コーヒー豆の保存温度で、淹れた香りは変わる?

コーヒー豆の保存温度で、淹れた香りは変わる? 香りの科学

コーヒー豆の袋を開けてから飲み切るまで、香りはどのように変わるのでしょうか。豆の香り成分に変化があっても、実際に淹れた一杯で、同じように感じられるとは限りません。

2024年、Magdalena Gantnerらは、開封後の豆を5℃と20℃で1か月保存し、揮発成分の変化と、エスプレッソ・水出しで淹れたときの香りや味を調べました。研究の目的は、保存温度、コーヒーの種類、抽出方法が、豆の成分と飲んだときの感覚にどう関わるかを確かめることでした。

開封後の豆を、二つの温度で1か月保存

使ったのは、アラビカ100%、ロブスタ100%、アラビカ80%・ロブスタ20%のブレンドという3種類の市販の焙煎豆です。研究開始まで未開封で室温保存し、焙煎から1か月後に袋を開けました。その直後を基準として測定し、残りを密閉した袋に分け、約5℃の冷蔵条件か約20℃の室温条件で、さらに1か月保存しました。

したがって、論文でいう「保存前」や「0日目」は焙煎直後ではなく、工場包装を開けた時点です。また、1か月保存したのは豆であって、淹れたコーヒーではありません。開封後に家庭などで保管する期間を取り上げた実験です。

まず、豆から出る揮発成分を、高速ガスクロマトグラフィーを使う「電子鼻」で分析しました。測定は各条件で3回行っています。次に同じ保存条件の豆を使い、抽出した飲料を訓練された評価者が調べました。香り、口に含んだときの風味、味、渋み、厚み、総合的な官能品質など、30項目を評価しています。

官能評価では、各試料を2回ずつ評価し、延べ18評価の平均を求めました。この18は評価の回数で、18人が参加したという意味ではありません。

成分は単に減るのではなく、構成が変わった

分析では、3種類を通じて44種類の揮発成分が報告されました。アラビカでは41種類、ロブスタでは34種類、ブレンドでは44種類です。これは使用した分析法で捉えた範囲で、コーヒーの香りを作る成分をすべて数えたものではありません。

1か月の保存後には、どちらの温度でも成分のプロフィールが変化しました。例えば、焙煎したコーヒーに含まれるフラン類の一つ、2-フランメタノールの割合は保存後に増えましたが、その増え方は5℃のほうが小さくなっていました。アルデヒド類などにも保存温度による違いがあり、著者らは全体として、低温保存が変化を抑えると結論づけています。

ここで測っているのは、分離された各成分のピークが全体に占める相対的な割合です。ある成分の割合が増えても、その成分の絶対量が増えたとは限りません。他の成分が減ることでも割合は変わります。今回の結果は「香りの総量が何%残った」という保存率ではなく、香りを構成する成分のバランスの変化を示しています。

水出しでは、低温保存の豆が開封直後に近い傾向

水出しは粗く挽いた豆に水を加え、5℃で24時間抽出し、濾過して作りました。飲むときの評価温度も約5℃です。豆の保存温度と、飲料を抽出・評価するときの温度は、それぞれ別の条件です。

20℃で保存したアラビカとロブスタの水出しでは、開封直後や5℃保存の試料より、煙のような香りと土っぽい香りが強く評価されました。例えばアラビカの煙のような香りは、0~10の尺度で、開封直後の1.81に対し20℃保存では3.35、5℃保存では1.64でした。

多くの評価項目をまとめて、試料同士の似方を図にする主成分分析でも、5℃で保存した豆からの水出しは、開封直後の試料に比較的近いプロフィールでした。20℃保存のものは、別の特徴を持つ位置に分かれています。著者らは、水出しでは低温保存が元の香りや味の特徴を保つうえで役立ったと解釈しました。

ただし、低温保存の試料がすべての項目で変わらなかったわけではありません。例えば、5℃保存のアラビカでは甘い香りの評価が開封直後より低くなっていました。また、全体のにおいの強さには試料間で明確な差がありませんでした。保存の影響は、香りが一様に弱くなるという形だけでなく、個々の特徴の組み合わせとして表れています。

エスプレッソでは、低温でも保存前と同じにはならない

エスプレッソは、自動コーヒーマシンで20gの豆から計80mLを抽出し、約60℃で評価しました。こちらは5℃・20℃のどちらで保存した豆でも、官能プロフィール全体が開封直後とは異なる傾向でした。保存温度が違う二つの群は、互いに似た特徴を示しています。

変化には、酸味やラム酒を思わせる風味が強まる傾向などが含まれました。ただし、すべての豆で、すべての項目に差が出たわけではありません。総合的な官能品質には、試料間で統計的に明確な差は示されませんでした。プロフィールが変わることと、全体として品質が下がることは、この結果では分けて考える必要があります。

抽出法そのものによる違いもありました。開封直後の豆を使った比較では、エスプレッソはコーヒーらしさや焙煎・煙・チョコレートに結びつく特徴、水出しは甘さや果実・ラム酒を思わせる特徴と関連していました。ただし、挽き方、抽出時間、抽出温度に加え、飲むときの温度も違うため、どれか一つだけの効果としては切り分けられません。

保存の評価は、淹れるところまでつなげる必要がある

著者らは、低温では化学反応や成分の変化が抑えられることが、香りを保つ一因になり得ると説明しています。ただし、この研究で個別の反応速度や酸化の進み方を直接測ったわけではありません。

研究の重要な点は、豆の分析だけで保存を評価せず、抽出した飲料の感覚までつないだことです。同じように保存された豆でも、水出しでは元に近い特徴が保たれ、エスプレッソでは違う形で変化が表れました。保存温度の良し悪しは、どの飲み方で、どの香りや味を保ちたいかまで含めて考える必要がある、というのが著者らの議論です。

その一方、分析した揮発成分は豆から出るもので、飲料中の成分を同じように測ったわけではありません。著者らは、次に豆と抽出した飲料の両方を分析することで、開封後の保存が一杯の香りへどうつながるかを、より詳しく説明できると提案しています。

家庭の保存法に、そのまま置き換えられる?

今回の比較は、3種類の市販試料を密閉して1か月保存したものです。豆の産地や詳しい焙煎条件は提供元から得られておらず、あらゆる品種や焙煎度に当てはまるとは限りません。また、袋を日々開け閉めする、冷蔵庫から何度も出し入れする、冷凍する、といった条件は比較していません。

評価者は訓練されたパネルなので、一般の飲み手がどれを最も好きかを直接調べた結果でもありません。ここから家庭での最適な保存温度や保存期間を一つに決めることはできませんが、開封後の保存を、抽出法と一緒に調べる具体的な根拠にはなります。

研究はポーランド科学・高等教育省の研究資金により、ワルシャワ生命科学大学の研究所を通じて支援されました。著者らは利益相反なしと申告しています。

まとめ

開封後のコーヒー豆を1か月保存すると、5℃でも20℃でも揮発成分のバランスは変わりました。低温保存は変化を抑える傾向があり、とくに水出しでは、開封直後に近い香りや味のプロフィールが保たれました。一方、エスプレッソでは低温保存でも、開封直後と同じプロフィールにはなりませんでした。

著者らが示したのは、保存温度だけで一杯の香りが決まるわけではなく、豆の種類と淹れ方までが結果に関わるということです。香りをどう保てたかを知るには、保存した豆の成分と、その豆から実際に淹れた味わいを、続けて評価することが大切になります。

参考文献

Gantner, M., Kostyra, E., Górska-Horczyczak, E., & Piotrowska, A. (2024). Effect of Temperature and Storage on Coffee’s Volatile Compound Profile and Sensory Characteristics. Foods, 13(24), 3995. DOI: 10.3390/foods13243995 · 原著全文。

© 2024 by the authors. CC BY 4.0。