花粉を運ぶ虫といえば、ハチやチョウが目立ちます。けれども、人には不快に感じられる匂いの花を訪れ、植物の繁殖を支えるハエもいます。南アフリカの小さな花を調べた研究では、岩の上によくとまる、あまり知られていないハエが主役でした。
Annemarie Heidukらは、岩場の草地に生えるCeropegia pulchelliorの送粉を調べました。どの虫が花粉を運び、繁殖に虫が必要なのか。さらに、匂いや色、蜜がどのように関わるのかを探った研究です。論文は2024年末にオンライン公開され、2025年の巻号に収録されました。
花の訪問者と、花粉を運ぶ虫を見分ける
この植物は、南アフリカの限られた砂岩地帯に生育します。地面や岩に沿って茎を伸ばし、暗い赤紫色に淡い筋のある花を付けます。同じ仲間には虫を閉じ込める花もありますが、この種の花は開いており、虫を捕らえる袋状の仕組みを持ちません。
研究者は2014年から2024年にかけての複数の開花期に、野生の集団や栽培株を観察しました。花を訪れる虫に加え、近くの岩にとまるハエも採集し、体に花粉を運ぶ構造が付いているかを調べています。
観察された訪花昆虫はハエの仲間でした。とくに重要だったのは、シマバエ科のCestrotus属です。英語で「rocksitter flies」と呼ばれる、岩の上で見られるハエで、この属が送粉を担うことは、それまで知られていませんでした。イエバエ科の一部も花粉を運んでいました。
この花の花粉は、粉がばらばらに付くのではなく、二つの塊を留め具でつないだ構造になっています。留め具がハエの口に付き、別の花の受け入れ口へ塊が差し込まれると、花粉が渡ります。採集したハエには、完全な構造だけでなく、一方の塊や両方の塊がなくなった留め具もありました。単に花に来ていたという以上の、花粉を運ぶ役割を示す手掛かりです。
ハエを遮ると、実ができなかった
虫への依存を確かめるため、15株を細かい網で覆い、虫が自由に訪れられる15株と比較しました。網で覆った株では、実ができませんでした。
ただし、虫が来られる自然の状態でも、多くの花が実になるわけではありませんでした。株ごとに求めた結実割合の平均は、調べた二つの開花期で約8%と約5%。花粉を運ぶ虫がいることと、すべての花が結実することは別です。
花から持ち出された花粉の塊のうち、花の受け入れ口に届いた割合も調べると、測定日によって大きく変わりました。著者らは、訪れるハエの種類や、同じ種の花を続けて訪れる程度が日ごとに違う可能性を考えています。
糞を思わせる匂いは、誰への合図?
4株の花から空気中へ出る成分を集め、GC–MSで分析すると、酢酸、酪酸、プロピオン酸などの脂肪酸と、p-クレゾールが主要な成分でした。少量のインドールも含まれていました。研究者は、花の匂いを新鮮な草食動物の糞に似ていると記述しています。
これらの成分は、分解中の有機物にも見られます。一方、腐肉をまねる花でよく知られる一部の硫黄系成分は、この花では検出されませんでした。著者らは、単に広くハエを呼ぶのではなく、この独特の組み合わせが、特定のハエを呼ぶ手掛かりになっている可能性を挙げています。
とはいえ、香りを取り除いたり、人工的な混合物を置いたりして、誘引を確かめた実験ではありません。Cestrotus属の食べ物や産卵場所にも不明な点が多く、花を何と見なして訪れるのかは、まだ解明されていません。
花の色を測り、既存のハエの色覚モデルに当てはめると、背景の岩と色として区別されにくい可能性が示されました。これも、実際のCestrotus属で見え方を試した結果ではありませんが、著者らは、目立つ色より匂いに頼るという仮説を支える材料としています。
まねた匂いの先には、小さな報酬もある
この花は、匂いで誘うだけではありません。56株から1花ずつ調べると、花の中心付近のくぼみに、平均約0.07マイクロリットルという、ごく少量の蜜がありました。ハエがその蜜を探る際に、口へ花粉の構造が付くと考えられます。
著者らは、蜜があることでハエの滞在や探索が長くなり、花粉を受け渡す機会が増える可能性を論じています。食べ物や産卵場所を思わせる匂いで誘いながら、実際の報酬も渡す。完全に無報酬の「だます花」とは違う、組み合わせが考えられるのです。蜜を増減させて効果を確かめる実験は、今後の課題です。
まとめ
この研究は、岩場に暮らすCestrotus属のハエが、限られた地域に生える花の繁殖を支えていることを示しました。採集されたハエの中には、まだ正式に記載されていない4種も見いだされ、植物との関係を追うことが、虫そのものの未知の多様性にもつながりました。
糞を思わせる成分の組み合わせと、ごく少量の蜜が、特定の相手を呼び、花粉を運んでもらう仕組みを作る。これが著者らの提案です。匂いのどの部分にハエが反応するのか、近縁の花も同じハエに支えられているのかを調べることで、見過ごされがちな送粉者と花の多様化を、より具体的に理解できると考えられます。
参考文献
Heiduk, A., Gaimari, S., Whittington, A., Johnson, S. D., & Shuttleworth, A.(オンライン公開2024年、巻号2025年). Rocksitter Flies (Lauxaniidae: Cestrotus) are Key-Pollinators of Ceropegia pulchellior—A Threatened and Localised South African Endemic With Foetid-Scented Flowers. Journal of Applied Entomology, 149(6), 888–900. DOI: 10.1111/jen.13392/原著全文。
原著は研究への特定の資金提供なしとし、謝辞には南アフリカNRFのSARChIによる博士研究員奨学金の支援を記載しています。著者らは利益相反なしと申告しています。原著ライセンス:CC BY-NC-ND 4.0。


