものが好みを変えるかという問いへの答えではありません。
まとめ
性別の印象が中間的な市販香水2種類を肌につけて評価したところ、使いたいかどうかについて、評価する人やつける人の男女による明確な差は見つかりませんでした。自分に使いたい香水と、パートナーに使ってほしい香水には、回答のつながりがありました。
17人、2香水、つける人は各性別1人という限られた研究です。それでも、売り場の男女分類だけでは捉えきれない好みの重なりを考える材料になります。性別の区分に加え、実際にどんな香りとして感じられ、誰がどう好むのかを軸に整理する。その可能性を示した研究です。
参考文献
Lindqvist, A. (2012). How is Commercial Gender Categorization of Perfumes Related to Consumers Preference of Fragrances? Procedia – Social and Behavioral Sciences, 65, 370–374. ICIBSoS 2012会議論文。DOI: 10.1016/j.sbspro.2012.11.136 / 原著全文。原著のライセンス:CC BY-NC-ND 3.0。


