同じ「ラベンダーの油」として売られていても、瓶の中の成分は同じとは限りません。植物の産地や育ち方、抽出法で変わる部分もあれば、製品に仕上げる過程で別の成分が加わる可能性もあります。その違いを、化学分析でどこまで調べられるのでしょうか。
Abouelelaらが2026年に発表した研究は、エジプト市場の市販ラベンダー油4製品を比較しました。成分の測定と、たくさんの成分の違いをまとめて読む統計解析を組み合わせ、品質や真正性を評価する手がかりを探しています。
4製品を、同じ条件で分析する
研究者は、2024年9月にカイロで、4社の製品を購入しました。それぞれ3つの独立試料を、同じ準備方法と装置条件で測定しています。4製品の比較であり、12種類の製品や、市場全体を代表する大規模調査ではありません。
表示上、2製品は水蒸気蒸留、残る2製品は溶媒抽出によるものでした。原料植物の詳しい産地、栽培条件、工場での抽出条件は開示されておらず、違いの原因を完全に切り分けることはできません。
分析に使ったのは、GC–MSと呼ばれるガスクロマトグラフィー質量分析です。成分を分離して検出し、得られた信号と既存のデータベースなどを照合して、候補となる物質を調べます。今回は液体試料を直接注入するため、揮発しやすい香気成分だけでなく、比較的揮発しにくい成分も分析対象に入ります。
数字は、瓶の中の正確な重量比とは違う
この研究では、検出された各成分の信号の面積を、全体に対する割合として示しました。内部標準や成分ごとの検出感度の補正は使っていないため、結果は半定量的な相対値です。
たとえば、ある成分が「約16%」と報告されても、瓶の中身の重さの16%がその物質だと、正確に確定したわけではありません。同じ条件で測った製品同士の組成を比べる手がかりとして読む必要があります。
また、成分が多く検出されたことは、香りが強いことや、品質が高いことと同義ではありません。この研究では、人が感じる好ましさや製品の効能は測っていません。
主な香り成分の割合に、大きな幅があった
研究では、54の成分が報告されました。注目されたのは、ラベンダー油の特徴を評価するときに重要なリナロールと酢酸リナリルです。
表に示されたリナロールの相対値は、4製品で約10.9〜33.6%、酢酸リナリルは約11.0〜46.1%でした。蒸留表示の2製品では、この2成分が比較的多く、著者らは、既知のLavandula angustifolia油の組成により近いと評価しています。
ただし、2成分の割合が近いだけで、すべての品質項目に合格したとは言えません。植物の種や由来、ほかの成分、物理的な性質も合わせて見る必要があります。主要成分だけを足して数値を近づけても、元の植物油と同じものになるとは限らないからです。
ふつうと違う成分は、追加調査の手がかり
溶媒抽出表示の一方の製品では、2,4-ペンタンジオールが約16.2%と報告されました。著者らは、通常のラベンダー精油の特徴から外れる成分として、製剤の溶媒や添加物などが関わった可能性を挙げています。
もう一方では、脂肪酸やそのエステル類が比較的大きな割合を占めました。リノール酸イソプロピルや酢酸オレイルとされた成分などから、著者らは、キャリアオイルや化粧品用の配合原料による希釈・調製の可能性を考察しました。
これは、自然な成分変動だけでは説明しにくい組成を、分析から見いだしたということです。一方、物質の同定はデータベースとの照合などに基づき、すべてを標準物質で確かめたわけではありません。製造記録や追加分析を合わせずに、誰が、いつ、意図的に偽装したかまで断定することはできません。
別の原料を配合すること自体と、それを純粋な精油として表示してよいかという問題も、分けて考える必要があります。この研究は、個々の製品の安全性や、表示違反を法的に判定したものではありません。
成分の組み合わせを、統計で見分ける
研究者は、ひとつの成分だけでなく、全体のパターンも比べました。主成分分析は、多数の成分の違いを少数の軸にまとめる方法です。似た組成の試料を近く、違う組成の試料を離して配置することで、製品ごとの特徴が見えやすくなります。
この分析では、グリコール類が目立つ製品の試料が、ほかの製品から分かれる傾向が見られました。製品のグループをあらかじめ与えて比較する別の解析でも、リナロール、酢酸リナリル、脂肪族成分などが、区別に関わる特徴として挙がっています。
ただし、統計図で分かれることは、不正の判定そのものではありません。測った製品の化学組成が違うことを整理する方法です。今回の少数製品で得た区別のしやすさを、未知の製品の偽装を必ず見抜く精度に置き換えることもできません。
抽出法の違いも、無視できない
水蒸気蒸留と溶媒抽出では、取り出されやすい成分が違います。溶媒を使うと、より揮発しにくい脂質なども一緒に取り出されることがあり、抽出法の異なる製品の差を、すべて希釈や偽装で説明するのは適切ではありません。
著者らも、この違いと原料情報の不足を限界に挙げています。そのうえで、特定の成分が高い割合で現れることは、通常の植物由来の変動に加えて、製品化の過程を調べる必要があるサインだと考えています。
今後は、分析対象を広げるとともに、密度や屈折率といった物理的な指標も組み合わせることを提案しています。成分の指紋、原料と工程の情報、物理的な性質を合わせることで、より確かな品質評価に近づけます。
まとめ
カイロで購入した4製品には、主成分の比率から、通常のラベンダー精油では目立たない成分まで、大きな組成の違いがありました。GC–MSと統計解析は、そうした違いを可視化し、追加調査すべき製品や成分を絞る助けになりました。
研究の意義は、香りの印象や名前だけではわからない中身を、複数の証拠で評価する道筋を示したことです。著者らは、日常的な品質管理にこうした分析を取り入れ、製品の一貫性と消費者の信頼につなげる必要があると結論づけています。
参考文献
Abouelela, M. B., El-Taher, E. M., Shawky, E. M., & Baky, M. H. (2026). Uncovering adulteration and quality variations in commercial lavender essential oils from the Egyptian market using GC–MS and chemometrics. Scientific Reports, 16, 12735. DOI: 10.1038/s41598-026-45972-6 / 原著全文。原著:© The Author(s) 2026, CC BY 4.0。


