木を見ると、木の匂いは心地よくなる?

木を見ると、木の匂いは心地よくなる? 香りの科学

木の匂いを嗅いだとき、木目が見えている場合と、匂いだけが届く場合では、心地よさが違うのでしょうか。建材の匂いを評価する試験では、匂いの出所を見せずに嗅いでもらうことがあります。しかし、実際の部屋では目に入る材料も印象の一部です。

Katja Butterらが2025年に発表した研究は、木材から放出される成分と、材料の写真の両方に着目しました。調べたのは、匂いの強さ、快さ、親しみが、成分の濃度や組成、そして見える情報によってどう変わるかです。背景には、木質建材や室内空気を匂いで評価する方法を、どう位置づけるかという問題があります。

五種類の材料、八つの匂い条件

ドイツで35人が参加し、事前の匂い識別テストで基準に届かなかった3人を除く32人が、実験を最後まで行いました。年齢は18〜66歳でした。

材料はマツ、オーク、マツから作ったOSB、ポプラから作ったOSB、コルク床材です。OSBは、細長い木片を重ねて接着した板材です。このうちマツ、オーク、マツのOSBでは濃度の高低を用意し、合計八つの匂い条件にしました。

材料を温度や湿度を管理した容器に置き、そこから出る空気を袋へ集めました。袋の空気の揮発性有機化合物、つまりVOCを分析するとともに、装置から鼻へ一定の流れで提示します。一回の提示は2.5秒で、各試料を嗅ぐのは最大二回でした。

同じ人が八つの匂いを二つのセッションで評価し、それぞれの匂いについて、材料に合った写真が画面に出る場合と、関係のない数字が出る場合を比べました。順番を調整し、同じ匂いを二度評価していることは伝えていません。

写真で上がったのは、快さと親しみ

全体として、材料の写真があると、匂いはより親しみやすく、より快いと評価されました。ただし、親しみの変化を匂いごとに詳しく比べ、複数の比較による偶然の差を調整すると、明確な差が残ったのは、高濃度と低濃度のマツでした。すべての材料で同じ程度の効果が確かめられたわけではありません。

快さにも写真の有意な効果がありました。一方、写真の効果が匂いの種類によって異なるという統計的な証拠は得られませんでした。材料別の平均に大小があっても、そのまま「この材質だけに効く」とは言えません。

匂いの強さについては、写真の有無による有意な変化がありませんでした。写真を見せると匂いが薄く感じられる、という結果ではないのです。同じ強さの匂いでも、その出所が見えることで、受け止め方が変わる可能性があります。

成分の合計量だけでは、匂いを予測できない

化学分析と匂いの評価を照らし合わせると、成分の総量が多ければ強く不快になる、という単純な関係でもありませんでした。今回の試料では、テルペン類が多いマツの匂いが、全体として最も親しみやすく、快いと評価されました。アルデヒド類や酢酸の割合が大きい試料は、それより低い評価を受ける傾向がありました。

例えば、高濃度のマツは、低濃度のマツOSBよりVOCの合計濃度が六倍以上ありました。それでも、感じる強さは同程度でした。また、両者で飽和アルデヒド類の濃度は近かったのに、マツの匂いのほうが快く感じられました。ある成分だけを取り出した数字では、混ざった匂いの印象を説明しきれません。

同じ材料の高濃度と低濃度を比べると、高濃度のほうが強く感じられました。しかし、快さはマツとマツOSBでは明確に変わらず、オークでは高濃度のほうが低くなりました。濃度を変えたときの印象も、どんな成分の混合物なのかによって違っていたのです。

木材の評価に、どんな意味があるのか

著者らは、写真によって匂いの出所を理解しやすくなり、木材に対する経験やイメージまで評価へ入り込んだ可能性を考えています。マツの好ましさには、ドイツで針葉樹の木材がよく使われることや、身近な製品でテルペン類の匂いに接する経験が関係するかもしれません。ただし、これらの経験が今回の効果を生んだと直接確認したわけではありません。

この結果から著者らは、実際の建物でも木質材料を部分的に見せる設計が、匂いへの親しみや快さを高める可能性を提案しています。同時に、実験室で得た匂いの強さや快さだけを、建材の品質や室内空気の健康面の評価に結びつけることには慎重です。規制上の評価では、主観的な匂いの点数に頼るより、VOCの放出を調べることを重視すべきだと論じています。

ただし、この実験が測ったのは、短時間嗅いだあとの印象です。毎日数時間その空気の中にいる場面を想像するよう求めましたが、実際に長時間曝露したわけではなく、症状や毒性も調べていません。高濃度のマツ試料は、一部の成分が原著で参照した室内指針値を超えるように作られていました。快く感じられたことを、安全性の証拠にはできません。

また、酢酸は採取袋との相互作用や分析法の制約を受け、濃度の評価には限界がありました。対象者の地域や文化、材料の種類も限られています。複数の建材や家具が共存する部屋では、放出や吸着によって匂いの組成も変わるため、今回の試料の結果をそのまま住環境へ移すことはできません。

まとめ

木の匂いの印象は、空気中の成分だけで決まるものではありませんでした。今回の実験では、材料の写真によって快さや親しみが高まる一方、感じる強さには明確な変化がありませんでした。さらに、化学成分の合計濃度だけでも、強さや快さは予測できませんでした。

研究が示すのは、木質空間の心地よさを考えるには、成分の混ざり方と、その匂いを何の匂いとして理解するかの両方を見る必要がある、ということです。木材を見せる設計への提案と、成分に基づく健康面の評価は、それぞれ検証を進めるべき課題です。この研究から、匂いに伴う不調を思い込みと決めつけることはできません。

本研究はドイツ連邦食料・農業省の資金を、再生可能資源を扱うFNRを通じて受けています。著者らは、報告した研究に影響し得る既知の利益相反はないとしています。

参考文献

Butter, K., Hucke, C. I., Ohlmeyer, M., & van Thriel, C. (2025). The impact of visual context on the perception of wood odours. Building and Environment, 280, 113129. DOI: 10.1016/j.buildenv.2025.113129/原著全文。© 2025 The Authors. CC BY 4.0。