精油を採ったあとの水にも、価値がある?

精油を採ったあとの水にも、価値がある? 香りの科学

精油をつくるとき、目を向けやすいのは、分離して集められた香りの油です。でも、製造工程には植物の残りや水も残ります。その水を調べると、精油とは別の成分を利用できる可能性が見えてきます。

Kırkıncıらが2024年に発表した研究は、ラベンダーの精油を2つの方法で取り出し、精油の成分と、副産物として得られる水の成分を比較しました。抽出法を変えると、香りの油だけでなく、その後に残る資源の性質も変わるのかが中心の問いです。

4時間の水蒸留と、マイクロ波を使う方法

材料は、2023年夏にトルコのテキルダー県で採取されたラベンダー、Lavandula angustifoliaの花です。乾燥花100 gと水500 mLを使う、実験室規模の比較でした。

従来法では、植物と水を一緒に加熱する水蒸留を4時間行いました。もう一方は、専用装置でマイクロ波を使って加熱する方法です。10分で100℃まで上げ、その温度を30分保つ設定でした。家庭の電子レンジで精油をつくる手順を試したものではありません。

研究者は精油を分離し、副産物の水をろ過して分析しました。実験は3反復で行っています。ただし、複数の産地や収穫年にまたがる比較ではありません。ここでいう水は、研究工程から得た水性の副産物です。市販の芳香蒸留水すべてが同じ組成になる、という意味ではありません。

精油の主成分は似ていても、細部には違い

精油は、成分を分離して調べるガスクロマトグラフィーと質量分析などで評価しました。両方法とも、テルピノレンとボルネオールが大きな割合を占め、主成分の傾向は似ていました。一方、少量成分の有無や相対的な割合には、抽出法による違いが見られました。

ここでの割合は、分析装置の信号を全体に対する比率として表したものです。精油が何倍多く採れたかを示す数値ではなく、匂いの強さや好ましさの得点でもありません。人に嗅いでもらい、香りのよさを比較した研究ではありません。

植物の成分は、産地、収穫時期、部位、抽出条件などで変わりえます。今回の主成分を、あらゆるラベンダー精油の代表値として扱うことはできません。研究の価値は、同じ材料を違う方法で処理し、精油と副産物の両方を見た点にあります。

残った水には、フェノール性成分がある

水の分析では、フェノール性成分や、その一群であるフラボノイドに注目しました。これらは植物に含まれる成分のまとまりで、精油に集まる揮発性成分とは違う側面を見ています。

総フェノール量の測定値は、従来法で約1.78、マイクロ波法で約3.28 mg GAE/gでした。GAEは、没食子酸という基準物質ならどのくらいの反応に相当するかを表す単位です。水の中に、その量の没食子酸そのものが入っていたという意味ではありません。

総フラボノイド量も、マイクロ波法のほうが高い値でした。著者らは、細胞が壊れて成分が出やすくなることや、加熱時間の短縮によって熱による分解が抑えられることなどを、理由の候補として挙げています。今回、それぞれの仕組みの寄与を独立に確かめたわけではありません。

さらに、液体クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせ、32の対象項目について個別に調べました。検出されないものもあり、「32種類すべてが水に残っていた」という結果ではありません。

両方法で目立った成分のひとつは、プロトカテク酸でした。ただし、個々の成分がすべてマイクロ波法で多くなったわけではありません。たとえば、アピゲニンやルテオリンはマイクロ波法で高く、p-クマル酸は従来法で高い値でした。目的とする成分によって、望ましい工程が違う可能性があります。

抗酸化試験の数値は、何を示す?

水の試料は、DPPH、ABTS、CUPRACという3つの方法でも調べました。いずれも、特定の化学反応に対して試料がどの程度働くかを見る、抗酸化能の試験です。

3つの試験すべてで、マイクロ波法の水は従来法より高い値を示しました。たとえばDPPH法では、基準物質トロロックスに換算した値が、従来法で約5.60、マイクロ波法で約7.62 mg/gでした。条件をそろえた化学試験の中で、反応性に違いがあったことを示します。

これは、水を肌につけたときの効果や、飲んだときの健康への働きを測った結果ではありません。皮膚での刺激、保存中の微生物の増殖、製品にした際の安定性なども、この実験だけではわかりません。成分が残っているという発見は、利用に向けた出発点です。

短い工程は、そのまま環境負荷の低さになる?

マイクロ波法は、今回の設定では加熱時間が短い方法でした。研究では、試薬、エネルギー、廃棄物などの観点から分析工程を評価する指標も使っています。環境面の指標のひとつでは、マイクロ波法が0.57、従来法が0.55でした。実用性を評価する別の指標でも、マイクロ波法がやや高い得点でした。

ただし、これらは評価項目を組み合わせた指標です。工場での電力消費、装置の製造、排水処理、回収した成分の精製まで含む、製品全体の環境負荷を測ったものではありません。今回、仕込む水の量は両方法で同じでした。

著者らは、抽出の効率化と副産物の利用を組み合わせることで、より持続可能な製造につながる可能性を提案しています。その実現には、どの成分をどの純度で回収でき、回収のためにどれだけ資源や費用が必要かを、製造規模で確かめる必要があります。

まとめ

ラベンダーから精油を採った後の水にも、フェノール性成分が残っていました。今回の条件では、マイクロ波を使う方法の水で、総フェノール量や化学試験での抗酸化能が高くなりました。一方、個々の成分の変化は一様ではありませんでした。

著者らは、この水を単なる廃棄物として扱うのではなく、食品や化粧品などの原料候補として、さらに検討する価値があると考えています。精油の一瓶だけでなく、水も含めて植物の成分をどう生かすか。香料づくりを、工程全体の資源利用から見直す研究です。

参考文献

Kırkıncı, S., Gercek, Y. C., Baştürk, F. N., Yıldırım, N., Gıdık, B., & Bayram, N. E. (2024). Evaluation of lavender essential oils and by-products using microwave hydrodistillation and conventional hydrodistillation. Scientific Reports, 14, 20922. DOI: 10.1038/s41598-024-71115-w / 原著全文。原著:© The Author(s) 2024, CC BY-NC-ND 4.0。