香りを嗅ぐ練習で、子どもの気づきは変わる?

香りを嗅ぐ練習で、子どもの気づきは変わる? 香りの科学

食べ物や身の回りのにおいに、よく気づく子もいれば、あまり気に留めない子もいます。毎日香りを嗅ぐ練習をすると、においを正しく当てる力だけでなく、日常で香りに目を向ける姿勢も変わるのでしょうか。

2025年、Anna Oleszkiewiczらは、ポーランドの子どもを対象に、12週間の嗅覚トレーニングを調べました。主な目的は、香りへの気づきや、生活の中で香りを大切だと感じる程度が変わるかを確かめることです。香りの正体を当てる能力と、言葉を思い出す力も、別の指標として測りました。

香りのあるペンと、ないペンで同じ練習をする

研究は130人から始まりました。2回目の測定に来なかった25人と、香り付きの群で練習の実施率が25%未満だった4人を除き、最終解析は6~9歳の101人です。香り付きの群が57人、無臭の比較群が44人でした。

初回の測定後に、子どもを二つの群へ無作為に割り当てました。香り付きの群が使ったのは、バラ、ユーカリ、レモン、クローブに対応するにおいのペン型器具。比較群には、同じ形で香料の入っていない器具を渡しました。

両群とも、一つずつ約30秒嗅ぐことを1日2回、12週間続けるよう指示されました。保護者らの協力のもと、実施するたびにポスターへシールを貼る仕組みも同じです。単に何もしない子どもと比べるのではなく、においを嗅ごうとする動作や、毎日その行動に注意を向けることを、両群にそろえた設計です。

この比較によって、日々の「嗅ぐ習慣」そのものと、実際に香りが届くことの効果を、できるだけ分けようとしました。

「気づき」と「正しく当てる力」を別々に測る

香りへの気づきや重要性は、子ども本人への10項目の質問で測りました。食べ物、身の回りの環境、人との関わりの中でにおいをどう受け取っているかを尋ね、0~20点にまとめます。鼻がどれほど薄いにおいを捉えられるかを直接測る検査ではありません。

それとは別に、12種類のにおいについて、四つの選択肢から名前を選ぶ検査を行いました。言葉の課題では、指定された文字で始まる言葉を、1分間にどれだけ挙げられるかを調べました。

無臭群の平均年齢は約7.9歳、香り付き群は約7.4歳と違いがあったため、解析では年齢を考慮しています。

香り付きの群は上がった。でも、改善の差は明確ではない

気づき・重要性の得点は、香り付き群で平均9.07から9.65へ、無臭群で10.16から10.70へ変わりました。単純な平均では、どちらも少し上がっています。

年齢を考慮した解析で、それぞれの群を別々に見ると、香り付き群の前後差は統計的に明確で、無臭群の前後差は明確ではありませんでした。しかし、肝心の「二つの群で、変化の仕方が違ったか」という検定では、明確な差が出ませんでした。

片方の群だけで有意な変化があっても、もう片方より効果が大きいことを示したとは限りません。この結果から、香りを加えたこと自体が、無臭の練習以上に子どもの気づきを高めた、と結論づけることはできません。

においの名前を当てる検査と、言葉を挙げる課題でも、香り付き群と無臭群の間で、練習前後の変化に明確な差はありませんでした。香りへの関心、においを当てる能力、言葉を出す能力が、まとめて伸びたという結果ではありません。

もともと香りに注意を向けにくい子では?

著者らは、香り付き群で小さな上昇が見られたことから、嗅ぐ練習が、香りを意識する側面に働く可能性を考えています。特に、香り付き群は開始時の気づきの得点が低かったため、もともと香りに注意を向けにくい子どもを、今後詳しく調べる対象として提案しました。

ただし、これは「開始時の得点が低い子には効く」と確かめた結果ではありません。最初から群の得点に差があり、群同士の変化の差も明確ではないため、その解釈は今後検証する仮説です。

研究者たちは、もし気づきを育てる効果が確かめられれば、学校の日常的な活動に取り入れる可能性があると考えています。香りへの注意が食べ物の選択などと関わることも、研究の動機でした。ただし、この実験では実際の食習慣や健康状態の改善を測っておらず、教育や食生活への利益が実証されたわけではありません。

測り方や、続け方にも課題が残る

においを当てる検査は、開始時から平均で12点中およそ10点でした。著者らは、嗅覚の不調を見つけるための検査では、もともと成績が良い子どもの小さな上達を捉えにくい可能性を挙げています。選択肢なしで名前を答えるなど、より難しい測り方も必要だとしています。

また、気づきの質問紙は子ども向けに改変したもので、回答の一貫性には限界があります。25人が2回目の測定を受けず、練習をほとんどしなかった子の除外は香り付き群だけで行われました。同じ学校やクラスにいることの影響も、解析で分けられていません。

そのため、より多くの子どもを追い、年齢や学校環境、開始時の状態を考慮しながら確かめ直す必要があります。嗅ぐ練習だけでなく、香りの授業やワークショップと比べることも、著者らが挙げた次の課題です。

まとめ

12週間の練習で、香り付き群の気づきの得点は少し上がりましたが、無臭群と比べて変化が大きいとは確認できませんでした。においを当てる能力や、言葉を挙げる力の改善も明確ではありませんでした。

それでも、嗅覚を育てる研究で「鼻の成績」だけでなく、生活の中で香りを意識する側面も測るという着眼点には意味があります。著者らは、特に気づきが低い子どもや嗅覚に課題のある子どもで、この側面への働きかけを確かめたいと考えています。学校で役立つ方法にするには、実際の香りが何を変えるのかを、さらに明確にする必要があります。

参考文献

Oleszkiewicz, A., Rokosz, M., Gargula, L., Marek, D., Nawrocka, P., Reichert, A., Zienkiewicz, K., Zyzelewicz, B., & Sorokowska, A. (2025). Olfactory training and metacognitive aspects of olfaction in children aged 6–9 years: a preliminary study. Psychological Research, 89, 100. DOI: 10.1007/s00426-025-02127-y / 原著全文。

原著のライセンス:CC BY 4.0。© The Author(s) 2025。